第4話:王宮へ――揺れる馬車の中で
式典の喧騒が遠ざかり、学園の門前には公爵家の馬車が二台並んでいた。
一台はわたくしたちを乗せて王宮へ、もう一台は祖父母が王都にあるクロノ公爵家の屋敷にもどるためのものだ。
「おじい様、おばあ様、せっかく来ていただいたのに、ご迷惑をかけてごめんなさい……心配をかけて、本当にごめんなさい……」
わたくしがそう言って謝ると、おじい様もおばあ様も首を横に振った。
「何を言っているのだ、エレノア……。お前は何も悪くないよ。わしらはお前を信じている……不名誉な疑いは、すぐに晴れるはずだ」
「そうですよ、エレノア……。わたしたちは屋敷で待っていますからね」
「はいっ……」
その温かい言葉に胸がじんと熱くなる。
わたくしたちはおじい様とおばあ様を見送り、王宮へ向かうためにもう一台の馬車へと向かう。
父と母、兄、そしてウイリアム殿下がわたくしと共にいてくれた。
「エレノア様、どうぞ先にお乗りください」
ウイリアム殿下は、年若いとは思えぬ落ち着いた所作で扉を開け、わたくしを促した。
その誠実な眼差しに、胸の奥の緊張がほんの少し和らぐ。
ウイリアム殿下はわたくしたちよりだいぶ年下だというのに、立派な紳士だ。
思い返せば、アレクシス殿下にはこんなふうに優しくエスコートをされたことがなかったような気がする。
馬車が動き出すと、窓の外の景色がゆっくりと流れ始めた。
学園の門が遠ざかり、王都の石畳へと車輪の音が変わる。
「エレノア、大丈夫か」
隣に座った兄が、そっと声をかけてくれて、わたくしは小さく頷いた。
また大変なことになってしまい、申し訳ないという気持ちが胸に広がる。
だけどわたくしにできることは、これから行われる事情聴取の場で、わたくしの真実を述べるということ……ただそれだけだった。
「大丈夫よ、エレノア……」
真正面に座った母が、わたくしの手にそっと手を重ね、父は静かに目を閉じて深く息をつき、頷いた。
家族の温かさが、揺れる馬車の中に満ちていく。
その空気の中で、ウイリアム殿下が静かに口を開いた。
「エレノア様。どうかご安心ください。王宮では、僕が必ずあなたの名誉を守ります」
その言葉は、少年のものとは思えないほど強く、まっすぐだった。
兄がわずかに目を細め、殿下を見つめる。
「……第二王子殿下。妹を気にかけてくださり、感謝いたします」
「いえ。僕がそうしたいと思っただけです。それに……やっぱりどう考えても、アレクシス兄上が言ったことは、おかしいと思うのです。こちらこそ、兄が申し訳ありません」
ウイリアム殿下は少しだけ照れたように笑うと、頭を下げて謝罪した。
わたくしよりも幼いウイリアム殿下のその横顔を見つめながら、わたくしは胸の奥でそっと息をつく。
どうか、わたくしが述べる真実が、悪意を持つ人たちによって捻じ曲げられませんように……。
そう願いながら、わたくしは幼い頃から書き続けている手帳を撫でた。
この手帳には、わたくしが生きてきた全てが記されている。
わたくしはこの手帳を持って、事情聴取に臨むのだ。
手に馴染む手帳の表紙が、ふと温かくなったような気がした。
もしかして、あなたもわたくしを気遣ってくれているの?
そんなことを思いながら、わたくしはもう一度、人生の相棒とも言えるその手帳の表紙を撫でた。




