Scene3:『境界のソードファンタズマ』
………。
空が……ひび割れた。
その中心にぽっかりと開いた“空虚な口”から、
ひとりの男が、ゆっくりと逆さに降りてきた。
——それは……仮面をつけたピエロ…。
そう形容するしかない、黒く巨大な姿だった。
身の丈は五メートル近く、
道化服のようにだぶついたシルエット。
顔は真っ白な仮面で覆われ、
表情は“笑み”に固定されている。
だがその笑みの奥からは、
目も、肌も、感情も……何も見えなかった……。
両手には二本の巨大な杖を持ち、
片方には失敗した人間のような顔が刻まれている。
「ヒィ〜ハハハハ☆!
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいッ!?
まだ滅んでなかったのかい☆、このお国は?
まったくもう☆、しぶといんだからァ!」
杖に刻まれた顔から、
何人もの声帯が混ざり合ったような
不協和音が響いた。
周囲の魔術師団があわてふためき、
警報が鳴りひびく。
「魔王軍幹部
《災厄の道化師 -クラウン・カタストロフ-》
確認……ッ!ただちに迎撃態勢を——」
「やぁだなァ☆、もう。迎撃?
お掃除される側のくせに?」
ピエロが両腕を広げた瞬間、
地面がうねり、建物の壁が泣き声のように軋んだ。
「この世界を“もう一度、最初からやり直そう”って、
主がおっしゃってるのさァ。
偉大なる魔王様の、ご意思ってやつだねッ☆」
——ひゅん……
……ズどおおおーん!!
世界が凹んだような衝撃。
幹部を直撃した砲撃。
熱と音が街の人々に届く前に、
クラウン・カタストロフの影は蒸発していた。
空間の狭間から現れたていたのは、
深紅に塗装された巨大な浮遊要塞、
"シュタインロート・リノベイティド"。
歪んだ空間に半ば埋もれたそれは、
重力を無視するように浮遊し、
そこから伸びた巨大な砲身の照準を
宙に合わせていた。
警報が鳴り続くなか、
私は左手を上げ、ひとつスナップした。
空間の歪に浮遊要塞が消えていく。
突如消滅した魔王幹部に、
魔術師団と兵たちは顔を見合わせるばかり。
指揮官のひとりらしき男が、
私の馴染みのギルド職員から、
事情の説明を受けているようだ。
警報が鳴り終わり、だれかが駆け寄ってきた。
「……お見事ッ!! 我が国の英雄よ!!」
この国の将軍らしき人物が、
膝を折って私の手をにぎってくる。
「ぜひ、来賓としていや、人類の希望としてっ」
私は、スッと手のひらを彼に向ける。
「娘との時間が削られるのは、御免被る」
「で、では。貴方に爵位を!」
静かに、にぎられた片手を振りはらう。
「そのようなモノはいらない。
私が望む称号は"パパ"。それだけだ……」
そう告げると、私は煙のように転移した。
————
なお、私が魔王軍幹部のひとり、
クラウン・カタストロフを撃破した件は、
魔王討伐という、
歴史の転機を加速させる引き金となった。
その約1年後、ついに魔王は討たれる。
戦いの中心にいたのは、
「"トウキョウ"という場所から来た学生」
と名のる、ひとりの少年。
そして、彼と絆をむすんだ仲間たち。
聖剣に選ばれた少年と仲間たちは、
魔王討伐の旅の中、多くの試練と出会う。
そして、図らずもこの世界の構造そのもの……
“世界律”と呼ばれる根幹の謎に触れる。
この世界に存在する『超古代文明』の起源。
まぎれこんだ、『向こうの世界』の片鱗。
——世界を救うとともに、その謎を解き明かす旅。
私も、世界の謎を探るひとりとして、
彼らと大きく関わることになるのだが……。
その件は娘と関係ないので、特に語らない。
さて、それより次のビジネスだ。
──to be next scene.
——なあ、もしも君が、
ある日突然、知らない世界に放り込まれたらどうする?
魔法があって、魔王がいて、
剣と呪文で世界が救える……そんな“物語みたいな世界”。
……笑っちまうだろ?
でも、それが俺の日常になった。
名前は言わない。
ただの高校生だった——いや、元・高校生だ。
俺はこの世界で、“仲間”と出会った。
命を懸けて笑う奴。誰かのために泣く奴。
背負って、守って、信じ合える奴らだ。
そして気づいたんだ。
これはただの“魔王討伐の旅”なんかじゃない。
この世界の“根っこ”に、
もっとでかくて、もっとバケモンみたいな謎が眠ってる。
それを暴いて、切り裂いて、
俺は、俺たちは——
世界を選び直す。
……信じるのは、仲間とこの剣だけだ。




