ツンデリッター再臨11
さて放課後。
ホームルームが終わって、照ノはくたりと机に突っ伏した。
「パパ?」
「師匠?」
「何でやしょ?」
惚けているつもりは無かった。
照ノにとっては朝の条件なぞ忘れて久しい些事だ。
「ラブレターをもらいましたでしょう? 付き合ってください」
「以下同文」
「そんなこともありやしたなぁ」
「面倒くさい」
と顔に書く照ノ。
そもそもにして、
「憎まれ役になれ」
というのだから面白かろうはずもないが、トリスにしろアリスにしろの……お願いを無下に出来る性格でもないため、お節介とわかっていても、付き合うことに異論は無かったりする。
「場所は?」
「体育館裏」
「以下同文」
「じゃ、行きやすか」
そんなこんなで放課後の体育館裏に向かう三人だった。
待っていたのは男子と女子の混成一個旅団だった。
「あら。大モテ」
くわえたキセルを上下にピコピコ。
照ノは愚にもつかぬ戯れ事を吐いた。
「こんな大量にラブレターを貰ったんでやんすか?」
「そんなわけ」
「ないね」
「で、やしょうねぇ」
やっぱりキセルをピコピコ。
すると、こちらを認識した混成一個旅団のリーダー格が、声を大にして発した。
「天常照ノ!」
「あいあい」
「我々は貴様を糾弾する!」
「そうでやすか」
「トリスちゃんおよびアリスちゃんに纏わりつくストーカー行為の一切を改めよ!」
「そんなつもりはないでやんすがなぁ……」
むしろ纏わりついているのはトリスとアリスの方だ。
基本的に、
「好きにしやっせ」
が照ノの心情であり、特にトリスとアリスを独占しようとした過去を知らない。
が、
「即刻二人から離れよ!」
説明する義務を感じていないためこんな批判も受ける。
「というわけでやんすから後はお二人よろしくどうぞ」
そう言って場を離れようとした照ノに、
「……っ」
「……っ」
トリスとアリスが抱き付いた。
トリスが照ノの右腕に、アリスが照ノの左腕に、だ。
「パパは付き纏ってなんかいません」
「むしろアリスたちが師匠に付き纏っているね」
ぐうの音も出ない反論。
「それでいいのか君たちは!」
ほざく旅団のリーダーに、
「むしろ引きはがそうとすることに悪意を感じます」
「以下同文」
ギュッとラブラブバカップル的に照ノの腕に抱き付く双璧。
胸が押し付けられて幸せな照ノではあったが、
「まぁ今更」
と枯れている。
さすがに二千年以上生きているだけあって年相応には冷静なのだ。
無論のこと不能と云うわけでも……また無いが。
「トリスちゃん! アリスちゃん! 君らは騙されている! 今すぐその蒙昧から覚めよ!」
「パパぁ」
「何でやしょ」
「鏖殺していいですか?」
「特に止めはしやせんが。クリス嬢に怒られやすよ? しかもかなり本格的に」
「異教徒相手だから許してもらえると思うんですよね」
「一応聖ゲオルギウス学園はミッションスクールなんでやすがね」
「でもそれは教会協会の都合で造っただけで日本人に信仰心を求めるような校風じゃないでしょ?」
「かと言って魔女狩り焼き討ち踏絵等の行為に正義があるとは思えやせんが……」
「パパは優しいね」
「微妙に会話が会話になっていやせんね。小生ら……」
「師匠としてはどうなんだい?」
「好きにしやっせ」
他に無い。
少なくとも単純に、
「煩わしいだけ」
というのが本音だ。
「というわけでやして」
照ノはキセルをピコピコ。
「トリス嬢にアリス嬢は小生にラブラブでやんすから諦めてくださいやっせ」
「トリスちゃん同盟とアリスちゃん会議の不文律に抵触する越権行為だぞ!」
「でやすって」
「「はあ」」
特に感銘を受けた覚えもなくトリスとアリスは呆れた。
元より十把一絡げに興味を持てない二人であるため、自然な成り行きではあるのだが。
「小生から言わせてもらえれば……」
キセルをピコピコ。
「アプローチは各々が勝手にやればいいでやんす。そこに異論は差し挟みやせん故。それでトリス嬢やアリス嬢をモノに出来れば良し。出来なければ悪し。それだけのことでやんしょ。それとも何でやしょ? 小生に当校を去れとでも?」
「そうは言わんが……」
趨勢は決したも同然だった。
「ではこれで」
照ノはおしゃぶり代わりに加えたキセルを、上下にピコピコ揺らしながら、トリスとアリスを侍らせて場を去った。
トリスちゃん同盟と、アリスちゃん会議は、もはや反論の一つも無く三人を見送るしかなかった。
後にアリスが苦笑しながら言ったものだ。
「悪役だね」
と。
「否定はしやせん」
照ノは飄々とそう答えるのだった。




