Scene7:『尾鰭が語る、娘の怒り』
『この世で情熱なしに達成された偉大なことなどない』from 哲学者 フリードリヒ・ヘーゲル
しかし、逆説は成り立たない。
大迷惑な事も、たいてい情熱で為されているのだ。
私は叫んだ。
「思春期の娘みたいじゃないか!!」
だが、私は止まらない。
「……ふふっ。見えた……見えてきたぞ……」
私はゆっくりと立ち上がり、焚き火を背に受けた。
まるで啓示を受けた預言者のように。
あるいは、「ステータス画面!」って言ったあと、
急に自信満々オーラをまとう元・社畜のように。
「これはもう、“父性"の新しい形だな……!」
風が吹いた。
白衣がふわっとはためく。
私はその風すら味方につけた気分で、両手を広げた。
「アクウェリーナ……おまえが何者であろうと、
心があろうとなかろうと」
「私は、すべてを愛そう。すべてを受け入れよう!」
ぴたっ
尾鰭が止まった。
ぴくりとも動かなくなった《【拒絶】のサイン》
「ふふ……まさにこの瞬間だ。“無言の愛”……!」
しかし、私は一歩踏み出す。
しっぽ、ぶんぶんっ!!《【来るな】の意味》
私は、さらに一歩、踏み出す。
「その、ふるえすら、愛おしい……!」
ダメ押しに、もう一歩、近づいた。
ウェーリーが、ぴょん!と後にさがる。
「大丈夫。たとえ心が閉ざされていても、私
は開く! 父として!」
尾鰭が、ぐるぐる……とウズを描いた。
《【もう勘弁して】の動き》
私は、ついに目の前に立った。
風は止まない。
空は青い。
私は神々しい。
「娘よ……いまこそ、私はおまえを抱きしめ……!」
——その瞬間だった。
“ばちぃん!”
尾鰭が、私の顔面を横から薙いだ。
強烈な水音とともに、顔がねじれ、目が回る。
「ほぐぅっ!?」
私は体勢を崩し、ヒザをついた。
視界がぐらりと揺れ、鼻から変な音がした。
——そして、追い打ちが来る。
ばしゃっ!
尾鰭が水を跳ね上げ、
私の顔面にダイレクトアタック。
「ふぐぅっ!? おごぉっ!? ぶばっ……!?」
びしょ濡れになりながら、私は口をぱくぱくさせた。
肺にちょっと水が入った。つらい。かなりつらい。
「……え? え? なに? これ、今の、何……?」
私は振り返った。
アクウェリーナは、尾をゆっくりと揺らしていた。
“ふるっ”と、“ぴと”の中間のような、曖昧な動き。
「今のは……愛情表現……?」
尾が、ふるっ。
「拒絶……でもない。じゃあ、警告……?
いや、それとも、これは……」
私は、わなわなと震えた。
「照れ隠しのツンデレビンタだな! なるほど!」
《違う。全然違う。真逆だ》
私は納得し、深く頷いた。
「いいだろう、娘よ。愛が暴力になることもある。
父とは、それすら受け止める存在だ。
うん、これは、試練。娘からの、愛ゆえの試練」
私は鼻に水を入れたまま、神妙に言った。
「つまりこれは……愛の水責め」
《愛の水責め、かなりギリギリのワードだ》
私は、父としての痛みとともに、
冷たい湖水を背中に受けながら、静かに天を仰いだ。
——to be next scene.
——お父さん的プロモーション-しっぽで語る娘編-
しっぽが止まったとき、私は悟った。
これは、いつもの“しばき”の始まりであると。
……次回あたり、もっとひどい事になる気がする。
——次回予告。
Scene8:ぺしぺししたい、お年頃です。
評価・感想・ブクマ……そのどれか一つでもいただけると、作者はあと三日くらい、SNSのプロフィールに「創作やってます」と書き続ける勇気が湧きます。




