魔術決闘・中編「駆け引きの末に」
魔術を解いたエヴァを見て、
シンバは徐々に間合いを詰めていく。
エヴァは魔術を使わず、
身体能力だけで攻撃をかわし続ける。
「おいおい! 魔術を使わねぇなんてよ。
俺も舐められたもんだぜ。」
だが―
次第に、エヴァの呼吸が乱れ始める。
「どうしたどうした! 防戦一方じゃねぇか!」
ナイフが頬をかすめ、細い赤い線が走った。
「エヴァさん…」
エヴァに心配の眼差しを向けるモロ。
エヴァは冷静にシンバの攻撃に対処する。
そしてついに
ー
「……ここよ」
エヴァは、体勢を限界まで低く落とす。
次の瞬間―
地面に、赤い稲妻のような光が走った。
衝撃が叩き込まれ、石畳が砕け、衝撃波が走る。
「――っ!」
足元をすくわれ、シンバの体勢が崩れた。
「もらったわ…!」
エヴァは一気に距離を詰め、拳に衝撃を纏わせる。
――だが、その瞬間。
「ッ…!」
シンバの身体が、消えた。
「透明……!」
モロの声が、震える。
「あまいわね。透明になっても―」
エヴァは拳の“感触”を頼りに
「実体は残るのよぉー!」
【衝撃の魔術】を纏った拳を勢いよく振り抜いた。
バゴォン!
静寂ののち、乾いた音が聞こえる。
ファサッ。
「えっ。」
「わりぃな」
背後から、間の抜けた声。
次の瞬間、エヴァの身体は前のめりに崩れ落ちた。
シンバはエヴァが倒れたのを確認すると、
音の正体である、自身の上着の元に向かった。
そして、それを着ると、
「うっしゃー!勝ったぜー!」
全身で喜びを爆発させた。
「勝者!シンバ!」
店主が高らかに宣言する。
「すげーぜシンバ!」
「あのエヴァに…タイマンで勝っちまうなんてな!」
酒場の中で静観していたお客たちが、
一斉にシンバに駆け寄る。
モロはそんなお客たちを横切り、
「え、エヴァ…さん?」
「…あぁ…ぐすっ…なんで…」
肩をゆすってもびくともしないエヴァを見て、
涙が込み上げる。
「うわぁぁん!…エヴァさーん!」
声を上げ、泣きじゃくるモロ。
そんな様子を見て、笑うシンバとお客たち。
「クハッ!おい坊主!死んでるわけねぇーだろ!
俺の手刀で気絶してるだけだ!」
その声は、お客の笑い声、モロの泣き声によって、
モロの耳に届くことはなかった。
「新人をいじめるのはやめてくれ、シンバ。」
お客たちをなめらかに横切り、ドリューが現れる。
「…新人って。はっ?!オメェ。あんなガキを。」
「見習いの、モロ君だ。それより…」
「強くなったな…シンバ。」
「お…おう。」
「その実力があれば、
もう何も言うまい。それは君のものだ。」
「次の街では“便利屋ドリューの下部組織として”
頑張ってくれ!」
「は?」
空いた口が塞がらないシンバ。
「クフッ。当たり前だろ?便利屋ドリューの賞状を担保に依頼を受けるんだ…」
「じゃ、じゃあ…これだけじゃ…独立…できない?」
「そういうことになるね!」
「そ、そんなぁー。」
項垂れるシンバ。
そんな二人の様子などお構いなしに、
泣き続けるモロ。
地面に置かれた鞄はカタカタと音を立てている。
まるで、モロの感情に呼応してるように。
けれど、その音はモロの泣き声でかき消され、
誰にも気づかれることはなかった。




