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[自作フィギュア]モンスター美少女たちのパパになったら、全員俺を殺しにくるんだが!?  作者: 矢崎 那央
番外編 第3幕『心も水着も滑ってズレて…どうなっちゃうの!?魂のずぶ濡れフルスライダー』
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Scene18:『金色の花は、涙にも笑顔にも』


 足元の水流が、静かに傾き始める。

 まるで誘われるように、冷たい光の道が前へと伸びていく。

 


 ——これは、わたしの記憶に触れる道。


 指先がわずかに震えるのを、翅の奥に隠した。



 ——わたしには、どんな記憶が見えるのだろう。


 水面の奥から、色とりどりの光が浮かび上がり、ゆっくりと形を結びはじめる。



 懐かしさと、不安と……そのどちらとも言えぬ感覚が、胸の奥をかすめていく。


 ——いったい、わたしが生まれてから、何年が経つのだろうか。



 あの丘の上の家に住み始めてからは、そう長くはない。

 自由になる前、彼女は……ランプの魔人だった。


 いく年も、いく年も——あの狭く暗い器の中に閉じ込められて、願いを叶え続けてきた。



 何人もの手を渡り歩き、そのたびに呼び出され、望みを告げられ、そして再び闇に戻された。



 時には、無垢な子供の「お母さんを病から救って」という涙に応えたこともあった。


 けれど……それよりずっと多かったのは、剥き出しの欲望だった。


 ——金銀財宝、権力、復讐。




 叶えた後、その目からすぐに光が消えていくのを、何度も見た。

 願いというものが、必ずしも幸せを運ばないことを、あの頃知ったのだ。




 ——そして、そのさらに前。

 わたしは一国の姫として生まれた。


 砂漠の王都。夜明けとともに鳴く水鳥の声、ミントと香辛料の匂い、絹のカーテン越しに差す金色の陽光。


 宮殿の回廊では、母の付き人たちが染めた布を風に揺らし、父の兵たちが槍の稽古をしていた。


 幼い金色姫——カナクプリヤは裸足で大理石の床を駆け、庭の噴水で金魚を追いかけ、絹の衣に水を跳ね返しては乳母を困らせた。



 それでも——誰もが「カナクプリヤは黄金の娘だ」と笑ってくれた。




 ——そして、わたしが十六の時。

 あの人に……出会ったのだ。



 その瞬間、スライダーの両脇に霧が走り、目の前の水のスクリーンに映像が浮かび上がる。



 ——ああ……やっぱり、この記憶だった。避けても、必ずここに戻ってくるとわかっていた。



 宮殿のバルコニー。

 夕陽が砂漠を紅く染め、遠くの市場の喧騒が風に乗って届いていた。



 そこに——旅の途中と見える若者がいた。

 粗末な外套の下、目だけが真っ直ぐで、砂嵐の中でも揺るがない。


 護衛の兵が「下がれ」と声を上げる間もなく、その瞳がカナクプリヤを見上げ——時間が止まった。



 映像は切り替わる。



 月明かりの下、宮殿の外れ。

 香油を染み込ませたランプの灯が、壁の陰で淡く揺れている。


 彼女は顔を隠すヴェールを外し、彼の前にだけ素顔を見せた。


 その瞳に映る自分は、姫でも精霊でもない——ただひとりの娘だった。



 けれど……その夜は、永遠ではなかった。

 映像の端に、白い衣と銀の刃が現れる。

 次の瞬間、景色は赤く滲み、スクリーンの水面が大きく波打った。



 映像が揺れ、場面は月明かりの砂漠へと変わる。


 ——砂丘の稜線に沿って、ひとりの影がみえた。

 その横顔は、わたしが十六の時に出会った人——そして、わたしを姫から魔神へと変えてしまった人。



 「……キミは、ボクのせいでランプの魔神になってしまった」



 その声は、砂の底に沈むように低く、震えていた。



 「もしあの時、別の道を選べていたなら……キミは、今もあの宮殿で笑っていられたはずなのに」


 彼は視線を落とし、握った拳に砂がこぼれ落ちても気づかないままだった。



 「だから……ボクのことは忘れて、自由になってくれ」



 ——わたしは、思わず笑った。

 それはおかしいからじゃない。あまりにも、この人らしいと思ったから。



 「……ふふ。やっぱり、あなたって……勝手な人」



 彼は、何も言わなかった。

 ただ、沈黙の奥に、どうしようもない悔いと祈りが見えた。



 「でもね——」



 微笑みが、頬を伝う光とともに浮かんだ。

 泣いているようにも見える、優しい笑みだった。



 「“あなたのことを忘れない”っていう自由も……あるのよ」



 ——彼の姿が、光に溶けていく。

 その輪郭が消え始めても、わたしは言葉を続けた。



 「あなたとの記憶は、わたしの花冠。

 誇りと、痛みと、美しさと……そのすべてが、

 わたしの“生”の一部なの」



 「——だから、わたしは、それを抱きしめたまま、自由に生きる」



 金色の花びらが、空に舞った。

 それは涙にも似ていたが、笑顔にも見えた。


 男は、その光の粒に手を伸ばそうとして——止めた。



 「……そっか。

 キミは……オレが思ってたより、ずっと強いんだな」



 男は微笑みながら続ける。



 「……安心したよ。

 それなら、きっともう……キミはどこへでも行ける」



 光が消えていく。

 金色姫はそっと息をつき、微笑んだ。


 消えていく彼の影を、ただ静かに見送る。



 胸の奥に残る温もりが、ゆっくりと形を変えていくのを感じながら——つぶやく。




 「忘れてしまえば、きっと心は軽くなる。

 でもそれだと——軽いままの心は、嵐の中では飛んでいってしまう。

 つらくても、この思い出があるから、どんな時でも立っていられる」



 翅がひとひら揺れ、金色の鱗粉が空に散った。

 それは、彼女が歩む道を、自ら照らす光だった。




 ——スライダーの終点は、もうすぐだった。



 けれど、誰の顔にも、もう迷いはなかった。


 


 “罪”は、痛い。重い。


 でも、それでも“生きてゆく”って決めたから。


 


 いま、滑ってゆくこの水路は、彼女たち自身の“意志”だった。




——to be the next act.

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