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ヴァルオード クマもゴリラも おりまする(五七五調?)

「しかしながら、プリーストとは言え仮にも成人男子の居室に嫁入り前の乙女を遣わすのはいかがなものか」


 アレン殿は常識人ぶった台詞を吐いた。


「だったら僕達も一緒に聞けばいいじゃないですか」


「俺らがいたらあの人、本音なんか吐かねぇぞ」


 かぜまの弓兵ことフーガ殿の提案を、ポール殿が秒で却下した。じゃなくって、と、フーガ殿は焦れたように、


「魔法があるじゃないですか」


 ミオ様に行ってもらって僕達はここで聞けばいいんです、と彼は力説する。


「その手があったか!」


 ポール殿はポンと膝を叩いた。フーガ殿が我が意を得たりとばかりに得々と、


「音は風の震動だから。かぜまあるならやれますよ」


「ふむ。仮に何がしか不穏な気配があれば、我々がカノン様の居室に駆けつけることもできるしな」


 オイコラちょい待てや、アレン殿まで何でそんなに乗り気なの。つか何で私が行くこと前提なの。


「倫理的にどうなんですか、それって?」


 私は一応言ってみた。盗聴イクナイ犯罪です。しかしここはヴァルオード、日本ではなかった!


「え? 何かマズイですか?」


「戦時の常套手段ですぞ」


「盗み聞きされる方が悪いってーか?」


「危機管理能力の問題です」


 ヴァルハラの騎士達は異口同音に申し立てた。日本の常識は異世界の非常識、ってか?


「でも、実際問題として、」


 ヘイゼル殿が顎に手をやり考え込むポーズで、


「ここにいる魔法使いでラディウス卿を出し抜ける力量のある人なんて、いるかな? 彼は魔力の干渉には敏感だ、発動すればすぐにでも気づくと思うけど?」


 デスヨネー。何たって、お外で洗濯物乾かしてたヘイゼル殿を、目視できない屋内で実況中継してたぐらいの人だ。それより何より盗聴イクナイ、犯罪ダメ絶対。

 と、主張する私にポール殿が言った。


「ヴァルオードにはそんな法はありません。違法じゃないです大丈夫です」


 何だろう、まったく安心できない「大丈夫」だな。

 ポール殿は食堂に集う顔ぶれをとっくりと見渡してから、おもむろにヘイゼル殿を見つめて、


「ヘイゼル、お前がやれ」


「は!?」


 ご指名のヘイゼル殿は淡褐色の目を見開いた。


「俺が!? 何で!?」


「お前1回やってるだろ? フォーガルドの魔法兵団相手に」


「10年前の話を蒸し返すなよ……」


 あんなのあれ1度きりだよ、と、ヘイゼル殿は芝居がかった仕草で肩をすくめて、


「あの時はラディウス卿のアシストもあったし、それに、魔導具完備だったし――」


「魔導具って増幅器のことですか? 僕持ってます部屋にあります今取ってきます!」


 フーガ殿がハイパーダッシュで食堂を飛び出して行った。一同、呆気に取られて走り去る若者の後ろ姿を見ていたが、やがて我に返ったヘイゼル殿が言った。


「お前がやれって軽く言うけど、アレは高度な術の部類に入るし、術者の消耗も激しいよ。10年前のあの時は、魔力ポーション上限ギリギリまで飲みまくって、任務後は丸1日動けなかった」


アレをまたやれって? と、顔をしかめるヘイゼル殿にポール殿は、


「体調不良は魔力ポーションの副作用のせいだろ。今の俺達にはゴウコクがある」


「そうだな、ゴウコクは便利だな。でも俺はまだ命が惜しい。ライトニングで蒸発させられるのも、アイスストームで凍死するのも遠慮したい」


「明日の内警備、代わってやるよ。1日寝込んでもいいように」


「ポール、君は何故そんなに必死なんだい?」


「必死にもなるさ、俺らの上官は繊細なんだ。副官としちゃ上官のケアも仕事のうちだ。お前らんトコのメンタルゴリラとは違うんだよ」


「失礼な言い草だな」


 ヘイゼル殿はムッとして、


「それだとランス隊長がメンタルのみがゴリラみたいじゃないか。彼は、フィジカルもゴリラだ」


「って、ヴァルオードにもゴリラっているんですか!?」


 私は思わず割って入った。


「ああ、いるぜ?」


「山の中とか入ると普通に遭遇したりするよ。偵察任務で上空から発見したりとか」


「ほへーぇ……」


 いるんだ……ゴリラ。


「ヴァルオードって、暑い国なんですか?」


「いーや、南の大陸程じゃないぜ?」


「へぇーぇ……」


 ゴリラって、ジャングルとかにいるイメージだったけど……少なくとも私の知ってるユタは熱帯雨林って感じじゃないけど……山でフツーに出逢えちゃうんだぁすげぇーな。

 ともかくも、私におけるランス隊長の第一印象もゴリラだった。うん、やっぱゴリラだよな。異世界の人達と共通認識を持てたことは――内容はどうあれ――喜ばしいことだった。


「ミオちゃん、ゴリラ好きなの?」


 変わってるね、とでも言うような口調でヘイゼル殿が言う。特別好きってわけでもないけど、銀河系第三惑星地球日本で馴染みのあった生物がこちらの世界にも存在するという事実に救われた気分になったのは何故だろう。


「じゃあ今度、遠乗りがてらゴリラに逢いに行きますか。お供しますよ、聖女様。ジモピー女子が山菜採りに行く森なんかでの目撃情報も上がってますし? ナビはバッチリ、お任せあれ」


 ポール殿が私の手を取り口づけた。ヒッ、と私が悲鳴を上げるより早く、ヘイゼル殿の手刀がポール殿の鳩尾にクリーンヒット。

 君は本当に反省しないね、と、ヘイゼル殿はポール殿に言い、次いで私に向かって王子様風キラリン☆スマイルを発動させて、


「山中は熊も出るから気を付けてね」


と、のたまった。

 ククククマー……クマは怖いわ遭遇したないわリアル森のくまさんいらんわ。


「いえ結構ですクマはイヤです遠慮します。ゴリラもいいですランス隊長見とくし間に合ってます」


 夜の騎士団宿舎の食堂は大爆笑に包まれた。


お読みいただきありがとうございます。


ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ(学名)

隊長殿=ゴリラ説に全部持ってかれているようですが本題はそこじゃない。

森のくまさんもどーだっていい。


盗聴イクナイ犯罪です。

と、いう倫理観が皆無な世界で撃沈するニホン出身聖女様のお話でございました。

何気にヘイゼル殿は優秀な魔法使いだったようでござるの巻とも言います。

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