第106話 魔石とは
アルフィアーナがよくぞ聞いてくれました、とばかりに、嬉々として話し始めた。
「魔石が、また奥が深いんですの! 今度こそ分かりやすく話しますわね。まず、前提として、モンスターの額と、貴族や魔力持ちの額にあるものが、同じ魔石だというのが興味深いですわよね。その理論ならば、貴族もモンスターと言えるわけですから。この額の魔石なのですが、魔力生成器官が病気のこぶように心臓に寄生すると、もちろん、体内に魔力ができてしまいますわよね? しかし、それは生命を乗っ取るエネルギーですから、どこかから体外に出さないと死んでしまうのです。そこで、死を避けるために生命が適応した結果が、魔力排出器官である、額の魔石だと言われているのですわ。体内を流れる魔力が、血を流さずとも体外へ出せる、つまり触れるだけで放出できるのは、体内と体外をつなぐ、この魔石のおかげなのです。魔力が額から体表を流れて、魔石まで流れ着く……というわけですわね。額の魔石なのですが、透き通る見た目で、一見すると水晶や宝石のように見えますわよね。しかし、替えのきかない生体の一部という観点で見れば、むしろ歯や瞳のようなものだと考えられているのですわ。となると、逆に魔石に魔力を流し込んだときに、なぜ自然現象が発現するのか?という問いが勿論浮かんできますわよね? 魔石は魔力の排出器官だということは先にご説明しましたが、額にあるうちは排出口として、魔力の流れの通過点になれます。しかし、生体から切り離され、行き止まりの場所に魔力だけを流し込まれたら、行き場をなくしたエネルギーが、周囲に強引に放出される……というのが、魔石から自然現象が出る本質ですわ。そして、それは、火水風土、それぞれの生物が持つ個性に合わせた形で発散されるのです。火のモンスター、水のモンスター……と、種によって魔石の色が固定されている生物もいれば、人間のように色がランダムで、遺伝によってそれが引き継がれるような種もありますわ。
……いかがでしょう!これならば、幼児どころか乳児でも理解できるレベルに落とせておりますわよね?」
(オタクだ!絶対、魔導学オタク!)
ちょっと質問をしただけで、怒涛の如く知識を語ってしまうのは、もはやオタクでしかない。
内容は、もちろんさっぱり分からず右から左に流れていったが、彼女が非常に親切で熱い人だということはよく分かった。
「ええっと…………」
「あぁはい、二十字程度ですわね。そうですよね」
アルフィアーナは、あはは、と乾いた笑い声でも出しそうな表情で、笑ってない笑みを浮かべた。
「ませきは まりょくを だすばしょ。いれると ばくはつする。……いかがでしょう!」
「爆発するんですか?!」
とんでもないまとめだ。ライチは目を丸くした。
「風で物が浮いたり、巨大な火柱が立つのですから、似たようなものですわね」
彼女は自分のまとめに、うんうんと満足気に頷いた。
「魔力を出す場所なんですね。出す場所なのに無理に入れるから、それぞれの属性ごとに効果を出しながら爆発しちゃうんだ。なるほど!分かりやすい!よっ!プロアドバイザー!」
「お褒めに与り光栄ですわ……」
ライチの太鼓持ちは、アルフィアーナの悪役令嬢のような冷たい一瞥で、風に流されていく。
「となると、いよいよ、魔力を体外に出す魔石もないのに父性エネルギーを出せちゃってる俺って、ほんと気持ちの悪い存在ですね……」
「分かっていただけて何よりですわ。是非とも心臓を見たくなりましたでしょう?」
「……そうですね、解剖はもちろん無し無しの無しですけど、自分の身体がどうなっちゃってるのかは、ちょっとだけ興味が湧きました」
元の世界ではごく一般の成人男性だったライチだが、転移で神様スキルをもらった段階で、この世界の不治の病のような、変なコブのようなものを体内に作られている可能性は、全く否定できなくなっている。
アルフィアーナがふと何かに気づき、ゾッとしたような顔になった。
「ライチさんは、触れただけでは無反応で、父性がみなぎると、流す気が無くても、父性エネルギーを流し込んで魔石を爆発状態にしてしまう……と。
………………それ、最初に触った魔道具が、飛車で本当によかったですわね……。
水も土もですが、例えばもし火の魔道具だったら、コントロールできずに大火事になっていたかもしれませんものね……」
「本当だ……! じ、自分が恐ろしい!」
生きてるうちに、こんな中二病のような言葉を使う日が来るとは思わなかった。
自分、危険人物すぎ!
「父性をコントロールなんて、絶対できないんですけど、あの、常に最大値に滾ってるんで……、ど、どうしたらいいですかね」
王妃にもなれたかもしれないという優秀なアドバイザーに、もはや魔力関係の全てを委ねているライチは、自力解決を完全に放棄して、すがりついた。
「わたくしがコントロールできるのは父性ではなく魔力だけなので、お教えできることは何もないのですが……。
ひとまずは、魔道具らしき物には触れないこと。そして、もしどうしても触れるしかない機会が訪れそうなら、その場合に備えて、魔力操作練習用の魔道具をどうにかして手に入れるしかありませんわね」
「おおっ、ちょうどそれは聞きたかったことなんですよ! 魔道具ってどうやって手に入れるんでしょうか? 平民の行商人でも買えるんですか?」
アルフィアーナのナイスアイディアに、ライチはポンと手を打った。
(飛車! 飛車が買いたい! 輸送ヘリにする!)
「魔道具なんて、我が家にいくらでもあったのですが、家ごと取り潰しになりましたので、全て没収されましたしね……。
魔道具は、金銭さえあれば、魔道具屋で簡単に揃いますが、問題は手に入れる場所ですわね」
「場所?」
「管理を徹底するために、魔道具屋は城の中にありますの。購入申請所と、保管庫の両方があるのですわ。
飛車など巨大な魔道具は、そのままでは場所を取りすぎるので、床面だけにしてコンパクトに保管されたりしているのですが」
「なぬっ! 城で管理、ですか……」
「えぇ。平民で買う者もいるでしょうが、当然、魔力組合所属の確認をされるでしょうね……」
「詰んだ……」
ふむ……。としばらく考えた名アドバイザーが、今浮かんできている思いつきを、そのまま喋るように、口を開いた。
「……諦めるのは、まだ早い、ですわよ」
彼女の目がキラリと光る。
「いくらプライベートでも、領主様直々に『大量生産を叶えよ』と命令されてるのでしたら、必要ならば支援もしてくださるかもしれません。
『物流のために、城の飛車をお借りしたい。魔力組合に掛け合って、操縦者はこちらで調達する予定だ』などと約束して、実際に、金銭で魔力持ちを雇って、飛車は飛車として行商に使えば、使用していない時間にライチさんの魔力操作……でなくて、父性エネルギー操作の練習用に使っていても、バレないのではないかと思いますわ。いかがでしょう?」
「それ、イイっ!! 練習用の魔道具が欲しかったはずなのに、ついでに飛車まで手に入って、最高の案ですね! 天才アドバイザーと呼ばせてください!」
名案オブ名案に、ライチは声を大きくして喜んだ。
「本当に借りられれば、の話なので、気が早すぎますし、そのふざけた称号では呼ばないでいただきたいですし」
冷えた目で『そろそろ鐘を鳴らしにやってくる時間になった。次会うまでに、新製品の原料の大量生産に繋がりそうなヒントを集めておけよ』のようなアドバイスをして、彼女はさっさと去っていった。
(ヒント集めか……まずはサーチのために、荒地に行ってみるのが一番だよな)
サーチが発動すれば御の字だし、発動しなければまた別の場所でサーチをしていくだけだ。
そう簡単に計画を立てて、ライチもアルフィアーナを追いかけて階段を降りていった。




