↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/97

名も無き少女の眼鏡ちゃん―女生徒

 名も無き少女の独白。朝起きてから一日の心理を描写する、太宰治の『女生徒』は、朝早く目が覚めてぼんやりしちゃってる時に読みたい。そんな作品。



 秋になって、朝方、ひんやりと寒くて眠っていられない。季節外れのタオルケットに潜り、

「もう一度眠れ!」

と祈っている。ああもう、だめ。起きてしまえば⋯



 そうやってこっそり起きて、眼鏡を掛ける。コンロにやかんをおいて湯を沸かす。



(ああ、起きちゃった。もっと寝ていたかった⋯)



 寒さに染みる白湯を。そしていじわるな朝にはこれがいい。そうやって本棚の前に立って、『女生徒』を手に取る。



 白湯で眼鏡が曇りながら、目に飛び込んで来た一文。


 「眼鏡は、お化け」


 眼鏡を掛けた自分が嫌で堪らない、主人公の「私」の、自分の容姿への嫌悪感は、多感な思春期の女の子らしい。


 けど。

 けれど、私もお年頃の年齢よ。



 私は、眼鏡お化けはそれなりに好き。一枚ガラス越しに隔てて世間様と対峙して、ちょうどいいの。



 向かい合って、さあファイティン!


 なんて、そうはいかないでしょう?

 恥ずかしがりやなお年頃。

 ヴェールを一枚、ほしいの。



 でも、眼鏡お化けは、よく見える。



 眼鏡をかけないで見ると、「かすんで、夢のように、覗き絵みたいに、すばらしい」



 そうね。

 見えないと、お人好しの世界なのよね。印象派の絵みたい。滲んだ色が、優しさと、憂鬱にも思えて、外国の風景を観ているみたいな真新しさがある。




 じゃあ、見えない眼鏡が欲しいお年頃ということかな。




 名も無き少女の、眼鏡ちゃん。眼鏡をかけないでいると、きっとロマンチックで可愛らしい。情緒が、眼鏡を外した瞬間、解き放たれて、弱さが溢れ出す。そういう少女の、心に触れた時、申し訳ないような。あどけない表情で見つめられて、ごめんとつい口から突いて出そうになる。眼鏡を掛けていて。お化けを纏って。そんなアドバイスは、大人の私だからしてしまうんでしょうか。




 夜が明けて、いじわるな朝が終わりそうになる。白湯はとっくに覚めて、なんだか期待外れなマグカップに成り下がったような。そんな朝。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。