マイ ファースト ○○
協力、か、願ってもない話ではある。 だが、どうにも胡散臭い。 初心者の俺を仲間にするのはメリットよりデメリットの方が大きいように思える。 第一名乗った名が偽名だし。
「悪い話じゃないが、いまいちアンタを信じれないってのも事実だ。 なあ、エクス=エキテスさんよ」
「いやあ、そこを突かれると痛いなあ。 私的にはその名前が偽名なんだけどなー。 いずれにせよ、サカキ君は独力で挑むのかい? 力も、策もない君が、たった一人で」
俺を見る目が鋭くなり、気配も明らかに厳しい。 人の話は最後まで聞けっての。
「そうは言ってない。 今はまだ信じれないが、協力はする。 アンタが怪しいと感じたら、その時は敵が一人増えるだけだ」
利用されるならこっちだって利用してやる。 その中でこの男が俺の敵か味方か、見極めていけばいいだけだ。 言い終わると、テッカの視線が緩んだ。
「いきなり背中を預ける仲になるつもりなんて私にもないさ。 Xデーまではまだ数日あるんだし、君の目で私を計るといい。 それじゃ、ほら、手出して。 君のいた世界ではこうするんだろう?」
こいつ本当は転移者じゃないのか?
「もう知ってるだろうが、サカキ ユイトだ。 裏切ったら殺す」
「テッカ改め、"解析の女神"エキテスの伴侶エクス=エキテス。 気軽にエクスさんと呼びたまえ」
「よろしく、エクス」
「君とは良い友達になれそうだ、サカキ」
「俺もだよ。 奇遇だな」
……願わくば、本当に友達でいたい。 こっちに来てからの初めての友として。
「さっきチラッと言ったけど、エキテス達が殺されるまではあと二日はある。 それまでにサカキを少しでも鍛えようと考えてる。 最終目標は君がキメラと一対一で戦えるくらい」
軽食を取って店を出る頃には日も落ちかけていた。 宿屋に向かう帰り道で、エクスはそんなことを言い出した。
「無理無理、って言いたいところだけどキメラを実際に見てないから何ともなー。 もうちょいキメラについて詳しく」
俺のイメージだと鶏やら蛇やら混ざったみたいな、それはコカトリスだっけ? とにかく動物が混ざった感じ。
「普段キメラは地上におらず、集めた人間を収容した地下牢にいる。 ザリアさんもうちのエキテスもそこにいるはずだ。 私がエキテスを救出したのは三年前くらいだけど、その時は体長五メートルくらいあったかな」
五メートル級がうろうろしてる地下空間ってそうとう広いぞ。
「どんな奴だった? 前はどうやって倒した?」
「姿は実は詳しくは見ていないんだ。 地上の黒犬を気絶させて、キメラは見つかる前に眠らせて、全てを十分以内に終わらせたからね」
全く参考にならん。
「キメラを眠らせたのは? またそれで行こうぜ」
「長旅の途中だったからたまたま『魔笛』ってレアアイテムを持ってたんだよ。 どっかのダンジョンの宝箱で拾ったやつを使わないまま取っといたんだけど、ここが使いどきだと思ってさ。 当然今は持ってない」
「つまり案はないって事ね」
期待した俺が悪かったよ。 前回はかなり楽に倒せたっぽいって思ったらアイテム頼りか。
「そういう事。 私が黒犬、君が一時的に無力化してくれるのが一番の方法だと思うんだけどなー。 君ってば武器とスキルポイントだけはあるみたいだし」
そういや俺のレベルの事も知ってるんだった。 ヘルヴェル様に知られたら怒られるかなぁ。 バレてないといいなぁ……
「スキルポイントはあるけど、武器なんて持ってないぞ」
「あるじゃないか。 君が防具屋から金にモノを言わせてかっぱらったアレが」
「人聞きが悪いな。 アレは壊れてるらしいから引き取っただけだ」
「壊れてなんかいないさ。 サカキは知らなかったみたいだけど、SAAは弾倉が横にズレないからローディングゲートを開いて薬莢を一発ずつ取り替えるんだ。 シリンダーの中を見たら弾も入っているはずだし、撃鉄も下ろせる。 弾が出ないのは不具合じゃなくてそういう作りだからだよ」
実際、トリガーが引けるだけで弾は出なかった。 ……エクスは銃にも詳しいのか? 何で俺が知らない事も知ってるんだ。 怖すぎるわ。
「アレは君の世界ではシングルアクションアーミーと呼ばれている実銃だけど、それは見た目だけだ。 あぁ、もう宿に着くね。 続きの話は夜ご飯を食べてから君の部屋でしよう」
宿からは夕方のご飯支度のいい匂いがしていた。 まだ三日目なのに懐かしい、と思うのは何故だろうか。 宿のドアを開けるとイルナがエプロン姿でご飯を作っていた。
「サカキさんにテッカさん、おかえりなさいー。 もう少しでご飯できますよー」
「ただいま、イルナちゃん。 じゃあ私はここで待たせてもらうよ」
「た、ただいま。 俺もここで待ってる」
ただいま、か。 何か、久しぶりに言ったなぁ。 イルナは俺とちょっとしか歳離れてないはずなのに、母親感があるからつい言ってしまった。 これがリアルバブみなのか…… そんな事を思いながら夜ご飯を待つ時間は意外と良いものだった。
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「つまりね、その時エクスはわたくしを華麗に助けてくれたの。 エクスは私の王子様なの。 分かる? 分かって? 分かるでしょ?」
暗い牢屋の中、二人の女が騒いでいた。 周りをうろつくキメラには到底理解出来ない話だっただろう。
「それでまたやってほしいからってわざと捕まったの? アンタ前から思ってたけどヤバイわ。 いっそこのまま死んだ方がそのエクスって奴も幸せね」
「そんなことない。 エクスはいつだってわたくしだけの味方をしてくれるの」
「アンタ昔からほんっっと変わんないわ。 もちろん悪い意味よ?」
「褒められると照れるの」
「褒めてないっつってんでしょ!」
「じゃあ、ザリアがここにいるのはなんで?」
「ぐっ…… さっきも話したでしょ! たまたまよ、たまたま!」
「面白かったからもう一度話して? 女神が人間に捕まるなんて滑稽だから」
「死にたいの?」
「でも、ザリアも暇してる。 わたくしも暇してるの」
「それもそうねー…… じゃあ、よく聞きなさいよ」
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「あははははははは!!! 何この雑魚! ねえねえどんな気持ち? 魔術師に剣士六人で戦って惨敗するのってどんな気持ち? 教えてよねえ! 教えろって言ってんでしょこの雑魚!!」
サカキに特製のダイスを渡してからジャスト六人を引きつけると、そこからは私の独壇場だったわ。 『従者』が無かったけど、それでも私は残りの魔術だけでもそこらの奴より強かったからね。 え? 人間と比べるのは女神としてどうなの? ってそんなのいいのよ! 『従者』ないからノーカンよノーカン!
「クソ、この女ふざけた戦い方のくせに強い! 何なんだよ一体!」
「雑魚を一方的に蹂躙するのは愉快ね!!! このまま私の憂さ晴らしに付き合ってもらうわよ! あはははははははは!!!」
アイツらは本当に弱かったわね。 薬でブーストかけてるみたいだったけど、元が元だから大して強くならなかったんでしょ。 それにリーダーみたいなの以外はチキって薬の量少なかったみたいだし。
エキテス、私が敵みたいなのって言うのは禁句よ。