第4話 クエストに参加する
虎一郎たちが2階にあがると、3人のプレイヤーたちは虎一郎に自己紹介を始めた。
「お兄さん、おれカイト。で、この娘がユメで、後ろのデカいのがジロウ」
すると若い女性のユメと、体格の良い男性のジロウは一緒に頭を下げた。
「宜しくおねがいします」
「おねがいします」
虎一郎も3人に頭を下げると自己紹介をした。
「私の名は虎一郎。よろしく頼む」
「虎一郎さん、なんか古風でカッコイイ名前っすね。えっとフレンド申請送ったんでお願いします」
カイトがフレンド申請を送ると、虎一郎の視界にメッセージが現れた。
『カイトさんからフレンド申請が届きました。(承認・拒否)』
虎一郎たちの会話を聞いていた愛芽は虎一郎にフレンドの説明をした。
「コイちゃん、承認って所に手を当ててみて。フレン……、ええと友人になれるから」
「おぉ、友人になっていただけるとは嬉しい。ええと、手を……」
虎一郎は「承認」の文字の上に手を動かすと何かの感触を感じた。
「愛芽殿、何か感触があるな」
「でしょ。それを押し込んでみて」
「うむ」
カチッ
『カイトさんとフレンドになりました』
「おお、なるほど。……しかし、この国は全てが異様すぎて驚かなくなってきたな。はっはっは」
虎一郎はそう言いながら笑うと、カイトの頭の上に「カイトLv16」と表示され、その下にHPとMPのゲージが表示された事に気づいた。
「ん? 愛芽殿、カイト殿の頭の上に何かが……」
虎一郎がそう言った瞬間、カイトが虎一郎のHPを見て声をあげた。
「え、うそ! 虎一郎さん、HP50なんだけど」
「五十?」
驚いているカイトに愛芽が笑いながら説明した。
「ははは、だってコイちゃん昨日から始めたんだもん。レベル1だよ」
「ま、まじすか!!」
「ね、コイちゃん」
「うむ。私は昨日この国に土地を賜った」
「レベル1であの攻撃力って、現実世界で剣道の選手かなんかですか?」
「けんどう?」
カイトと虎一郎が話していると、愛芽からもフレンド申請が届いた。
「コイちゃん、フレンド申請するの忘れてた。ははは。承認してもらっていい?」
「承知した」
虎一郎は愛芽のフレンド申請を承認すると、愛芽の頭の上にも「めめLv33」と表示された。
「愛芽殿の頭の上にも何か現れたが……。すまぬ『めめ』しか読めぬ……」
「あ、そっか、数字も昔は無かったんだ! とりあえず、あの席に座ろう。説明するね」
「う、うむ」
こうして愛芽は虎一郎に数字の読み方と「命」がHPで、「妖力」がMP、そして戦闘システムの説明を始めた。
その間にカイトは虎一郎のギルド登録を済ませ、虎一郎はユメとジロウともフレンドになった。
◆
しばらく愛芽から説明を受けた虎一郎は、なんとか一通り理解する事ができた。
「なるほど。この国では横に書かれた文字は左から右に読むのだな。数字の読み方も理解した。HPとMPも覚えたぞ」
「よかった! じゃあ『命』と『妖力』もそのうち戻してもらうね。じゃあ、一応わたしが言ったこと確認してもいいかな」
「うむ。モンスタや敵はHPを減らせば逃げるか仲間になる。人を倒せば消えて復活するが、倒された者は弱くなり、元の力に戻るまで時間がかかる」
「そうそう。コイちゃん覚えるの早いね。そのうち英語の文字の読み方も教えるね」
すると、それを聞いていたカイトが虎一郎に言った。
「それじゃあ、分かったところで早速クエストに行きましょう!」
カイトはそう言うと、掲示板から剥がしてきた紙を虎一郎に見せた。
「……子ベヒーモス?」
虎一郎が獰猛そうな牛の絵が書いてある紙を見て呟くとカイトは嬉しそうに答えた。
「そうっす! ベヒーモスっていうスゲー強いモンスターの子供で、このクエストに成功すれば仲間にできるんですよ」
「仲間……。おお!! この牛が手懐けられるのだな!」
「その通りっす! アツいでしょ!」
「うむ! この牛は畑を耕すのに丁度良いではないか!」
「畑?」
……モォ~
みんなは虎一郎が子ベヒーモスを手なづけて畑を耕す姿をイメージすると、思わず笑ってしまった。
「ははは! いいっすね虎一郎さん」
「コイちゃん、面白い!」
「うふふふ」
「はははは」
しかし、虎一郎はクエストの紙を見ながら少し心配そうに言った。
「だが、このような体格の良い牛は、さぞかしで値が張るであろうな……」
それを聞いた愛芽は虎一郎にクエストの説明をした。
「コイちゃん、クエストっていうのはモンスターを倒してお金をもらうんだよ」
「金を貰えるのか?」
「そう。だから、このクエストは子ベヒーモスのHPを減らして動けなくすれば、牛とお金がもらえるの」
「なにっ! そのような都合の良い話があるのか!?」
「うん。それがクエスト。子ベヒーモスは小さくて弱めだけど、今回はあたしも付いてくから安心して」
「愛芽殿も?」
「うん、あたしは僧侶だから防御と回復をするね」
「なんと、愛芽殿は僧侶であったか! やはり500年も経つと僧侶もこのようになって……」
「えっと……、コイちゃん、それってどういう意味?」
「あ、いや、何でもござらぬ愛芽殿」
こうして虎一郎と愛芽、そしてカイト、ユメ、ジロウはクエストに出発した。
◆
一行は街の外へ出ると、カイトがモービルと呼ばれる移動用の車を出現させた。
ボワン!
カイトはワゴン車のモービルの運転席のドアを開けると、嬉しそうに言った。
「じゃあ、行きましょう!」
しかし、虎一郎は突然現れたワゴン車に驚きながらカイトに尋ねた。
「カ、カイト殿は妖術使いであったか」
「え? あ、そうか。昨日ゲーム始めたんですもんね。これはモービルって言って、これに乗って移動できるんっすよ」
「ほ、ほぅ」
「なんで乗ってください虎一郎さん」
「しょ、承知した」
虎一郎は恐る恐るワゴン車に乗り込むと、愛芽が虎一郎に言った。
「コイちゃん、そこの席に座って。あとはカイトさんが運転してくれるから」
「す、座れば良いのだな」
「うん」
虎一郎たち全員が乗り込むと、それを見たカイトは自動スライドドアを閉めて車のエンジンをかけた。
「それじゃぁ、行きますね」
ブゥゥゥウウウ……
こうして虎一郎と一行は子ベヒーモスのクエストへと向かったのであった。