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[立体作品]モンスター美少女たちのパパになったら、全員俺を殺しにくるんだが!?  作者: 矢崎 那央
番外編 第3幕『心も水着も滑ってズレて…どうなっちゃうの!?魂のずぶ濡れフルスライダー』
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Scene17:『あなたの願いが生んだ、ボク』


 滑りながら、スライダーの先に目を向ける。霧と光が入り混じる大滑走路が、遥か彼方まで伸びていた。



 「……ボクには過去なんてないけど、これって、ちゃんと映るのかな?」


 マハが苦笑いする。



 最初に映った映像は——自分が産まれてから今まで。




 自分が生まれ、暗い部屋で辺りを見渡す。


 "LC-10の監視と追跡を任せる"と告げられた声。

 飛鳥達が、仲間と共に進む旅路を見つめていた記憶。



 「まあ、ボクの記憶って言ったらこんなもんだよね。別に懐かしいってほどでもないし……」




 水に流れる映像は、ただの記録みたいに平坦だった。

 生まれた瞬間も、命令を受けたときも、全部が淡々としている。


 別に悲しかったとか、辛かったわけでもない。



 ——他の子たちは違う。

 笑ったり、泣いたり、何かを掴んだり失ったりして、

 そうやって"今の自分"を作ってきた。


 ——ボクは、それをずっと“外”から眺めていただけ。

 自分にあるのは、たった今ここにいる、この“今”だけ。



 みんなの事が、少しだけ羨ましい。

 そして……ほんの少しだけ、悲しい。


 泡が頬をかすめ、視界の奥で光が揺れた。



 

 でも、その次に来た映像で——呼吸が止まった。



  泣き声。


 最初は水の響きと区別がつかないほど淡く、すぐに確かな産声になった。



 狭い部屋。汗に濡れた額を押さえる女の人がいた。

 腕の中には、小さな赤ん坊。


 まだ目をうまく開けられず、細い指をぎゅっと握っている。


 泣き声は弱々しいのに、その場の空気はやわらかく満ちていた。

 母が、その小さな指を頬にあて、「よく来たね」と何度も囁く。



 マハは息を忘れて、その光景を見つめていた。

 その子の始まりは、あたたかい声と祝福に満ちていた。


 


 でも——その色は、すぐに変わった。



 次に訪れる出来事を、マハは知っていた。




 数日後。


 赤ん坊は力を失い、泣き声が細くなっていく。


 母の腕の中で呼吸が浅くなり、やがて静かになった。

 母は声を殺し、肩を震わせながら、動かなくなった体を抱きしめる。


 名前をつけられることもなく、僅かな生を終えた赤子。



 ……ああ、これは。


 この次になにが起こるかも、マハは知っている。


 


 低く、事務的な声が母の元に落ちる。


 「……嬰児が死亡したと聞いた。

 “トヨール”の検体として提供してもらいたい」


 

 ——トヨール。

 それは、死んだ子どもの一部を素材にして、呪術で精霊を造る技法。


 この子が生き返るわけではない。

 新たな生まれ変わりとして、目を開けるわけでもない。


 母は、それを知っている。それは全く別の命になる。


 

 それでも。



 わかっている。わかっているのに——心はどうしても切り離せない。

 願ってしまう。

 この子の続きを、誰かに歩いてほしいと。



 母は、深く息を吸い込んだ。

 そして、小さく頷いた。



 「……この子が生きた証を、少しでも残せるのなら」

 


 声は震えていた。

 それでも、そこには微かな光が混じっていた。


 目の前の命は戻らない。

 だけど——全てを失ったわけじゃないと、自分に言い聞かせるような光。



 マハは、その思いを胸の奥でなぞる。



 ——ああ……これが、ボクの“始まり”




 ……そして、母の視線がゆっくりと持ち上がった。

 そこの視線の先には、彼女の腕から送り出した命の一部を宿す"ボク"。




 ——あなたは、この子の命のかけらから生まれた。


 ——わたしの悲しみがわかるのなら……この子の代わりになって。


 ——そして、あなたに過去がなくて寂しいのなら……この子の過去を、あなたが持っていって。




 その声は、響くというより水の中に溶けて、直接胸の奥に触れてきた。

 何度も、何度も繰り返される。


 それは祈りであり、願いであり、命令にも似た重さを持っていた。


 

 マハは視線を落とし、ほんの少しだけ笑った。


 「……ごめんね。ボクは、その子にはなれない」



 母はまだ、代わりを求め続けている。

 それでも、マハは穏やかに続けた。



 「ボクは、あなたの願いで生まれた。

 でも、"あなたの赤ちゃんの代わり"には、なれない」



 マハは片手をひらりと振った。

 でも、瞳は静かに真っ直ぐ母を見ていた。

 


 「あなたの悲しみを借りて、自分を埋めるのは違うんだ。

 ボクの寂しさも、あなたの悲しみも——

 それぞれ、自分の足で歩いた先で埋めるべきモノだから」


 

 「それでも……あなたの祈りだけは、ボクの中にある。

 だから、ボクは……この世界で、生きていく」


 

 マハは、濡れた髪を指で払い、胸の前で静かに手を合わせた。


 指先は鼻の高さまで上げ、軽く頭を垂れる。

 その間、ひと呼吸。


 まるで、遠い寺院の僧侶のように……


 その仕草は祈りというより、静かな約束だった。



 「ボクは、あなたの赤ちゃんの生まれ代わりじゃない。

 でも、“あなたの願い”が作った、"ボク"だから」


 


——to be the next scene.

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