Scene0:『たった一秒、娘にさわった結果がこれです』
『私の人生にとって価値あるものが何かは、私自身が決めること』
ー「ルプなな 」より引用
——でも、勝手に"価値あるものにされた何か"にだって都合があるのだ。
先に言っておく。
この scene0 は、“第一話のオチ”だ。
それなのに、最初に持ってきた。
理由は、ひとつ。
なろう読者なんてのは、
冒頭ちょろっと読んで、
「雰囲気イマイチ」「ストーリーだるい」「主人公ウザっ」と
秒でジャッジして、即ブラバする生き物だ。
ならば…。
その前に、一番おもしろいとこを見せればよい。
そう、“つかみ”というやつだ。
——この男に イラッ とした人も多いだろう。
でも、もしよかったら……あとちょっとだけ、
読んでみてほしい。
感動とか、エモとかは、そのあとでいい。
まずはエサ。これは戦略だ。
うむ、我ながら……
実にすぐれた“お父さん的プロモーション”だな!
——やめろ。
お前はいくらでも嫌われていいが、
この物語は、嫌われたくない。
では、いこう。
その“つかみ”だ。
──
ちゃぷん…。
湖のまわりは、すっかり夜だ。
小さく水音がして、それきり静かになる。
私はその岸辺に、ひとり…
いや、ふたりで座っていた。
どうしても、もう一度あの娘に会いたかった。
でも、今さら会う資格なんてない。
そう、思っていた。
……それでも。
それなのに、隣には小さなぬくもりがあった。
小さくて、こわれそうな身体。
ひじから先は翡翠 の羽。
足は鳥のようにか細い。
長い黒髪を、うしろでひとつに結び、
長いもみあげが風に揺れていた。
ふぅ……。
「……飛鳥」
私は、その名前を胸の奥で、
かみしめるように呼んだ。
「……少しだけで、いい。さわっても……いいか?」
彼女はうなずき、
やわらかな羽で私の袖にそっとふれた。
「……じゃあ、一秒だけ、ね」
その一秒のために、
私はどれだけ 彷徨ってきただろう。
何度も娘たちに拒まれ、
ののしられ、見捨てられた。
それでも、私は“パパ”になろうとしていた。
あふれ出す気持ちに、もう耐えきれず、
私はその小さな身体を、
そっと抱きしめた。
ようやく手にした救済。
まるで、胸の奥が軋むよう。
心が、ポカポカと温かくなる。
だが。
ドスンッッ!!!
横から、ぶっとばされた。
腹にケリがめり込んで、肺の空気がぜんぶぬけた。
「パパだとォ?
Papa Trashman(ゴミクソ親父)の
間違いだろっ!?」
見上げると、ムラサキの髪の少女。
トゲつきレザージャケット。
ツギハギだらけのゾンビ娘。
……ロメラだ。
その目に光るのは復讐心でも
正義感でもない。
それは…魂のロック!!
そして、まだ体が空中にあるうちに……。
「ちょっと……動かないで、ね?」
ぬるっと何かが体にくっついた。
みると、お人形みたいな顔。
でも、足の代わりに、くっついてるのはクモの体。
ヴェルミアだった。
彼女の、指からのびた、
クモ糸が私の手首にまきつき、
そのままギリギリとしまっていく。
「苦しい? えへへ……よかったぁ」
関節が……逆に、ひっぱられた。
ぐぎっ、
イヤな音がした。
うでがビリビリ痛い。
冷たい悪意を、
天使の顔で言ってくる少女……。
そのまま…
バシュッ!
水をうつ音。
せなかがビリッと痛い。
白衣ごと皮ふを切る、鋭い尾びれのムチ。
アクウェリーナ。
モデル級のスタイルに、下半身はマーメイド。
物言わぬ静謐の精霊。
彼女はなにも言わない。
ただ、尾びれで空中に“×”を描いた。
——それは、失格の烙印。
さらに。
「ふーん、キミはボクの飛鳥に、
そんなことやっちゃうんだ?」
しゃがみこんでるのは、小さな褐色の少女。
少年のような顔立ち。黒髪のショートカット。
無乳。
マハである。
千里眼を持つ観測者。
額の 第三の目が、ゆっくり開いた。
砂をつかんだ、その瞬間。
ズキンッ!!
頭に、鋭い痛みが走った。
まるで、こめかみをブン殴られたみたいな錯覚。
視界がグラグラと歪んで、思考が、ぶっとぶ。
「ちょっとだけ… 頭のフタ、開けてみよっか?」
静かな声なのに、ぞっとするほど響いた。
そこへ…。
「おい、わかってるか?
オマエが飛鳥にさわったってことは、
つまり……」
肩になにかが、のっかった。
ネコだ。いや、ネコミミの少女……
ノーニャだった。
ナビゲーターだが、命令は基本ムシ。
気まぐれで、ほぼ野良。
「殺すってこと、にゃ」
シュッ!!
風を切る音。
頬に、くっきりと爪あと。
次は……はっきりと眼球を狙っている…。
……殺意が…ガチ‼︎
「ま、待って……!!」
ようやく、飛鳥がさけんで、
みんなが、止まった。
「あの人、ちゃんと“お父さん”になろうとしてるよ!」
音がすっと消えた。
少しずつ、みんなが退いていく。
ノーニャが、
最後に一言だけ言い残して去っていく。
「……でも次、“パパ活"したら、マジで殺すにゃ」
だれも……ふり返らなかった…。
私は地面に寝ころがり、夜空を見上げる。
しかし——なぜか口には、しぜんと、
うっすら笑みが浮かんだ。
「……"お父さん"と言うのは、
かくも業の深きものなのか」
——そして……時間は、
ほんの少しだけ、巻きもどる。
——to be first scene.
——お父さん的プロモーション -scene0編-——
冒頭で述べたとおり、本来これは第一話のオチであり、物語の末尾にあるべきものである。
しかし、いきなり叩きつけたのは、なろう読者の“秒速ジャッジ”に抗うためである。
私はこう叫ぼう。
まずは"つかみ"、ボコられるところから見せてやる。
——次回予告。
次は、“パパ”がはじめて“娘”に出会う場所へ。
旅をこえ翼を得た、翡翠の少女……。
——
『このすば』に笑ったなら。『ダンまち』に恋したなら。『リゼロ』に泣いたなら。
パパが。娘達が。作者が。おこぼれを頑張って拾います。
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