Scene7:『娘の“好き”が重すぎて、そろそろ心臓が止まる』
「人は二度死ぬ。ひとつは肉体の死。もうひとつは、忘れられた時だ。大切な人を覚えている限り、その人は心の中で生き続ける」from 永六輔
——もしも、この物語の主人公が死んでも、それでもなお、娘の心の中にこびりついて離れないだろう。
しかし、それは「生きている」と呼ぶべきか。
それとも「死に損ない」と呼ぶべきか……。
私は、ヴェルミアの前にヒザをついていた。
「ふふっ。ごめんね……?
ちょっと…びっくりさせちゃった?」
ヴェルミアは、あくまでも無邪気だった。
八つの目は、どれも、うれしそうに笑っている。
正面の二つは、まるで恋する少女のように細められ、
他の六つも、パチパチとまばたきを繰りかえす。
それは……好意の証。
「ふふふ……パパの心臓の音、
とっても…ドキドキしてる……うれしいの?」
「……ああ、うれしいさ。心臓が、
……祝福の鐘のように鳴っている……!」
《神経毒による激しい動悸の症状である》
私は白目になりながら、なんとか胸を張る。
「くっ……! この感覚……! かつてないほど、
……オレは今、“お父さん”だ……!」
なんとか立ちあがろうと踏んばる。
しかし……。
ガクンッ。
ヒザから崩れたときの音は、なんか情けない。
「だめだよ……動いちゃ。せっかく…
止まってきてるのに」
口の端がぴくっと引きつる。
まぶたももう半分くらい落ちていて、
“父の威厳”すらもう保てていないだろう。
それでも、私は声をしぼり出した。
「これが……愛の重み……!」
「うん。じゃあね、もっといっぱい……
キスして…あげるの」
「まっ……まって、まってくれ、ヴェルミア!
ご褒美は1日1回までだってあれほど!」
「うん……でも、パパが……
気持ちよさそうだから……」
スルリ……。
クモの脚が伸びてきて、私の胸に巻きついた。
背骨がギシギシと悲鳴をあげる。
「ぐぅっ……これは、試されているんだな……
“パパ”としての耐久力を……!」
「うん……そう、そうやって、
ずっとわたしのものになってね……」
手がブルブル震えて、空をかく。
舌もしびれてきて、もう上手く動かない。
ヴェルミアの八つの目が、ウルウルして、
こっちをじっと見下ろしてくる。
私は、もう焦点の合ってない目で、
それを見上げて、笑った。
「そうか……この目には今、
私だけが映っているのだな……!」
「うん、いっぱい映ってるよ? パパ、好き」
そして……
フッ。
視界がブラックアウト。
《男は、ふわっと床に倒れこんだ。
ヴェルミアは、その胸にそっと男の頬を当て、うっとりした声でつぶやいた》
「これで……ずっと一緒……」
——to be last scene.
ヴェルの“好き”、今日も強烈だった。
心臓が止まりかけたが、これはきっと愛ゆえの試練である。
……視界が、ぐにゃってしてきた。やばい。
——次回予告。
Scene9:的確な救命措置により蘇生した件。
——
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