美しい女性はそこに
目を伏せたまま腕を組みその場にじっと佇んでいると、しばらくしてポポン!と音がした。
今までとなんとなく感覚が違う……成功か?
いや、喜ぶのはまだ早いか。
彼はニコニコしながらこちらを見ている。
気が早い奴め。まだ合格とは言ってないというのに。
鏡の前に立ち、『試験結果』を確認してみる。
いつも来ているボロ布のローブは綺麗な淡い紫色のドレスに変わり、伸び放題ボサボサの銀髪は綺麗に整えられてさらさらだ。
たいして手入れもされず荒れ放題だった私の肌は、一瞬で艶を取り戻しみずみずしくなった。
霞んで病人のような血色だったが、今じゃすっかり明るくなり生き生きとしている。
目元はぱっと鮮やかになり、頬には薄っすらピンク、そして唇には真っ赤なルージュ……ふむ。
メイクだのなんだのそういった事に疎くなった私にはよく分からんが、少なくともパッと見は悪くない。なかなか上出来だ。
ふむふむ。よしよし。いいぞ、できるじゃないか。
「なかなかいいぞ。だが、惜しいな……あともう少し、ほんのもう少しなんだが……」
「へ?何がです?」
きょとんとするエディのおでこを指で弾く。
「いてっ!」
「バカタレ!これでは『美女』ではなくて、『美女の装いをした私』ではないか」
「……?いえ、『美女』ですよ」
エディはさも当然のようにそう答える。
真面目な顔で何を言うか。とぼけおって。
「これがか?!」
「はい、成功です」
どこがだ!
どう見ても違うだろう?!このすっとこどっこいが!
「まったくお前は!美しい女に変身させろと言っているだろう!あれほど何度も言っているのに、お前は……!」
「『美女』ですってば!」
「違うわい!お前の目は節穴か!よ〜く目ん玉見開いて見てみろ!」
「いえいえ、ここにおられるのは紛れもなく『美しい女性』です!」
こやつ!強情を張りおって!
「何がだ!」
「『美女』です!」
「嘘つけ!」
「ほんとです!」
「訳分からんことを言いおって!」
「そっくりそのままお返しします!」
「……全く、しょうがないお方だ」
いつまでも続くかと思われた押し問答は、急にトーンが変わった彼の言葉でピタッと止まった。
さっきまでのふざけた軽い口振りとは打って変わって、何かを観念したかのような落ち着いた口調。
「そ、それはお前さんの方だろう?散々ふざけおって……」
いつもと違う雰囲気に思わず強張る私の体。
引き続き同じように反論を続けるつもりが、震える声は隠せていなかった。
「いいえ、ふざけてなどいませんよ」
そう言い、ニコリと微笑むと彼は突然私の目の前に跪いた。
「ここにおられるのは、紛れもなく『美しい女性』ですから……」
呆気に取られ固まっている私の右手を取ると、手の甲にそっと唇を落とす。
「……僕にとっては、ね」
「な……っ!」
驚きと困惑の入り混じった表情で彼の方を見ると、涼しい顔をしていた。
「ははっ。そうやって照れてらっしゃるのも、なかなか可愛らしい……」
えらく余裕綽々の態度。
なんとなく悔しくなってキッと睨むも、彼は穏やかな笑みを崩さなかった。
「おや、お気に召さなかったでしょうか……『お嬢様』?」
「……っ!からかうのもいい加減にしろ!」
「あれ、お姫様の方が良かったですか?」
「それ以上言うんじゃない!」




