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パパは異世界ATM 〜家族に届く育児クラフト〜  作者: taniko


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第118話 初飛行


 ――ヒィーーー


 そんなことを考えていると、穴の奥から飛車の笛の音が聞こえてきた。


「おお〜。こうやって、地下から空へ飛び立つんだ」


 想像通りだ、うんうん、と頷いてから、ライチはふと気づいた。


「――あれ? それなら、俺達が地下に降りて、そこで飛車に乗って、自分たちで空へ飛ばした方が、ここまで飛車を持ち上げる係の人がいらなくて、よかったんじゃないですかね?」


 係員には聞こえないように、そっとフガークスに聞いてみた。


 たった一人の動員なのかもしれないが、やや無駄なように感じてしまう。


「おっ。いい案だね。俺達に武器庫をご案内してもいいくらい平和な時代になったら、それもアリかもな」


「ぶ、武器庫!!」


 ライチがチラッと考えた、地下シェルターや、魔道具で戦争する、などの空想は、あながち外れではなかったようだ。


(そうか……戦争もあり得る時代なのか……。中世なら、そうだよな…………。それは……確かに誰でも通してはいけない場所だな)


「まぁ、正確には飛車が置いてあるのは武器庫じゃないけど。一般人をほいほい通していい場所じゃないのは同じだな」


 戦争になったら、ここから何台も飛車が出入りするのかもしれないと思うと、恐ろしい。


 思わず、この世界で知り合った人たちの顔が頭をよぎる。

 今は戦時中でないように思えるが……どうか今後も戦争なんて、ありませんように。

 武器庫の武器が、ただの防衛と抑止力用でありますように。


「来ましたね」


 そうこうしている間に、笛の音が小さくなる。到着間近で、速度が落ちてきたようだ。


 やがて、地下から飛び出てきた白い飛車が、地上にゆっくりと降りた。


「お待たせしました。宰相様のご許可の魔道具は、こちらで間違いないでしょうか?」


 飛車に乗ってきた係員が、最後の確認をする。黄の魔石だ。


「はい!」


 ライチはグッと上がったテンションで、元気よく返事をしてから思った。


(あ!飛車が飛んでいるところを近くで見るのは、初めてだ!)


 ついに念願叶ったりだ。


 ライチが想像していた、ヘリコプターのような、ドローンのようなふわふわ感が、目視でも分かった。こちらには吹いてこないが、どうやら風の力で飛んでいるらしいのだから、多少ふわふわするのも納得だ。


「フガークスが操縦するのですね。でしたら、説明は不要ですね」


 こちらの係員はフガークスを呼び捨てにした。緑の魔石の係員より、さらに気の置けない仲の人らしい。


 ――ゴゴゴゴゴ……


 そんな話をしている間にも、飛車が出ると同時に、緑の魔石の係員によって、開いていた岩盤がゆっくりと閉じていく。


 巨大な石が滑り、暗い穴を覆っていく。


 ――ガ、ゴン


 何事もなかったように、地面は元へ戻った。

 身体にはまだ、振動の余韻が残っている。


 こうなると、ここに巨大な穴があるということは、かなり近づかなければ分からないだろう。


 ライチは、フガークスと黄の魔石の係員が何やら話している間、白い飛車と、閉じた地面とを交互に見て、感動に浸る。


「じゃ、行こうか」


 フガークスが飛車の従者席にさっと飛び乗り、声をかけてきた。


 慌てて飛車の横まで駆け寄る。


「あ、はい」


(……この人、大丈夫かな)


 乗り込んだ瞬間から、ライチは改めて観察を始めていた。


 もちろん、能力を疑っているわけではない。


(飛車を、大量生産の物流に使うなら、原材料を見られるよな。

 しかも、魔道具に触れても暴走しないで制御できるように、できれば特訓もしてもらいたいし……)


 じいいいい……


(制御を教わるには、父性エネルギーの話もしないとだよな……? 魔石はないんだけど、気持ちが高ぶると魔力みたいなものが流れる、くらいなら伝わりやすいかな?)


 ライチは考えながら、飛車の中に入って腰掛ける。


 構造は馬車とほぼ同じなので、散々尾てい骨を痛めつけてきたものと、同じ椅子ということになる。無意識に身体が固まり、振動を警戒してしまう。


「浮かすぞ。……怖かったら、真ん中の操縦桿を持っててもいいから」


 可愛いと言っていた甥っ子と姪っ子で慣れているのか、フガークスはその大きな見た目よりも、細やかな気配りができるタイプのようだ。


(ごめんなさい、操縦桿を掴んだら、うっかり操縦しちゃうんです……)


 氷の女王が、手袋をつけないと何でも凍らせてしまったように。ライチも、何かしら制御の仕方を学ばなければならない。


「大丈夫です。あ、行き先なんですけど、」

「農村だろ? 歩くと五日くらいだっけ? 大変だもんな」


(農村とひとえに言っても、いくつもあるんだけど……)


 もしかしたら、フガークスは、各村の名前と場所が一致していないのかもしれない。だから、今のように、適当に山の方に飛んで、あとはライチの指示を受けながら向かう気なのかも知れない。


(空からスピネラ村とか、行ける気がしないんだけど)


 歩いた道のりの、半分ほどは森の中の細い道だ。木々の上から目視できる気がしない。


 ――ヒィー……


 行き先をはっきり伝える前に、フガークスが魔力を流したようだ。小さな笛の音をさせながら、飛車がスーーっと浮かび上がる。


 あれよあれよという間に、地上がどんどん遠ざかっていく。


(うわっ、どうしよう、やばい。怖いかも、これ)


 某国の、紐無しの気球で広大な土地をフライトする体験のように、内臓がきゅっと小さくなるような恐怖がライチを襲う。


(あぁ〜……懐かしい……。

 “えっ、このおっちゃんのバーナーの匙加減だけで、あとは風に任せてこんな上空を飛ぶん? マジ? これマジ?” という、あの恐怖)


 ほぼ初対面の人一人の魔力の匙加減で、ライチの生き死にが決まるこのゾワゾワ感。


(急にフガークスさんが体調不良とかになったら、墜落死する……)


 実際に飛車に乗った時に、急に手を離してもゆったり降りたことから、それはないだろうとは頭では分かっている。


 それに、初対面の人の操縦に命を預けるのは、小型船でも、タクシーでも、バス、ヘリコプター、気球、電車、全て同じではある。


 しかし、それぞれ、ライフジャケット、違反を取り締まる警察、バス会社、副操縦士、管制塔など、事故が起こらないようにする手立てがあってこその安心だ。


 飛車はどうだ。交通ルールなんてまるでなさそうに、フガークスは自由に飛んでいく。


(これはちょっと……俺には乗りこなせないかもしれない……)


 こちらでもさっさと死んでしまったら、前の世界での失踪扱いもプラスで、二重に無責任な死になってしまう。

 なんとしても一日でも長く生きて、一円でも多くの仕送りをしたいのだ。


(こんな危険な乗り物、操縦できない気が……)


 ひとまず、今日の分の支払いはしているし、恐怖には蓋をして、話を次に進めるしかない。

 城の敷地を出て、貴族街も越えたあたりで、ライチは椅子から立ち上がり、向かいの、従者席に近い席の方に半身で座った。


「フガークスさん!!カステリナの南にある!荒地に!一度行ってくれませんか!!」


 風の音に負けないように、フロントガラスのない大きな窓枠の外に向かって、声を張り上げてみる。


 フガークスはT字操縦桿から右手を離して、右耳を塞いだ。

 うるさい、というジェスチャーだ。顔は笑っている。


「そんな声を張らなくたって、風が吹き込まないように作ってあるから、聞こえるよ。

 街の南の荒地な。オッケー」


 フガークスは、山、つまり北へ向けていた進路を、ぐるりと反転させる。


(ほんとだ、落ち着いてみたら、風が吹き込んできてないや。さすが、お貴族様の乗り物)


 初めの恐怖感も、しばらく乗っていると、だんだんと麻痺してくる。


(そうだそうだ。気球の時も結局、広大な景色が綺麗で、朝焼けが感動的で、怖いのがなくなってたんだった)


 ライチは真下をチラリと見下ろす。


(うん!まだ、冷静になって下を見たら怖いなっ!……でも、おいおい慣れていけば、いけそうだ)


 どうなることかと思ったが、最初のステップ……というか、前提条件はひとまずクリアだ。


 ライチは、ほぅ、と息をついた。


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