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序
その日も夜半までは静かだった。
消灯を告げる声はとうに殿舎をめぐり終え、いずれの部屋も深い闇の底。風もないのでまことに静かで、庭で啼く虫の声さえ夢か幻かというほどに遠い。
――ああ、今日は眠れる。
寝間に入り、女はまるく、やわらかな息を吐く。
瞼に降りかかるとろりとした重みは甘美なほど心地よく、ただそれに身を任せるばかりでまどろみ、たゆたい、静かに夢に沈むよう。
チチチチチ――と、戸の外で雀が鳴いたのは、そのときだった。
はっと息を詰めて身を起こすと、声は種火のようにふっと消え、そうかと思うと今度はべつの方で新たな声が聞こえる。
チュチチチチ。
チチチ、チチ。
チュチュチュチュ。
北から、東から、南から、西から。
天井裏からも、床下からも、現れては消える幽鬼のように雀は鳴いた。
翼をもがれでもしたのだろうか。
あるいは本当にもの憑きの鳥なのか。
次第に激しさを増す鳴き声は悲鳴のようで、女はたまらず布団をかぶり、赤子のようにまるくなる。
――きっと今宵も気がふれたように鳴き続けるのだろう。
浅い息を抱きしめ女は震える。
夜明けは、遠い。




