38 アリーシャ視点
ゆるふわな感じで進行します。
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「何に対して謝るのか、お父様に聞かせてもらえるかい?」
お父様の冷たい瞳が私を捉えて離さない。カタカタと震える指先をぐっと手の平で抑え込んだ。
何に対して謝るのか、なんて…お姉様に嘘をついてお義兄様との関係を拗らせてしまった事に決まってる。あの二人が婚約解消なんて、ありえないわ。二人とも昔から相思相愛なんだから。
「…お姉様に嘘をついて、お義兄様と隠れて会っていた事…です…」
「ふぅん、アリーシャはティアラと…あと誰に謝るのかな?」
「え…お姉様と、お義兄様…かしら…」
「そうか、アリーシャが申し訳ないと思うのは、その二人だけなんだね?」
「だって…私がお義兄様にお願いしなければ、お姉様に誤解される事もなかったでしょうし…」
だから、お父様は怒っているんでしょう?私はお父様に恐る恐る視線を投げた。厳しい表情を想像していたお父様の顔が少し悲しげなものになっていて私は驚いた。どうして、お父様は悲しそうなのか、と。
「アリーシャ…君が今回謝らなければならない人は、その二人だけではない。もっと…もっとたくさんいるんだよ」
「え…だ、誰が…」
「お父様は殿下にも言ったよね?それが理解できないから、ダメなんだと」
「言っていましたけど…」
もっとたくさん?他に誰がいると言うの?サイラス様の婚約者だったブランシュ様?でも、お互いに愛情は無かったと聞いているわ。わからない…。
「アリーシャが恋をしたサイラス第二王子殿下は、一人の人間でもあるけれど、この国の王子なんだよ。彼はこの国の宝でもあるんだ」
「た、宝は…自分の望みを叶える事も許されないのですか…」
そんなの、ない。サイラス様だって、感情があって…叶えたい夢だってある。王子だからって、何でも国の為にしなきゃいけないなんて…間違ってるわ…。
「王子だからといって、何もかもを犠牲にするのはお父様だって良くは思わないよ。でもね、既に決まっている事があって、それにはもちろん色んな人が関わっているんだ。それはわかるね?」
「…はい」
「今回の事で、一番の犠牲者はブランシュ様だよ。彼女は幼い頃から、殿下の為に自分を犠牲にして来た。二人の間に愛が無かったからって、情が無いわけじゃないんだ。彼女がしてきた事を、アリーシャ…君が出来るかい?」
「で、出来ます…」
彼の為に、私が頑張れば良いのよね?努力をするから、どうかお願い…彼の側にいさせて。私は希望を込めて、お父様を見た。
「ならば、殿下以外の人と婚約出来るね?」
お父様は真面目な顔でその言葉を口にした。私は、一瞬何を言われているのかわからなかった。それでも、どくどくと軋む心臓と、痛み出す頭がこれは最悪な事だと伝えてくる。
「なっ…嫌です…!」
「どうして?君は今、ブランシュ様と同じ事が出来ると言っただろう?愛は無くとも情で婚約者を支えると」
「サ、サイラス様を支えると言う意味合いです!!」
「君が支えなきゃいけないのは、この侯爵家だよ?ティアラとリュダールの結婚を君は望んでいるみたいだから、この侯爵家を継ぐのは君だ。もっとも、この騒動に君が関わっていると知れたら、それすら難しいかも知れないが」
「それは知っています!!学園でも経営の授業は選択しています!それに、サイラス様に婿入りして貰えば問題ないじゃないですか!?」
私は思わず叫んだ。私がこの侯爵家を継ぐのは前から決まっている。婿入りしてくれる人を選ばなければならないのも知っていた。私が恋をしたサイラス様は第二王子で婿入りしても問題はないはずだ。
「今回の件で、サイラス殿下は責任を問われて王族から除籍される可能性があるよ。平民になった彼に、侯爵家は継がせられない」
「そんなっ…」
「考えられなかったか?そんな事も。殿下も、リュダールも、アリーシャも、本当にわからなかったのか?そんな覚悟で、婚約解消を?」
「そんな…そんな事…」
「君と殿下の恋にはそれだけの波乱を含んでいたんだ。恋をした事を悪いとは言わない。でも、それも含めて考えて意に沿わない結果になったとしても受け入れる…それが貴族なんだよ。それだけの恩恵を君達、特に殿下は国民から受けているのだから」
お父様は真っ直ぐに私を見た。私は、目の前が真っ暗になった。頭痛と耳鳴りが止まない。
「全てに気を回せていたら、結果は違ったかも知れない。でも、君達はやり方を間違ったんだ。それは、もう取り消せないよ。リュダールだって、殿下の護衛騎士はもう出来ないと思う」
「そんな……」
「君と殿下は、何人を巻き込んで…何人の未来を犠牲にその恋を叶えようとしていたんだ?それを理解した上でそれでも殿下と添い遂げたいと言うのなら、申し出なさい」
「…あ……」
ぐるぐると回る思考の糸がぷつりと切れて、私の意識はそこで途切れた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
次回をお楽しみに!!




