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【魔法】ナイアガラフォールズは止まらない【実践編】

 私の内なる水魔法は解放された。

 劇的な手応えはまるでなく、一体どこがどんな風に変わったの? って感じだったが、とにかく解放された……らしい。


「さて、早速実践に移りたいと思います。テキストの24頁目を開いて下さい」


 カノン様に促され、私の知ってる薄い本と違うって趣の同人誌いやお手製テキストのページをめくった。内なる魔力の解放の次は、実際に魔法を行使してみよう! ってコトである。大見出しにはどストレートに「水を出す」とある。こりゃまた超剛速球ど真ん中に放り込んできたな。


「水を出す。単純ですが、基本のきです」


 カノン様は鹿爪らしく言い切った。


「理論的には、魔力の具現化とされておりますが……癒しにしろ攻撃にしろ、まずは魔力をきっちり制御できないことには話になりませんからね」


 ふむふむ。私は該当箇所に目を通した。発動の呪文は先程の魔力の解放? だか回路を開く? だかの時と一緒だ。


「『清浄にして冷涼なる内なる水の魔力よ、この世の総てに生命を与える清きものよ』……」


 復唱した私にカノン様は、


「水魔法の基本の呪文です、覚えて下さいね。

 もっとも、一言一句違わず唱えなければならないということでもありません。呪文は念を練る為の助け、大事なのはイマジネーションとインスピレーションです」


 ごめんちょっと何言ってるかわかんない。いまじね……? いんすぴ……??


「直観力と、想像力。これなら解りますか?」


 あぁはいそれなら何とか。要はひらめきと妄想ね。


「呪文はあくまで補助的なもの。極端な話、キーワードさえ押さえておけば発動はします。もっともそれは熟練の術師の話になりますが」


「あー、それでかぁ……」


 カノン様はノン詠唱、ポール殿はファイアーボール! のかけ声だけでOK牧場なのね。納得しました。

 逆説的に、我が内なる風の云々とぶつくさ言ってるヘイゼル殿は、いい年こいてから魔法に目覚めたんでちょい苦戦中、ってワケか。


「水魔法なら、清浄、冷涼、生命、清き。これだけあれば案外何とかなりますよ」


 カノン様は事もなげにおっしゃるが、それは天才の理論ってヤツなんじゃなかろうか。後ろふたつはともかく他はイマイチ耳慣れない単語なんでうっかり忘れそうやわ。


「とは言え、初心者にはなるべく全部言っていただきたい。変な癖をつけない為にも、基本に忠実此れ大事。どこぞのマージファイター殿は型にはまるのは好かぬとのたまいますが、崩すのははまる型があってこそです。型を知らねば型を破ることは出来ないのですよ」


 うん、それは一理あるかもだ。型通りって大事だよ。仮にも施術の腕でごはん食べてた身だ、それはよくわかってるつもり。……いきなり足裏と内臓整体からマスターしちゃった変則組ではあるけれど。


「頑張って覚えます。せいじょうとれいりょうと……生命?」


「えぇ、是非そうなさって下さい」


 貴女には期待しているのです、と、カノン様は小さな白い花が咲く時みたいに微笑んだ。




 手始めは、カノン様のデモンストレーション。

 型通りにきっちりと詠唱、すると手のひらから水が出る。遺跡の山からの行軍で散々見てきた技だが見事なものだ。ぱちぱちぱち、と拍手などしてしまう。

 水は大きなタライに意思を持つように収まった。私はようやっと木製の大ダライの存在意義を理解した。


「さぁミオ殿、貴女の番ですよ」


「はい!」


 私は勢い込んでタライに対峙した。


「えーっと……せいじょうにしてれいりょうなるわがうちなるまりょくよ……えっと違った、わがうちなる、みずのまりょくよ……んと、何だっけ? そうだ、このよのすべてに、すべてに……いのちをあたえる~……あたえるぅ~~……きよらか、いや清きものよー……」


 テキストを見ながらたどたどしく詠唱したが、当然ながら不発に終わった。

 やっぱいきなりぶっつけ本番って無理あるよ。次までにアンチョコ作って呪文完璧に覚えてくるからそれじゃ駄目? という私の申し出は、


「何をおっしゃいます、たった一度の失敗如きで。100回挑戦する気でおやりなさい」


と、カノン様に一蹴された。うへぁ……この人何気にスパルタ教官?

 わかりましたよ、もーこうなったら出るまでやりますわ。せいじょうれいりょう100回言うわよ。コッチも腹くくりますわ。

 私はテキストをガン見した。そして、読む。


「清浄にて冷涼なる我が内なる水の魔力よ、この世の総てに生命を与える清きものよ、我が念に応え、出でよ、水!」


 みおは てきすとを おんどくした! しかしなにもおきなかった!

 デスヨネー。アハハ、と笑ってごまかして、再チャレンジ。


「清浄にて冷涼なる(中略)この世の総てに(以下略)出でよ、水!」


 ……アカン、出ませんわ。

 うーん何がいけなかった? テキスト棒読みがアカンかった? もっと心込めなきゃ駄目? プリキュアオペレ一ションばりのアクション必要?

 むぅぅぅぅ……と唸る私にカノン様はくすりと笑って言った。


「一生懸命言おう言おうとしていませんか?」


 詠唱に振り回されては本末転倒ですよ、とカノン様は言って、


「先程も申し上げた通り、呪文はあくまで念を練る為の補助。魔法は、イマジネーションとインスピレーションがすべてです。

 貴女が『水』を想う時、何を思い浮かべますか? 私は水魔法を行使する際、故郷の海を想います」


 海……?


「ヴァルオードに海なんて、あったんですか?」


 少なからず意外に思い、私は訊いた。私はこの世界のことをまだよく知らない。知らないなりに知っている土地は今いるユタだけだけど、ユタは典型的な山間の街で、海どころか川や池すら見たことない。


「ヴァルハラは港町です。ヴァルオードが大陸一のとも称される国であるのは、軍事力もさることながら交易が盛んであることも大きいでしょう」


 ヴァルハラの海は美しいですよ、いつか貴女にも見せたいです、と追憶の瞳で呟いたカノン様――あぁそれでか、と私は腑に落ちた。


「春の海の凪みたいだなぁって私、思ってたんです」


「?」


 きょとんとして私を見つめるカノン様に、私は言った。


「カノン様って、凪いだ春の海。はじめて逢った時からずっと、私の中ではそういうイメージでした。そっか、だからか、って、今、すっごく納得しました」


 カノン様はしばらく無言で私をじっと見ていたが、だしぬけにふっと微笑んだ。


「貴女は……本能レベルで本質を見抜く。天賦の才とでも称すべきでしょうな。貴女はその勘の良さを大事にすべきです。

 貴女には詠唱すらも邪魔になるのかも知れません。一端呪文は忘れましょう。貴女の中の『水』を、心に描いてご覧なさい」


「私の、水……」


 私はカノン様のアドバイス通り、古文調の呪文を頭の中から追い出した。

 そして、考える。私の中の水って、何だろう?


 フクムラ鍼灸整骨院がまだ繁盛していて患者さんがわんこそば状態だった頃、施術後に喉を潤す水。汗だくで本当に喉が渇いた時って、どんなドリンクよりお水が一番美味しいんだ。帰り道、突然降り出した雨。降水確率50%の賭けに負け、土砂降りの中バイクを走らせマンホールでスリップして転倒したアレな想い出。雨天時の人孔は危険だ。小学校も中学校も主要なイベントは皆ことごとく悪天候。霧雨の中の原爆ドーム、伊勢もUSJも雨だった。小学4年の運動会は雨天延期を繰り返し正に3度目の正直での開催だった。無理にやらんでええんやで……。富士山の記念写真は、ハイ笑ってー、と、のたまうカメラマンに全生徒が内心でアホかこんな中で笑えるか、と総ツッコミしたくらいの暴風雨。写真の笑顔はどの顔も引きつっていて濡れ鼠。別の意味で笑えた。登山がチャラになったのは個人的にラッキーだった。好き好んで山なんか登るヤツの気が知れない。マゾなの? ドMなの?

 ……っていけね、変なコトばっか考えてる。高校のスキー宿泊学習が猛吹雪だったとかもイラネ。ウチらの学年雨男か雨女いるやないの、学年ぐるみでお祓いとかしてもろた方がええんちゃうか、なんて言い合った不毛な過去もイラネ。でも私が参加しなかった地元の成人式はちゃんと晴れて式典日和だったと地元に残った子が教えてくれた。私が雨女だった説、あると思います。

 ケイ先生の付き添いで行った吉方旅行の袋田の滝は綺麗だった。バックヤードサロンの先生達と車相乗りして行ったんだ。占い師の先生主催の日帰り旅行。神社行って、滝見て、海の幸満載のお食事を堪能して。回転寿司が回転寿司じゃないレベルでべらぼうに美味だった。お土産におさかなセンターで新鮮な魚介をしこたま買って皆でシェアした。海沿いの国道に戦車系の痛車が普通に走り回っていて、なんてヲタに優しい街なんだろうと思った――。


 そう、滝だ。

 お水一斉大放出ならやっぱ滝がおあつらえ向きでしょ。ナマで見たのは袋田だけど、滝と言えばナイアガラ一択……ナイアガラ見たことないけど。


 とりあえず、何やようわからんけど凄そうな滝を思い浮かべてみる。カノン様がしてたのと同じように、大ダライに手をかざす。

 そして、強く念じる。


「行け、ナイアガラ! 忌まわしき記憶と共に!」


 心に浮かぶはCCA、アクシズ落としの赤い彗せ……いやちゃうねんスイマー! スイマーにしとき、何かに引っかかるかもわからんし。通常の3倍モードでいっちょ頼んます。

 正直この時も、特に何か劇的に感じるということはなく、ただ厨二のノリでガnダムごっこしてみたぜ、ぐらいのものだった。下向きの手のひらからぽつぽつと雫がしたたり落ちるとかいう予兆すらなく、いきなりドバーッと水が出た。本当に何の前触れもなくだから呆然としてしまった。

 カノン様がおぉ! と色めき立った。あ、コレやばいヤツ。目つきがデュフフコポォしてる。ほっぺたバラ色。めっちゃ興奮してるわ……。


「ミオ殿、やはり貴女は素晴らしい!」


「はぁ……そりゃどうも?」


 なんてやってる間にも、私の手のひらのナイアガラはドバー継続中だ。既にタライから溢れて靴を濡らし始めている。すげぇなナイアガラ。


「ミオ殿、そろそろよろしいですよ。止めて下さい」


「はい。……って、どうやって?」


「貴女の中の『水』を、止めるのです」


「えぇーーー……」


 止めるったって、ナイアガラ滝やで? 止まれへんわ。滝が止まったらそれはもう滝じゃない。と、内心で屁理屈言ってみる。もたもたしてるうちに水は足首にまで到達。流石にカノン様も焦り始める。廊下に浸水してはよろしくない、と、彼は廊下に通じる扉を閉めた。


「雨なら止むイメージを、海なら凪ぎの風景を、強く念じて下さい」


 カノン様に促され、私は頭の中で無理矢理ナイアガラを停止させてみた。が、それは無駄な努力に終わった。手のひらからは何の感慨もなくオートマティックにドバドバ水が放出され続ける。流石やなナイアガラ。

 カノン様は外に通じる扉を開けに走った。私も手伝おうとしたが彼に止められた。貴女はそのままで、止めることに専念して下さい、と。食堂から井戸のある洗濯場までは扉一枚隔てただけだ。今でこそ直近の勇者様とやらが発明したとかいう水道完備だが、山間のユタでは昔ながらの井戸もまだまだ現役で頑張っている。洗濯はもっぱら井戸水使用だ。このナイアガラ、洗濯業務にきっと役立つ。でも今は止めた方がいい。

 脛の中程までに達した水の圧に苦労しながらカノン様は外扉を開けた。水は低きに流れる、を体現し、幾らかは排水されたがそれを上回る勢いのナイアガラだ。通常の3倍だし。私はいつだかテレビで見た台風の映像を思い出していた。足首辺りまででも浸ってしまうと歩くのだって大変よー、ドアも水圧で開かなくなるかも知れないよー、だから早めの避難をお願いしますー的なアレだ。今の状況ソレに似てるわ。ちょっとした水害だぞこりゃ。なるべく早く止めた方がいい。つか止めてくれ頼む。

評価ブクマ等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


jojoっぽいタイトルですが中身はガnダムでござるの巻。

別名:何の手応えもなくふわふわほよんと滝を出す聖女様の話。

課題:水を出す。はい、出ました。

割とすんなり出たけど止めるのに苦戦するあたりに彼女の人となりが表れている気もします。

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