後編
前編で、父親のダンの活躍した歳を間違えてました。
15歳→14歳に変更しております。
いくつか加筆修正しております。
·····さっきのは一体······
呆然としている私の元へローランが心配そうにそばに寄ってきた。
「シャベール·····」
ローランの言葉で我に返る。ハッと周りを見るとシーンとしこちらの様子を伺っていた。
私は気を取り直し、ローランに聞いてみた。
「ああ····ローラン、あの子は一体何者なんだ?」
「うーん、私にも分からん。」
ローランも知らないか·····
するといつの間にかすぐ横にまで来ていたアルフレッドがその子の正体を明かしてくれた。
「あの子はギブソン男爵家の息女の スージー・リン・ギブソン だよ。同級生だぞ?」
ギブソン男爵候の息女だったのか。
うん?同級生?そんな子いたかな?
「あの子は同級生なのか?」
私が聞くと、アルフレッドは呆れたように言ってきた。
「シャベールお前な····一応ずっと8歳から18歳まで学校は一緒だったんだぞ。お前達は特待生で高等部の時はほとんど来なかったけどな。まあ、学校に来ていたとしてもお前達は学部も剣術の方で、スージー殿は魔法の方だったからほとんど会うこもなかっただろうけど。」
そうか·····同級生か·····。
あれで24歳とは驚きだ。背もフレア位で顔も幼かった。フレアと違うところは胸がない·····いや小さいところだろうか。
「あとスージー殿は隠術を得意としている。だからいつもどこにいるか分からなかったな。」
隠術!隠術を使える者はそうそういないぞ!その名の通り、自分の気配を消し、身を隠すことができる。我が国でも裏の組織には数名しかない。裏の組織はその隠術で他国の情報収集をしてくれている。
「ほう······」
私が感心しているとアルフレッドは続けて説明をしてくれた。
「卒業して何回かはパーティーの招待状を送ったのだが事こどく欠席で返ってきていたよ。シャベールお前と一緒だ。」
さりげなく嫌みを言ったな·····。
「スージー殿は結婚はしているのか?」
「してないな。失礼ないい方だが、そう言った話がこないらしい。ギブソン男爵候も相手を探してはいるみたいだが······」
ほほぅ······それは好都合。
スージー・リン・ギブソン、名前は覚えたぞ。
その後は滞りなく進んだ。幾人かの女性から(全て結婚している)夜のお誘いがきたが、早く帰りたかったので断った。
夕方にはお開きとなり、馬車に乗ってローランと一緒にアンドリエ家に向かっていた。フレアがアンドリエ家で待っているからだ。
「シャベール、お前、スージー殿が気になるのか?」
私はニヤリと笑い
「ああ。だって悲鳴をあげて逃げられたんだぞ?今までそんなことされたことがない。気になるじゃないか!」
ローランは呆れた顔になった。
あっ、そうだ!
「ローラン、帰ったらフレアと一緒にお風呂に入るから!」
「はあ!?ふざけんな!」
こうして帰路につく馬車の中でフレアをめぐっての戦いが始まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日の朝。
父上と母上と朝食を取っていた。ダシャンはまだお眠むのようで部屋にはいなかった。
昨日は残念ながら、フレアは一緒にお風呂に入ってくれなかった。帰る時にローランの勝ち誇った顔がムカついた。
私はスージーの情報を得るべく父に聞いてみることにした。
「父上、ギブソン男爵家のことは分かりますか?」
父は食事の手を止めて「ギブソン男爵家?」と、少し険しい顔した。
「はい。昨日の同窓会でギブソン男爵候のご息女とお会いしたのですが少し気になりまして。」
「気になる?」
「はい。ドレスも質素な感じでしたのでどうなかと思いまして」
適当な理由を言う。まさか声を掛けたら逃げられたなんて言えないだろ······。
「うむ。ギブソン男爵家は困窮しているからな。」
「困窮?ですか?」
「ああ。ギブソン男爵家の領土も狭いこともあるが、去年と今年も作物も不作為で資金繰りが大変なようだ。国に援助を求めてきた····が····」
が?
「実際は後妻に入った正妻がお金を使い込んでいて家計が火の車と報告を受けている。」
「使い込みですか······」
ということはスージーの実母は····
「ああ。前の正妻は五年前に病で亡くなっている。今の正妻は元々愛人だったらしい。前の正妻は気立てもよくて良く働く良い妻だったと聞く。当時はその正妻のおかげで資産も結構あったと思う。だが、今の正妻になってからはドレスや装飾品を買い、夜な夜な夜会などに行って金使いが荒いらしい。それでどんどん資産を食い潰していって今は多額の借金をしている。」
「私も前の正妻のルーヒィア様を知っているけれど、民のことをいつも考えて行動をなさってたわ。孤児院がないので造りたい。勉強もさせてあげたいと······王都の孤児院のボランティアも積極的に参加しておられたわ。決して容姿は綺麗ではなかった方でしたが、芯がしっかりしていてとても素晴らしい方だったわ。」
·······。
「ギブソン家のご息女はまだ結婚をされてないみたいだな。王城で娘をやるから借金の肩代わりをして欲しいと言い回っているみたいだ。」
「まあ!何てことを!」
母は驚いて怒った顔になった。
「自分の娘を物のように扱うなんて最低だわ!」
かなり憤慨をしている模様·····。
「ミチルダ····世間の貴族ではあることだ。」
「······そうですが····可哀想ですわ·····」
母は父に言われて少ししょんぼりした。
「だが、年齢も行き遅れの年齢。シャベールお前と同い年だ。」
「はい。同級生です。」
「それもあってなかなか貰い手がないそうだ。」
「そのようですね。私はスージー殿に興味があります。」
「ほほう。」
父は目を細め私を見た。
「スージー殿に会いたいと思います。よろしいですか?」
わざわざ確認しなくてもいいことだが。
「別に構わん。ただギブソン男爵候にバレないようにした方がいい。あとがうるさいからな。」
「分かりました。」
私は早速行動に移すことにした。
だが、表立って行動するなと言われたのでアルフレッドを使うことにした。
アルフレッドにスージー殿に会いたいと言ったら面白がって話しにのってくれた。そしてすぐに行動をしてくれたのだが·······
「シャベール、良い返事がこない。」
アルフレッドは何回か屋敷に来ないかと手紙を送ったのだが、全てお断りされたらしい。
困ったなあ······。
アルフレッドの情報によると、スージーは正妻に少しいじめにあっているようだ。行き遅れもあるが、一切スージーにはドレスなどの購入はさせないらしい。しかも、今は裁縫職に就職しているらしく給料のほとんどを取られているという。
そんな状態なのでスージーは実母の形見の洋服を着ている····ということらしい。
だからあんなシンプルなドレスと言うよりは普段着っぽいの服装で同窓会に来たのか。
男爵家なのに何故と思っていたが納得した。
たが、とても有力な情報をアルフレッドがくれた。就職先はあのマリア伯爵婦人のお店らしい。
運がいい。
これで何とか会えそうだ。
私は仕事をサボって·····いや、視察という名目でマリア伯爵婦人のお店へ行くことに決めた。
そうと決まれば次の日に早速馬に乗りマリア伯爵婦人がいるベッタンブルグの街へと部下に反対されながら一人で急いで行った。
「あら、シャベールじゃない。どうしたの?」
「はい。視察に来ました。」
「え?視察なんて聞いてないわよ。」
マリア伯爵婦人は驚いている。当然だ。
「はい。昨日決まりましたから。」
私は笑顔で答えた。その答えにマリア伯爵婦人は眉間にシワを寄せた。
「一人できたの?」
「ええ。一人です。では工場を見せてください!」
「工場?」
「そうです!工場です!工場の視察にきました!」
工場にスージーがいるはずだ!思わず興奮気味に言ってしまう。
「私は別に偽称などしてないわよ。」
自分は悪いことはしてないと主張するマリア伯爵婦人。
「分かってますよ!念のためです!」
マリア伯爵婦人はしぶしぶと工場へと案内をしてくれた。
案内された工場には沢山の女性が働いていた。
私は工場に入ると、皆驚いたようにこちらを見た。私は安心させるように笑顔をした。すると女性達は頬を染めてチラチラ私を見ながら作業をしている。
スージーがどこにいるかすぐ分かった。
皆がこちらを向いているのに、一人だけ夢中で布を縫っていたからだ。多分洋服の一部であろう。凄い手つきで縫い上げていた。
私はスージーをロックオンをし、マリア伯爵婦人に話しかけた。
「マリア伯爵婦人、少しの間、あそこにいる スージー・リン・ギブソンを貸していただけませんか?」
「貴方スージーを知っているの。」
「はい。」
「分かったわ。」
マリア伯爵婦人の許可が出たのでスージーの元へと向かう。その途中にも女性達の熱い視線を感じながらスージーの横に立つ。スージーは気付かない。
気づくまで待っても仕方がないので話しかけることにした。
「やあ、スージー。」
スージーは驚いたのかビクッと身体を震わせ、縫っていた作業を止めこちらを見あげた。
私は笑顔で向かい入れた。
私の顔を確認した途端に
「ぎゃあーー!!」
とまた叫び逃げ出そうとしたので、今回はばっちりスージーの腕を掴まえて逃げるのを阻止した。
「ちょっと話しがあるんだけど。」
私は有無を言わさず工場の裏へと連れて行った。
裏庭にある休憩用であろう椅子に座った。
スージーは挙動不審になって目が泳いでいる。
「同窓会で声を掛けた時にどうして逃げたの?」
いきなり本題に入った。
スージーはガタガタと震えだした。
「ごっ、ごめんなさい!いきなりでびっくりしたの。」
声も可愛いな。
「ちょっと傷ついたよ。」
「ごめんなさいっ!遠くからでしか見たことない憧れの人から声かけられるなんて思いも寄らなかったからっ!」
スージーは目を瞑って頭を下げてきた。
「いやいや!そこまでしなくてもいいよ。謝ってくれたらもういいよ。」
別に怒ってないけどね。憧れの人だなんて嬉しいね。これは私に好意があるということだ。
私がそういうとスージーはホッとした顔になった。
そして笑顔になり
「良かったぁ。」
どっきーん!
私はその笑顔に魅いってしまった。私にはその笑顔が眩しく感じた。
心臓もバクバクして鼓動が早い。
だがスージーはすぐに笑顔を止め私から目線を反らした。
残念······もう少し笑顔を見たかった。
心臓はまだバクバクしている。
「あっ!」
スージーはいきなり立ち上がり草むらの方へ行って屈む。そして私の所へ来てさっき取ったであろう草を出してきた。
「シャベール様、ププレ草の四枚の葉がついているやつを見つけました。どうぞ。」
ププレ草は普通は三枚の葉がついている。稀に四枚のもあるのだ。
「四枚の葉を見つけると幸運がくるそうですわ。ある女の子が教えてくれましたの。」
スージーはそう言ってずいっと差し出してくる。
「いいのかい?」
「はい。どうぞ。シャベール様はお疲れ様のように見えます。きっとこのププレ草が幸運を呼び疲れもなくなりますわ。」
なんとも優しいことを言ってくれる。
スージーはいきなり私の頭を撫で出した。
「シャベール様の疲れが早く取れますように。」
その言葉でまたどっきーん!とした。
撫でられている所がどんどんと熱くなっていく。そして心にもふんわりと温かいものを感じた。
······だが私を見ずに私の胸をじっと見て言うのはどうかと思う。私を見て欲しい·····。
私がじっとスージーを見つめていることに気づいたのが、スージーは焦ったように撫でている手を引っ込めた。
あっ····手が離れ少し寂しく感じる。
「ごっ、ごめんなさい!頭を撫でるだなんて失礼ですよね!」
スージーが謝ってきたので、怒ってないことを示す為笑顔を見せる。
「そんなことないよ。とても嬉しかった。あとププレ草もありがとう」
私はお礼を言って受け取った。私は大事に胸のポケットに入れたら、不意にまたスージーが胸ポケットから抜き取った。
えっ?と思っているとスカートのポケットからハンカチを出しそのププレ草を包んだ。
「ププレ草が潰れてお召し物が汚れていけませんので。」
そう言ってまたハンカチに包んだププレ草を差し出した。
私はもう一度お礼を言い受け取って今度はズボンのポケットに入れた。
凄く嬉しい。
何故だろう·····何か癒されている。心が踊るようだ。
私は頭で考えるより言葉が出ていた。
「スージー、私と付き合って···『ぎゃあーー!!』」
······何故告白の途中で叫ぶ····。
「むっ、無理です!無理です!こんなキラキラした人と私ごときが付き合うなんて····ごめんなさい!」
スージーはまた勢いよく立ち上がりお辞儀をして脱兎のごとく去っていった。
また逃げられた······。
しかも告白も最後まで言わせて貰えず、フラれてしまった·····。
初告白で初めてフラれた······。
「ふふふ·····あーはっはっは!」
何てことだ!初めて「恋」というものをして、初めて告白し(最後まで言わせてもらえなかったが)、初めて振れた!
初めてづくしだったが見事に完敗した!この私が!!
可笑しくて笑いが止まらない。
だが、これでいい!身内以外にこんなに拒否されたは初めてだ!
あっ!これまた初めてだ。
やっと理想の女性を見つけたのだ!
諦めるわけにはいかないな。
スージー、私は君を必ず自分の物にするよ。
可哀想なスージー·····私は狙った獲物は逃さないんだ。
私の癒し····私だけのものだ。
覚悟しておいてくれ。君は私の花嫁となりそばにいるんだ。
逃さないよ······。
それからスージーとの攻防戦が繰り広げられた。
なかなか手強いが楽しくてしょうがない!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スージーに狙いを定めて一年の月日が経った。
ゴーン ゴーン
雲一つもない晴れた日の教会の鐘が鳴り響いている。ある一組のカップルの結婚式が行われていた。
そう·····それは私、シャベール・フィン・アンドリエとスージー・リン・ギブソンとの結婚式だ。
私はあれから、スージーを攻めて攻めて攻めまくった。周りの巻き込みながら、外から固めていった。
何回も夜会のパートナーの申し込みなどしても断られ(目も合わせてくれない。)勿論デートの申し込みもだ。全て惨敗した。
仕方がないので、この国の第二王子でもあり、二番目の妹アンナの結婚相手でもあるランベルト殿下にも協力を仰だりして王族を巻き込んでの騒動となった。
その時のスージーの顔ったら·····ふふふ。
すったもんだの末、何とか恋人にこぎ着け、そして今日結婚式を挙げる。
「汝はこのシャベール・フィン・アンドリエを夫し生涯を共にしこの者を愛し、共に助け合って行くことを誓うか?」
教会の大司教の言葉にスージーは俯きながらでもはっきりと返事をした。
「はい。誓います。」
スージーは生涯私を愛すると誓ってくれた。
スージーの言葉が胸に響き頭で反芻する。喜びの一時。
私も一生涯君だけを愛するよ。
あっ!妹のフレアは別かな。ふふふ。
昨日フレアに
『シャベールお兄様、結婚するのだから一緒にお風呂に入るのは終わりね』
と言われた。何とも寂しいことを言う。
それならばと、昨日は最後と称して一時間くらい一緒にお風呂に入った。フレアはのぼせてしまったが、私がきちんと身体を拭いて服も着せてあげたよ。
まあ、これで終わらせないけどね。
そうだ、スージーとフレアと三人でお風呂に入ってもいいかもな。
私はそんなことを思いながらスージーと、結婚式の参列者に祝福をされながら花道を歩いた。
これからは私がいっぱいの愛を込めて幸せしよう。
勿論その愛情からも逃げることは許さないしさせないよ。
私は案外独占欲が強いのかもしれない。
可哀想なスージー。私からはもう逃げられることはできないよ。
私は隣で嬉しそうに微笑んでいるスージーを見た。そして澄んだ青空を見上げて幸せをかみしめていた。
ーー完ーー
お読みくださりありがとうございます。