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Scene8:『クラスのイタい男子、娘ハーレムの妄想に沈む』


 私は、ふかふかのチェアに身体を預けた。


 首筋(くびすじ)に温かな湯気を感じる。

 九重が入れてくれた玉露(ぎょくろ)

 ちょうどよい温度で、鼻腔(びこう)をやさしくなでる。


 そして、そっと目を閉じた。



 ——私は幻想(げんそう)の中にゆっくり沈んでいく。



 そこは、桃色の(きり)(つつ)まれた、静かなる楽園。

 娘たちが、ゆっくりと私のもとへと現れる。



 ——まず、フィロレーナ。



 ふわりと花弁(はなびら)()らし、

 私のヒザへと腰を下ろした。



 「今日もがんばってますねぇ、おつかれさまですぅ」



 微笑(ほほえ)んで、私の顔を胸元へとそっと引き寄せる。

 やわらかい感触が、(ひたい)をふんわり包んだ。


 まるで、低反発クッションのよう。


 それは彼女の呼吸と共にゆっくり上下し、

 甘い香りとともに、思考を優しく()かしてゆく。



 「これは、“ぽやぽや(いや)し系

 お昼寝担当お姉ちゃん”が発する、

 無償(むしょう)の安らぎ……!」



 ——足元には、ノーニャ。



 ネコ耳の跳ね毛をぴくりと動かしながら、

 ふいに足首へと身体を押し当ててくる。



 「べっつに、パパのこと好きとかじゃねーし。

 ただ、あったけーからだにゃ」



 だが、その小さな背中は……

 明らかにこちらのヒザの上に乗りたがっていた。



 「これは、“素直になれないツンデレ妹”の発する、

 本能的な甘え……!」.


 

 ——背後から、ぎゅっと腕が回される。ロメラだ。



 すこしツンとした、コロンの香り。

 私の背中に顔を押し付けて、ぽつりと言った。



 「……オヤジ、背中……あったけぇな」



 ジャケットの内側から伝わる、

 彼女の体温と拍動(はくどう)が、静かに私を満たしていく。



 「これは、“姉御肌(あねごはだ)な次女”がくれる、

 全幅(ぜんぷく)の信頼と依存の証……!」



 ——その隣では、

 ヴェルミアがくるくると踊るように歩き、

 私の手をとった。



 「パパの、て……。ギュッてするの……すき」



 くるくる回りながら手を握り、

 ぴたっと胸元に飛び込んでくる。


 そのスカートからは、

 細く頼りないクモの脚がのぞく。

 八つの無垢(むく)な瞳は、すべてがじっと私を見つめる。



 「これは、“無垢で過剰(かじょう)な愛情表現をする妹”

 にしか許されない、天性の抱きつき……!」



 私は抵抗する理由を見出せなかった。

 これが、家族というものなのだ。

 

 

 「さあ、お茶にいたしましょう」



 紅茶の湯気が立ち上り、金色姫が身体をよせ、

 そのまま、すっと私の左肩に軽く寄りかかる。

 気品に包まれた柔らかさが、そっと私に触れた。


 形が崩れそうで崩れない、

 張りつめたまま(たわ)んだ球体。

 例えるなら、温かくて、おおきな水風船。


 ゆっくりと吸い付くように、

 そっと()()っていた。



 「これは、“おっとり上品系お姉ちゃん”

 という存在が()める、究極(きゅうきょく)包容力(ほうようりょく)!」



 そして——



 飛鳥(あすか)が現れる。

 カワセミの翼をたたみ、

 細い鳥脚でとことこ近づいてきた。


 その表情は、ただ一言に尽きる。



 「…これは、“真の娘”の体現(たいげん)

 (とうと)さと救済(きゅうさい)象徴(しょうちょう)…!」



 彼女は私に微笑みかける。



 「……おかえりなさい。…パパ…」



 私は、ついにたどり着いたのだ。

 娘を持つ者だけが知る、幸福の最奥(さいおう)へと。



 ——さらに……。



 ふわりと巫女装束(みこしょうぞく)の影が揺れた。

 "気品担当しっかり者お姉ちゃん"九重が、

 すう……と手を添えるように、

 私の右肩に身体を預けた。


 うなじに触れる吐息(といき)は、ほのかに白檀(びゃくだん)の香り。

 衣擦(ぬのず)れの音すら、どこかくすぐったい。



 「……お父はん。

 たまには、ウチも甘えさせよし。

 なあんも言わんと、肩ぐらい……貸しておくれやす」



 ——"よちよち末っ子甘えん坊"

 エナが、ガシャンガシャンと音を立てて現れる。



 胸のコアが、ぽっ……とひとつ明滅(めいめつ)する。

 

 それは「パパ、だいすき」の信号。



 ——小柄(こがら)な影がひょこっと顔を出す。


 

 褐色の肌、草原を抱く胸。

 "飄々(ひょうひょう)系ボーイッシュ妹"マハが口をゆるめた。



 「ま、パパ役として……ギリギリ合格、かな?」



 ——長い銀の髪に、細い身体。

 "ミステリアス系ロリ姉"ヤオが少し離れて(たたず)む。



 (まぶた)のない大きな瞳で私を見つめ、

 ()せた腕を小さな体の前で組み、呟く。



 「まあ、ワシの父を名乗るには力不足じゃがの。

 日頃のがんばりに免じて、認めてやろう」



 最後に、水音。

 "無口な清楚系の妹枠"ウェーリーが、

 無言のまま尾鰭おびれをゆっくりとふりふり。

 くるん、とハート型にしっぽを巻いた。



 ——それは“だいすき”のしっぽ語。



 最後に、娘たちが、声をそろえて言う。



 「おかえりなさい、パパ」



 私は、ヒザをついた。

 (ほほ)を涙が伝う。



 「私は……父になれた……。ようやく……」



 幸福が、金色の粒子(りゅうし)となって宙を舞う。

 やわらかく、あたたかく、すべてが満ちていた。

 

 永遠とは、この一瞬のことを言うのだろう。


 私は静かに、再び目を閉じた。


 

——to be next scene.

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