ヴァンパイアカプリッチオ06
「あぁぁぁぁぁぁぁもうぅぅぅぅぅぅぅ! 頭にきますわ!」
髪をワシャワシャとシャンプーで洗いながらソル……ソルベ=ブラックモアが愚痴っていた。
「何に……だい?」
アリスは、ゆったりと、湯船に浸かっている。
あの後。
つまり、
「今夜は解散」
となった後、ソルは照ノの部屋に、居候することになった。
照ノの部屋には、照ノとアリスとソルの三人。
そして隣の教会には、クリスとトリスとジルの三人。
これには事情……というより、しがらみがある。
クリスは元より……トリスとジルも、神威装置に所属している以上、威力使徒となる。
ジルの立場については、もうちょっと複雑なのだが割愛。
そして教会としては、野良の吸血鬼を受け入れることなどできはしない。
で、あるためソルは、照ノのねぐらにお世話になることになる。
それだけでなくクリスを、
「お姉様」
と慕って、自身の眷属に迎え入れるように画策しかねないため、クリスと距離を取るという意味合いも含めている。
ちなみに……………………仮に、ジルやソルによってクリスが吸血鬼化しても、照ノの概燃や、アリスの神勁を用いれば、解決可能な事柄なのだが、問題の起点が、そこに無い以上、ソルが教会から隔離されるのは自然の流れと云える。
「わたくしはセカンドヴァンパイアですわよ? なんでアリス……あなたや照ノは鎧袖一触に出来ますの?」
シャワーで、シャンプーを洗い流しながら、不満をぶつけるソル。
アリスは風呂を堪能しながら、皮肉気に笑う。
「井の中の蛙。大海を知らず。ま、そんなところかな?」
ぶっちゃけた話、吸血鬼とは社会的弱者だ。
一神教の敵として描かれ、最後には退治される運命にある。
これは何も吸血鬼に限った話ではないのだが。
例えばスサノオに倒される八岐大蛇。
例えば聖ゲオルギウスに倒されるドラゴン。
例えばガルーダに倒されるナーガ。
例えばペルセウスに倒されるゴルゴン。
事ほど左様に、悪者は正義の味方に屈するのが、神話の特徴だ。
北欧神話のように例外もあるが基本的に、
「人類の繁栄の礎となったエピソード」
が、神話の基本スタンスであるため、最終的に人類が平和に暮らすための生贄として、悪神怪物の類は、神代の世代に滅んでいることが必定だ。
それは吸血鬼も例外ではなく、多少の食い違いは有れど、退治されて終わるという結末を以て綴られる。
実質的に四種の真祖は顕在しているのだが。
「こんな極東の辺境国家に、何故に、セカンドヴァンパイを鎧袖一触しうる戦力が、こうも集まっていますの!?」
「まぁ日本も霊国だから色々と事情が入り組んでいるのさ」
アリスは淡々と言った。
「当たり前のことを話している」
それ以上の他意はない。
「むぅ」
とソルは呻いた後、体を洗って湯船に浸かる。
アリスと共に。
それからアリスの乳房を、ふにふにと揉む。
ことわりもしなければ遠慮もない。
「アリスはおっぱい大きいですわね」
ふにふに。
「別に小さくも出来るよ?」
「いえ、おっぱいは有った方が良いですわ」
「出来れば師匠に揉んでほしいんだがね」
「男なんぞには勿体ないですわ。そうだ。アリスもカーミラお姉様の眷属になりませんこと? 歓迎しますわ!」
「謹んでごめんなさい」
やはりアリスは皮肉気だ。
「むぅ。このおっぱいが……」
ふにふに。
「おっぱい星人なの?」
「下も好きですわよ?」
「聞かなきゃよかったよ」
苦笑い。
「血を吸っても?」
「駄目」
「不老不死に成れますわよ?」
「既にその域には至っているし」
さも当然とアリス。
実際にアリスの神勁は自身の固有時間にすら、四則演算を適応できる。
概燃とは、別の意味で、不老不死の体現者だ。
「そんな無茶な術式どこで拾ってきましたの?」
「アリスにも色々と事情がありまして」
赤き土より造られたアダムカドモンとして、唯一神の持つ世界調律の力の一端を手に入れた…………というだけのことなのだが。
「アリスは吸血鬼化に対して願望を抱かないかな?」
「ですか」
「クリス……あの人をお姉様と慕っているんだよね? ならまず真っ先に襲うべきはクリスじゃないかな?」
「そうなんですけど加護の装束が厄介で」
一つの事実だ。
「さすがに寝る時間まで加護の装束を着ているはずもないと思うのだけどね」
「そういえば……」
ふむ、と呻いた後、
「では今晩にでも強襲をかけましょう」
で、結果として、
「あーうー」
ソルは簀巻きにされて、照ノの部屋の隅っこに固定された。
怪力で知られる吸血鬼を簀巻きにするにあたって、アリスの神勁による数値改竄の強化も、当然行使されている。
「鬼! 悪魔!」
「吸血鬼に言われたくはないでやんすがなぁ……」
キセルをくわえて、タバコを吸いながら、照ノはぼんやりと言った。




