Scene11:『第二の試練、追憶の滑走』
——風を裂いた。
飛鳥の身体が、空を舞う。
透き通る水面。
もやの晴れた世界に、彼女の影がすうっと描かれていた。
はちまき。
スキュラの額に巻かれた、それをめがけて——
「やっ……!」
飛鳥の脚が……触れた!!
次の瞬間、ぴんっ!という乾いた音と共に、
はちまきが空中にふわりとほどけた。
「……取った!」
その声が、水に伝わる。
スキュラの触手が、しゅるしゅると引いていった。
水面は静かさを取り戻し、
霧が晴れるように、世界が澄んでいく。
空に浮かぶ氷の輪のなか、
セドナがゆっくりと手を掲げた。
「……試練、終了ッ!!」
その言葉とともに、空が鳴る。
「勝者、飛鳥を中心とした魂の連携体。
“生の証”を守り、かつ、奪い取ったその力、魂の強さ、ここに認める!!」
セドナの声が、どこまでも高く、どこまでも透き通っていた。
「……やった……!」
飛鳥が水面に着地する。
ロメラがガッツポーズ。ヴェルは糸でほわっと祝福を編む。
ウェーリーは“ぐるぐる”としっぽ回転。お祝いモード。
金色姫とマハが視線を交わし、ヒュと手のひらを合わせる。ぴしりと決まった音が、水に響いた。
しかし、セドナの表情は、崩れない。
「だが、道はまだ続く。
この異界において、魂を裁くのは一度では済まぬ。
試されるのは、“一過の勝利”ではなく、“揺るがぬ魂の形”」
また空が鳴る。
「次なるは、第二の試練——
“深き記憶の滑走路”」
その言葉とともに、水面がぐらりと揺れる。
地形が変わっていく。水は前方へと流れ、
ゆるやかな下り坂が形成されていく。
それはまるで……巨大なウォータースライダー。
滑走路の両端には、薄い水膜のスクリーンのようなものが並び、そこに映像がゆらゆらと投影されていた。
水の揺らめきに合わせて、泣き顔、笑顔。誰かの名前もない記憶の断片が、泡のように浮かんでは消えていく。
それは、指先で触れれば破れそうなほど儚く、けれど確かにそこにある——そんな幻影たち。
セドナが、再び高らかに告げる。
「ここでは、お主らの魂が見てきた記憶が、幻影として現れる。
その中をすべて滑り降りたとき、真の“心の強さ”が問われよう」
張り詰めた空気の中——
そのまま終わるかと思いきや。
セドナが、目を見開いて叫んだ。
「第二の試練の名はこれだ!」
息を吸って、全力で——
「さあ始まるぞ!!『心も水着も滑ってズレて…どうなっちゃうの!?魂のずぶ濡れフルスライダー』!!!!」
——叫んだ。
静まり返る空間。
「……今、なんて……?」
飛鳥が小さく訊ねる。
「ずぶ濡れ……フルスライダー……?」
ロメラがひくひくと笑いをこらえながら口を押さえる。
「なにが……ズレるって?」
マハが腕を組み、顔は笑顔のまま。しかし憮然としたトーンで呟く。
「お主ら、走れ。過去に濡れろ。そして、前に滑りゆけ!」
セドナが“ノリノリ司会モード”へ突入したのを、
誰も止めることはできなかった。
「ポロリの際は、カメラマンが全力で寄る!
……なので、水着はすぐ直すな!しばらく片手で押さえて耐えろ!」
こうして、第二の試練——
謎のテンションと共に、競技開始である。
——to be the next scene.




