心の奥に封じた想い
彼の事は人間として気に入っていた。
というより、密かに好いていた。
今まで色々な人間に会ってきたが、彼以上の気持ちになった事はなかった。
それは初恋の相手すらもはるかに超えていた。
かといって、そんなに美青年かと聞かれればそうでもない。
それに、真面目だがかなりの気分屋で好き嫌いが激しい。
まるで子供のまま、そのまま大きくなっただけの奴。
これだけではまるで魅力が無いように見えるが……しかし、時々現れる大人の部分に私は心を奪われてしまったのだ。
いわゆるギャップというやつか。
砂糖たっぷりの甘ったるい香りを纏いながら、いざ一口齧ると口の中にほろ苦さが広がる。そんな、お菓子のような。
ふざけた事を言いながらも、常に細かく気を遣える男だ。
私が暗い顔をすれば、おどけて笑わせてくれる。
指示した訳でもないのに扉は開けてくれるし、重い物は私が手を伸ばすより先に彼が持つ。
私が食事の支度をしていれば、彼は勝手に洗濯物をしまってくれる。
そしてなにより、魔法を練習している時の真剣な顔……あれを見せられると、私はうら若い娘に戻されてしまう。
どうにもドキドキしてしまうのだ。
卒業して外に出たら相当モテるだろうな!なんて茶化してよく言っていたが、実際そうだろう。
こんなよくできた将来の旦那を女達が放っておく訳がない。きっと引く手あまただ。
とはいえ、私はこの歳。相手にされるはずがない。
もし二人の未来があったとしても……彼の若い時代を無駄に消費させるか、あるいは遊ばれて終わるか。
どのみち、きっとろくな事にならない。
まともな脳みそがあれば誰だってそういう結論に至るだろう。冷静に考えればすぐに分かる事だ。
だから、私はこの想いをずっと胸の奥に封じている……今この瞬間も。
差し出されたそれ。
今すぐにでも彼の方に手を伸ばしたかった。
しかし、私の頭がそれを拒んでいた。
自分の腕なのにピクリとも動かない。まるで金縛りのようだ。
私と彼はただ静かに動かない腕を見つめていた。
間を置いて、状況をなんとなく理解したらしい彼は悲しそうに目を伏せた。
私の心は悲しみに沈んでいく。
あれほど強く体を支配していた頭は、何ら問題ないと言って今は何一つ指示を出さない。




