閑話 貴族達の内緒話 (前編)
今回は貴族側でのコソコソ話です。
私こと、ジェラルド・ハーヴィンは今王城へと馬車で向かっている。
娘の命を救われ、カイン君とベロニカ君の二人と運命的出会いを果たしてから早くも一週間が経った。
この僅か一週間で私の常識が何度覆されたか分からない。
まず、精霊が実在するという事実。そして魔力操作によって起きる肉体面の様々な向上効果。そしてカイン君の神器と呼ばれる武具に宿る精霊と対話が出来る希少能力。
このどれもが他国に知られればこの国にとって大きな損失になるだろう。
そう、勇者殿達の言は嘘ではなかった。そして剣聖殿の弟子であるベロニカ君は時代を引き継ぐ素晴らしい逸材だと私も納得するが、それ以上にカイン君を手放すべきではないと私は断言する。
この事をこの一週間掛けて観察し、まとめた書類を陛下へ献上し、早急に彼を取り込む算段を考えねばならん。その為にも私と同じ大貴族であるクロード公爵家や魔法師団長であるグリモア―ル家にも声を掛け、今回の会議を開く手筈を整えていたのだ。
私の構想内だけの案だが、あのボケ王子との婚約の破談を期にカイン君をパトリシアの婿に迎えても私は一向に構わないと考えている。それほどまでに彼の存在価値は他者を逸脱しており、彼の本当の価値に気づかれればどの国もこぞって彼と婚姻を交わし、身内に引き入れようとするだろう。
口には誰も出さないが、はっきり言って陛下はあの小僧の教育に完全に失敗している。
確かに貴族から平民まで、格差を超えた愛物語は多々存在し、愛読されたり劇になったりと関心が多い事は事実だが、現実にそれが起これば血で血を洗う凄惨な事になるか、貴族としての価値を全て失い、貧困な目に合うかのどちらかでしかない。
その事実から目を背け、今も下級貴族である者と乳繰り合っているのがいいのであれば好きにさせてやればいい。ただし、行動の責任は取ってもらうがな。
♦♢♦♢
そんな事を考えていたジェラルドの馬車は何事もなく王城へと到着し、御者に馬車の扉を開かれる。
「旦那様、どうぞ」
「うむ」
いつも通り、王城前で馬車から降りるとすぐ近くにクロード公爵家の家紋が刻まれた馬車が目に入る。
「あれはクロード公爵家の……そしてあれが噂の戦闘場か。噂に違わぬ立派な体躯をしているな」
独り言を呟いて様子を見ていると、その馬車から一人の男性と少女が降りてくる。
ジェラルドの存在に気づいたのか、すぐに二人はジェラルドの下へと歩いてくる。
「おはよう、ハーヴィン卿。良い朝だな」
「ええ、おはようクロード卿。そちらのお嬢さんは確か例の?」
少女の姿を確認し、ジェラルドは彼女が上位貴族間で噂になっていた魔物に拉致された末娘であると思い出した。
「やはり卿は知っていたのか。この度は陛下に娘の無事な姿を見せ安心して貰い、ある者を陛下の耳に入れたいと思って連れて来たのだよ」
「ほう。私としましても彼女の事は気に掛かっていました。見た所跡が残る傷もなかった様子、無事で何よりでした」
まったくだ。とクロード家当主、アーネスト・クロードは大きく安堵の息を漏らす。余り城門の前で長話をするべきではないと一旦会話を中断し、三人は案内の兵士に連れられ王城内へと歩んでいく。
兵士に連れられた三人は何度も入った事がある応接室へと案内される。
暫く三人は雑談を交わし、国王が現れるのを待っていると、出入口の扉がノックされ、複数人が部屋へと入って来る。
三人は臣下の礼を取ろうと席を立つが、先頭の男性に手で制される。
「よい、この場は身内と信のおける者しかおらぬからな。楽にするがいい」
この男性こそ【アインザート王国】の国王、ジラート・アインザートであった。
「「はっ! 陛下もお変わりなくご健在でなによりです」」
うむ。とジェラートが頷き上座に座ると、後方に控えていた人物が一歩踏み出て自己紹介を始める。
「お久しぶりです叔父上方。第一王子、カフェラ・アインザードです」
そこにはキラキラと輝く金髪と整った容姿と礼儀正しい礼をした青年がおり、青年は国王の直系の子供であり、次代を継ぐ王族である。国王は今回の話が未来に大きく関わると判断し、彼を同席させる事を許可した。だが、国王の表情は怒りの顔へと変化する。
「カフェラよ、あの馬鹿息子はどうした? 今回の件は大事な案件故に参加するよう言伝を頼んでいたはずだが」
第一王子は国王の言葉にびくりと身体を跳ねさせ、しどろもどろに返事をする。
「あ~、弟は何でも大事な要件があるからと城を出て町へ……」
「ほぉ……この国王である俺が呼んだ事よりも大事な要件ってのは何なんだろうなあ?」
カフェラの言葉を聞き、ジラートの口調が粗暴なものへと変化する。
威圧感が増し、カフェラの身体がブルブル震えていると、バァン! と勢いよく入り口の扉が開かれる。そこにはジェラートとカフェラによく似た青年が立っていた。
「全くよぉ、ちょっと城の外に出ただけだってのに強引に連れ戻しやがって! おっ、叔父さんじゃん! 久しぶり~」
「おい、カスタド。お前俺が会議に出ろって命令したのにすっぽかそうとしやがったな? どういう了見か説明しやがれ」
激おこ状態である事に気づいた第二王子カスタドは兄同様にしどろもどろに返事をする。
「い、いや~。俺難しい事わかんないし居ても居なくても同じかな~って」
カスタドがそう返答し、自身を落ち着かせようと飲んでいた紅茶のカップの取っ手が折れる。
「てめぇ、またどこぞの町娘にちょっかい掛けようとしてたのか」
「ひ、ひいいいいい」
ジェラートの怒りに反応し、魔力が身体から漏れ出す。すわ、ここで一波乱か!? といった所に一人の男性から声がかかる。
「陛下、そのような話は会議が終わってからにして下さい。今大事なのは事の案を聞く事では?」
「そうですよ陛下! この国の魔法に革命をもたらすやもしれぬ案件と聞き、私は居ても立っても居られない状態なんですから!」
そう口にするのはジェラートを古くから知っており、ずっと傍で支えて来た男性と、ローブで身を包み如何にも不健康そうな男性であった。
「――そうだな。おら、扉の前で情けなくすっころんでねえでさっさとカフェラの隣に並べボケが」
いそいそと起き上がり、カフェラの隣へと立つ。こっちはいい迷惑だ! という意味を込めてカフェラがジト目でカスタドを睨む。流石にカスタドも気まずいのか、さっと視線を逸らす。
「それじゃあウィスドム、ノウ、質問は最後だ。まずはこいつ等の話を聞こう」
「「畏まりました」」
ようやく会議の場が纏まった所でアーネストが口火を切る。
「では、まずは私から。まず、我が末娘チェルシエルが旅先で魔物の強襲に合い、拉致され危うく身を穢され命を落とす所でした。ですが、新人冒険者と名乗る少年、少女の二人に助けられ、この通り無傷で生還を果たしました」
クロードの説明で自身の名前が出た事で一歩前に出て自己紹介をする。
「皆様、今回の件でお騒がせして申し訳ありません。チェルシエル・クロードは無事純潔を散らす事なく皆様の前に姿をお見せ出来る事が叶いました」
そう述べ、ペコリと頭を下げる。
「よい、苦労したなチェルシエルよ。姪の無事を俺は嬉しく思うぞ。しかし新人冒険者に助けられたというだけで話題に出すには些か仰々しくはないか?」
「はい。それだけでしたら手紙だけでも済む話。ですが、肝心なのはここからです。娘を救ってくれた冒険者は僅か二人と奴隷二人で小鬼の巣に潜入し、壊滅させたのです。後に巣の規模を確認した所、50以上の数だったと報告を受けております」
「待て、新人冒険者が奴隷を連れているものそうだが、50匹規模をたったの四人で壊滅させただと?一体どこの英雄譚だそれは」
アーネストの説明に眉間の皺をほぐしながら疑問を上げる。
「確かにそう思うでしょう。これ程の規模は騎士団でも相応の数を用意し事に当たらねばなりません。ですが、事実彼等はこれを成し遂げ娘の身を救ってくれたのです」
「そして奴隷ですが、そちらは偶々大金を少年が持っており見捨てられず購入したとの事です。これは本人達から伺ったので事実と思われます」
アーネストの言葉に両公爵家以外の人間が困惑の色を隠せずにいた。
「続けますね。私は娘の無事を聞きすぐに最高級の迎えを出し彼等に娘の護衛を依頼しました。事実かどうかを確認する必要がありましたし、一人の父親として礼を欠く事はしたくなかった為です」
アーネストの言葉に大人達は子供を持つ親なら当然だと頷く。
「しかし、彼等の旅も王都近くの森で危険に晒されます。10数人の刺客に襲われ、油断した所を当家に長年仕えていたメイドが娘を裏切り、手に掛けようとしたのです。ここでも少年達が素晴らしい立ち回りで娘の命を助けてくれました。他の者であれば間違いなく命を落としていたでしょう」
「一体その新人冒険者達は何者なのだ? 公爵家の令嬢を狙う者が全く居ないとは俺も言わん。貴族社会では裏で血を流す事は珍しい事じゃない。だが、相応の者が刺客として送り込まれるはずだ。相手は大貴族公爵家、失敗すれば手痛い仕打ちが待っているからな」
「そこです。実は当家に彼等を招き入れ知った事実なのですが、なんと二人の内の一人が彼の剣聖ソドルスの弟子だというのです」
両公爵家以外の面々が驚愕の表情に変化する。ジェラルドの表情に変化がない事に気づいたアーネストは不思議に思い声を掛ける。
「ハーヴィン卿は驚かれないのですな。もしや彼等の存在を既にご存じで?」
「ああ、私もチェルシエル嬢同様、彼等に娘のパトリシアを助けられましてな。後で話そうかと思いましたが丁度いい。陛下、私からも報告を宜しいですか?」
「アーネストに問題がないのならば構わんが」
アーネストはここから助けられたチェルシエルの婿にカインを迎え、自身の身内へと引き込む算段を報告しようと考えていた。だが、貴族としての格が同等で同じようにカイン達を知るハーヴィン公爵家の話も無視できず、ジェラルドの説明を聞く事にする。
「ええ、私からの報告は大方済みましたのでハーヴィン卿の報告を聞きましょう」
こうしてジェラルド・ハーヴィンからの報告が始まる。
読んで頂きありがとうございます。
面白かった、続きが気になるかも、と思って頂ければ
ブックマークや評価の☆部分を★をクリックして頂ければ励みになります。




