第22曲 人類を越えた挑戦
「ブラボー! 鬼気迫るデモンストレーション、確かに見届けました。リハーサルでは一度も成功しなかったのを、本番ではたった一度で成功させるとはさすがですね。感動しました」
ローリーさんが拍手をしながらコメントを語る。観客たちは総立ちで熱狂しているが、彼は椅子に座ったまま冷静な笑みを浮かべる。
この後に控える挑戦のことを知っているからまだ余裕なのだろう。エアガン程度は『デモンストレーション』なのだから。
それにしてもリハーサルでの失敗をここでも持ち出してくるとは……。
「ありがとうございます。まぐれではないことを証明するために、もう一度同じことが出来ますが再挑戦しましょうか?」
失敗を強調するあたり、まぐれだと思われていても心外だ。
今のわたしなら何度挑戦しても結果は同じ。いつでもかかってこい。
だけど彼の反応は違うものだった。
「いえいえ。先ほどの気迫と動きを見ればこれくらいは朝飯前なんでしょうね。この次に控える挑戦を見事クリアすることが出来たら、本物だとは思いますが」
なるほど。なんというか、分かりやすい人だ。
次の挑戦が待ち構えている以上、次で失敗すれば今回の事も自動的に「まぐれ」になってしまう。印象操作というやつだ。
要するに次のチャレンジは成功するはずがないと思っているんだろう。
上等だ。あんまりわたしを舐めるなよ。
だけどそんな反骨心はおくびにも出さず、いつもの笑顔。
「それもそうですね。では早速次のチャレンジに移りたいと思いますので、準備の方を進めていただけますか?」
その挑戦、受けて立ってやる。
その言葉に笑みを浮かべるローリー氏。ずいぶんと挑発的な笑顔だ。
「分かりました。スタッフさん、打ち合わせ通りお願いします」
司会の進行に従って、現場のスタッフが少し緊張した様子で、慌ただしく動き始める。
その隙に五代さんがそっと近づいてきた。
「ちょっとゆきさん。次のチャレンジってわたしは何も聞いてないんですけど。いったい何をするつもりなんですか?」
「えぇっとぉ。番組のスタッフさんとちょっと直接交渉いたしまして。何をするかは見ていればじきに分かるかと……」
「なんで目が泳いでるんですか。絶対ロクなことじゃないでしょう」
「えへへへ……」
とてもじゃないが目を見て話せない。だって知ったら絶対怒るもの。
そういう意味では姉妹たちの反応も心配だ。
今はまだ何が起きるのか分からなくて、きょとんとした顔をしているけれど、次に運ばれてくるものを見たらどういう表情になるのやら……。
そう思う間もなく例のブツが運ばれてきて、彼女たちの表情が凍り付いた。
ドイツ製ルガーP08。9ミリパラペラム弾が開発された当時から使用された歴史ある拳銃で、弾丸の初速は秒速三百二十~三百五十メートル。音速である秒速三百四十メートルを超えると衝撃波が発生して危険なので、調整して三百二十メートルに抑えてもらっている。
それでも先ほどのエアガンの倍以上の初速だし、弾丸の重さが三十~百倍もあるので威力に至ってはそれこそ桁違いだ。
こんなものさすがに正面どころか横からでもキャッチすることはできないし、素手だと手のひらがズタズタになってしまう。
なのでもうひとつ、わたしの元に運ばれてきたアイテムを装着する。
手のひら部分に金属の鉄板が貼られた軍用手袋。この形状を見ても分かるように、飛んでくる弾丸を受け止めるのではなく弾き飛ばすというのが次の挑戦だ。
跳弾の可能性も考えて、アクリル板の数は倍増し、上部も覆われて完全防備。唯一わたしの立つ部分だけが開いているだけだ。
当然というか予想通りというか、全ての用意が整う前に四人の姉妹が飛んできた。
「ゆーきー!」
「説明!」
「あれって本物の銃ですよね!? どういうことですか!」
「何考えてんの、このバカ―!」
四姉妹が飛び蹴りしそうな勢いで飛んできた。
「大丈夫! 大丈夫だってば! 危険なことはしないから!」
「「「「説明しろ―!」」」」
五代さん含め五人の剣幕に押され、本番へと移る前に詳細な説明をすることになってしまった。
その姿もばっちりカメラに収められており、会場は大爆笑。ゆきちゃんお説教タイムはご丁寧に通訳までされ、さらに笑いの渦に包まれる。
「というわけでね? 弾道の正面に立つわけじゃないし、横からチョンと弾くだけだから怪我もしないの。分かってくれた?」
大まかな事を説明し終わり、最終確認をすると渋々と言った表情の五人。
「なにがチョンと弾くだ。簡単に言ってるけど、ちょっとでも早く手を出しちまったら腕に風穴が開くじゃねーかバカ」
まだ怒りが収まらないのか、より姉がありそうでありえないことを言ってくる。
「あてずっぽうで手を出すわけじゃないからそれはないってば。プロ野球だって空振りはボールが通り過ぎてからでしょ? しっかり見て動く以上、遅れることはあっても早くなることはないよ」
「むぅ。そう言われるとその通りなんだが」
やはり実弾を使うというのは日本では馴染みがない以上、過度に心配してしまうのは仕方のないことなのかもしれないけれど。
「危険はないし、絶対に怪我をしないって約束する。よく考えてみて。生身の人間が銃弾を弾くってアニメでしか見ないくらいインパクトのあることだと思わない?」
今日は決して遊びに来たわけではない。アメリカに大きな足跡を残すため、チャレンジしに来たんだ。誰も真似できないんじゃないかということをやり遂げてこそ大きな話題になることは、ここまでわたしの配信を手伝ってきたこの人達なら分かってくれるはず。
「本当に怪我しないんだな?」
「絶対」
最後の念押しに対し、確信を持って答えて見せる。
そこまで言ってようやく全員がため息をつきながらも承諾してくれた。
「本当にゆきちゃんは一度言い出したら聞かないんですから」
「ほんと頑固だよねぇ」
「しかも秘密でやるのがタチ悪い」
「次からは絶対あたしらに許可を取るように!」
前もって言ってたら絶対許してくれないくせに。
「なんか言ったか!?」
「いえ何も」
わたしってそんなに顔に出やすいのかな。心を読むのはやめてってば。
とにかくいろんな意味で準備は整った。
五人に黙って事を進めた以上、絶対に失敗は許されない。
銃の台座には映画なんかでよく見る、かつてのドイツ帝国陸軍が使っていた細身の銃身がこちらを狙っている。
あそこから本物の銃弾が飛び出してくるのだと思うと、体には当たらないと分かっていても緊張感が高まってくる。
わたしの場合はそれと同時にアドレナリンも分泌されるようで、今からあの弾を弾き飛ばすのだと考えるとワクワクが止まらない。こんなナリでもその辺はちゃんと男の子なんだなと、ちょっと誇らしく思ったり。
「それではわたしも配置につきますので、射手の方も準備お願いします」
わたしの言葉で射手を務める男性がルガーP08に手をかける。
さすが銃大国。本物の拳銃を前にしても何ら動揺することなく、自然体のまま。
それに対して日本からやってきた五人の女性は祈るように手を前に組み、心配そうな表情を崩さずにじっと見守っている。
わたしは一度後ろを振り返り、エアガンの時にもやったように笑顔でサムズアップ。
わたしの絶対的な自信が伝わったのか、ようやく笑顔を見せてくれた。
いよいよ本番の時が来た。わたしは先ほどまでの気持ちを完全に切り替え、先ほど以上の鋭い視線を投げかけた。
その視線の鋭さは、直接見られたわけでもない射手の男性が思わず怯んでしまうほど。
失敗できないという気持ちよりも、何がなんでもやり遂げてみたいという思いの方が大きいのは性格というやつだろう。
「それではお願いします。カウントダウンはいりません」
前回と同じセリフを吐き、重心をググっと落とす。
余計な力の入っていない、いい構えだ。懸念があるとすれば硝煙で発射の瞬間が見えにくいことだけど、対象となる弾丸はエアガンに比べて相当に大きい。
距離はエアガンの時と違い、五十メートル。秒速三百二十メートルで到達する時間は0.16秒弱。手のひらにはめられた鉄板で正確に弾く必要があるから、タイミング的にはさっきよりもシビア。
だけどわたしは絶対の自信を持って発射の瞬間を待つ。
射手の指がトリガーにかかる。
「パンッ」という金属的で鋭く、高く乾いた音が周囲に響き渡った。




