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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
最終章 本当の姿

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第30曲 もうひとつの家族の形

 結局、ツアーは山形、金沢、静岡、京都、鳥取、愛媛、宮崎で行うことになった。

 前回は全国五都市での開催だったのが、今回は七都市。


 日程が前回より長くなったのは当然だけど、やはり地方都市だけあって大人数を集められるだけの箱がなくてほとんどが野外コンサートになってしまった。

 どこまでも広がる空の下、声を大にして唄うなんて初めての事なのでとても楽しみ。


 お願いだから前回みたいに停電トラブルは勘弁してほしいけど。さすがに音響も何もない露天で隅々まで声を響かせるなんて不可能だし。


「ツアーが終わるころには暑くなりそうだな」


 キャリーバッグを片手に二階から下りてきたより姉が椅子に腰かけながら言う。


「ひよりのお腹も大きくなってくるのかな?」


「それくらいではまだ目立つほど大きくなりませんよ。予定日は来年の春ですから、人によりますけど妊婦だと服の上からでも分かるようになるのは年が開けてからじゃないですか」


 わたしの質問にかの姉が答えてくれた。

 いくらこんな見た目をしていても、女の人の体にまで詳しくないわたしには新しい事ばかり。

 お父さん教室とかにも参加した方がいいのかな。


「ゆきはなんでもできるから心配ない」


「いくらわたしでも知らないことは勉強しないとできないよ。これから時間を見つけては調べていかないと」


 あか姉の信頼は嬉しいけど、わたしだって最初から何でもできるわけじゃない。人間離れしてる面があるのは認めるけど、それでも基本は人間なんだから。

 そんな話をしていると、ひよりの部屋から物音が聞こえてきたので二階に上がった。


「ひより、準備できたー?」


「あれ、ゆきちゃん? どうしたの?」


 不思議そうな顔でわたしを見てくる。やれやれだ。

 自分の身体がどういう状況なのか自覚を持ってほしい。


「荷物重いでしょ? 重いものを持たせるわけにはいかないからね」


 妊婦に重いものを持たせてはいけないと書いてあった。ましてやまだ安定期にも入っていない妊娠初期。流産する危険性が比較的高い時期らしい。


「いくらなんでも過保護すぎだよ。これくらいの重さならどうってことないよ」


「そんなこと言って何かあったらどうするの! 用心するにこしたことはないんだから」


 なんで妊娠してる本人がこんなに呑気なんだろう。


「少しは動かないとダメなんだよ。無理は禁物だけど、軽い運動程度ならしたほうがいいし、わたしの場合つわりもないしね」


 お母さんはより姉とひより、どちらの時もひどいつわりに苦しんだそうだからとても羨ましがっていたな。

 まれに何の症状も出ない人はいるみたいだけど。


「きっとわたしとゆきちゃんの身体の相性が抜群なんだよ。きっとゆきちゃんの子供を産むために作られた体なんだよ。ね、パパ」


 そう言って頬をついてくるのはいいけれど、身体の相性とか誤解を招くような表現はやめて欲しい。


「もう、真っ赤になっちゃって。父親になるというのにそういうところはホント初心なんだから」


 ケラケラと楽しそうに笑ってるけど、ひよりの方こそたくましくなり過ぎじゃない?

 かつてはあんなに無邪気だったのに……。


「女はね、年を取るにつれて強くなるし、母親になればもっと強くなるんだよ」


 女の人は男よりもしたたかだって話はよく聞くけど、自分の身内でそれを体験してしまうと妙に生々しく感じてしまうんだよなぁ。

 そりゃそうだよね。ずっと妹だと思っていたけど、ひよりだって女の子だし、今ではわたしのお嫁さんだもんなぁ。


「だからといって力まで強くなったわけじゃないでしょ。いいから荷物を貸しなさい」


「そんなに腕力変わらないくせに。でもパパの言うことも聞かないとね」


 そう言ってキャリーバッグの取っ手を差し出してくる。

 まだパパって言われるのはなんだかこそばゆいな。単純に慣れの問題だと思うけど、ついこの間まで学生だった自分たちがもう親になるというのがなんだか変な感じだ。


「っておも! こんな重いものを一人で運ぶ気だったの!? ダメでしょうが」


「えー。そんなに重くないよ。実はゆきちゃん、わたしより腕力なかったり?」


 そんなことはない! ……はず。

 これでも一応男の子なんだからね。でないと父親としての威厳が……。


「うそうそ。ちょっといろいろ詰め込みすぎちゃって重くなっちゃった。だからゆきちゃんに甘えちゃうね。頑張って、パパ」


「またパパって言ってる。ひよりだってママじゃん。でも、わたしは子供が産まれてもママって呼ばないけどね」

「どうして?」


 不思議そうな顔をしてるけど、ママって呼ばれたいんだろうか?


「だってひよりはわたしのママじゃないし、母親として見るんじゃなくていつまでも一人の女性として扱いたいからね。だからいくつになってもひよりはひよりだよ」


 わたしの答えに驚いた顔で頬を染めたかと思うと、とても幸せそうな顔になって腕を絡めてきた。


「やっぱりゆきちゃんを好きになってよかったなぁ。歳をとってしわしわになっても仲良く手をつないで歩こうね」


「そんなの当然だよ。ひよりはお嫁さんでお母さんになるけど、いつまでも恋人のような関係でいたいと思っているからね」


 元々家族だから、子供が産まれて親になり、普通の家族になってしまうのは簡単だろう。むしろ、境界線があいまいな分、より遠慮のない関係になることだってできると思う。

 だけどわたしの理想としては、いつまでも仲良く過ごすために、愛する四人にはずっと恋をしていたい。

 せっかく家族という垣根を越えて恋人、そして夫婦になれたんだ。

 もう一度同じ枠組みに戻るんじゃなくて、もっと発展させて新しい形での家庭を作りたいと思うのは欲張り過ぎだろうか。


「いっぱいデートもしようね!」


 ひよりの嬉しそうな反応を見る限り、わたしだけが夢想しているというわけでもなさそうだ。

 今感じているこの愛しい気持ち、切ないほどに高鳴るときめきをいつまでも大切にしていきたい。


 それはひよりだけに対してだけじゃなく、他の三人に対しても同様だ。

 いつまでも仲睦まじくいるために、愛する人、恋人だという気持ちを持ち続けようと思う。


「ゆきちゃんってロマンチストだよね」


「そうかな。でも男なんてみんな大なり小なりそんな面があるんじゃないの?」


 そこが女性からは子供っぽく映ったり、夢見がちだと思われたりするのかもしれないな。

 男の子はいくつになっても夢見る心を忘れることが出来ない少年のようなものなんだよ。


「人の心に響く歌を作るには少しくらいロマンチストな心も持っておかないとだよ」


「確かにね。ゆきちゃんはそれがお仕事だし、人生そのものと言ってもいいもんね」


 ひよりの言うとおりだ。最初は人々を幸せにするという使命を自分に課し、それが生きる目的そのものだった。それを姉妹たちの献身的な愛情に変えられて、生きる目的から人生の理想形へと昇華することが出来たんだ。それもこれも、今でもわたしを支えてくれている四人の愛妻たちのおかげだ。


「これからはわたしがあなた達を大切にしていく番なんだからね。もっといっぱい頼ってくれていいんだよ。


「わたし達だっていつまでも大切にしていくよ。でも、そうだね。ずっと愛してくださいね、悠樹さん」


 今度はわたしが驚かされる番だった。今まで家族から本当の名である「悠樹」と呼ばれたことはなかった。

 それはわたしが男性であるということの証明であり、ひよりにとっての彼氏、夫、父親として認められているということに思えてしまった。ヤバイ、嬉しい。


「あらら、締まりのない顔になっちゃった。名前を呼ばれたのがそんなに嬉しかった? 悠樹さん」


 いかん、顔が緩むのを止められん。

 呼称が変わるだけのことなのに、これほど破壊力があるとは思わなかった。


「まぁ悠樹がわたしの本当の名前だしね! ずっと大切にするから大船に乗った気持ちで安心してくれてたらいいよ!」


(すごく喜んでる。こういう単純なところはゆきちゃんらしくて可愛いんだよなぁ)


 ひよりがニコニコしながらわたしを見ているけど、何を考えているかまでは分からないのできっと頼りにしてくれているんだろうと都合のいいように解釈することにした。

 だってわたし、彼氏だし、お父さんにもなるんだもんね!

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