【実践】まずは水魔法から始めましょう【手ほどき編】
適性検査の結果が出た。
私ことミオ・サクラの基本属性は風と水。風は「習得、上達共に早そう」、水は「多少時間はかかっても後世に名を遺す使い手になる器」とのこと。
水魔法の枕詞にちょい引っかかりを覚えるが、まぁ大器晩成型とでも思っておこう。努力と慣れがすべてを解決してくれる……と、いいなぁ。
予定では適性検査の後、早速実践編に移ることになっていた。が、その段階になってカノン様が渋りだした。
「体調は大丈夫ですか」
適性検査のうっかり闇酔い(?)を心配しているらしい。
その時は何の呪いだってぐらいに具合悪くなったけど、今は何ともない。アフターケアの光魔法でかえって万全なくらいだ。それに、私にとってはこういうのってそう珍しくもない。患者さんの不調をもらっちゃうのは割とよくあることで、その時の状態と闇のアレはとてもよく似ていた。
機嫌の悪い人とかイライラしてる人とかの近くにいると何となく自分もつられて落ち着かなくなることってあるでしょう、アレって多分そんな感じのヤツ。まさに病は気から、住まいは木から、だ。
「ご心配なく、私は大丈夫。やれるうちにやれるだけやっちゃいましょう」
私はカノン様をせっついた。
カノン様は多忙な人だ。ひとたび救援要請なんかで呼び出されると、夜中まで帰って来られなかったりするぐらい。ヒーラーさんは大変だ、本当に。今日丸1日フリーなのは奇跡、今まで何のお呼び出しもないのは何かの間違いかってぐらいに彼はいつもどっか行ってる。んで、日付変わる頃にこそっと帰って来て、朝は起床ラッパ前に救護室にいたりする。プリーストにも働き方改革を! いやむしろヒーラーさんにこそ癒しを! だ。何なら今夜も揉んであげましょか?
「カノン様、またいつ時間取れるかわかんないですもん」
「それはそうですね」
カノン様は深く頷いて、
「では、テキストの20頁目を開いて下さい」
おぉっとぉまさかの座学からかい! 勢い込んでた私はがっくりずっこけた。
座学、終わってなかったんか……。
ポール殿の忠告は当たってた。「カノン様は座学に力入れる人」。いやいいんですけどね、好きですよ座学。
私はテキストを開いた。ざっと目を通す。魔法の理論……ふむふむいいや読み飛ばそう。ヴァルオード文字はまだちょっと慣れない。後でじっくり読みますよ。あぁコレってこういうことだったんだ! ってわかる日もいつか来るでしょう。いつかなんて日は来ない、なんて意地悪なツッコミせんといてー。
『土』『風』『水』『火』の特性が几帳面な綺麗な文字でびっしりと……そして「魔力のアチューメント」とある。内なる魔力の解放とな。なーるへそ。
ざっくり言うと、魔法を行使する為にはアチューメントなる儀式を受ける必要がある、ということだ。
「ミオ殿は『風』と『水』ですから、どちらも私が授けることが出来ます」
と、カノン様は言う。彼曰く、彼の『風』は『土』を選んだ為に封じた格好になってはいるが、潜在魔力として存在しているとのこと。回路を開く条件は満たしているのでご安心下さい、だそうな。
ご安心下さいも何も、ハナから心配なんかしとらんわ。ただひとつ、引っかかるのは――。
「『水は火を消し、地は風を縛る。反発し合う力は生命を削ると同義』……」
さっきカノン様が言ってたことだ。
「カノン様が『枠外』で『規格外』なのは、レアモノの『光』だけじゃないってことですね」
体の中で、重力と浮遊したがる力とを内包するってどんな感覚なのだろう。私にはわからない。でも何かすっごく大変そうだなーって想像する事はできる。
カノン様はうっすらと口元に弧を刷いて、
「そう悲観したものでもないと、今は思っていますよ。私自身の適性としてはどちらでも構わなかったのです、風でも土でも。土を選んだのは単純に、そちらの方が使い勝手が良いと判断したからです」
後方支援がメインのプリーストが攻撃主体の風魔法を持つより味方の援護に特化した土魔法を身につけた方が役に立つ、ただそれだけのことですよ、とカノン様は言う。
「……と、今は私のことより貴女のことです。アチューメント、水と風とどちらからになさいますか」
「どっちからやった方がいいとかってありますか?」
「どちらからでも」
ここまでハイレベルですと純粋にお好みで選んでいただいて結構、とカノン様は言い切った。
「ん~~~……じゃあ、水で?」
つい疑問形になってしまうのは、自分の中で少しの迷いがあるからだ。土風水火っていうぐらいだから、序列的には風が先とかなのかなー、なんて。
でも単純に自分の好みってだけなら断然『水』だ。魔法っていいなって思わせてくれたのは初対面のカノン様のキラキラ光魔法だったけど、水の癒しもとても好き。ゆくゆくはカノン様とユニット組んで、いつもより多くお出ししてます~的な水芸でお正月の顔になるっていうちっちゃな野望もあるしな。
「水ですね、かしこまりました」
言ってカノン様は外から木製のタライを引きずってきた。お洗濯に使うヤツだから持ち上げるのも一苦労って感じの、大きくて重いヤツ。
「ではこれより、ミオ・サクラ殿の水のアチューメントを開始致します」
と、カノン様は重々しく宣言するが、足元の大ダライの存在のせいでいにしえのコント感がハンパない。流石にコレが頭上に落下するなんてオチはなかろうが……。
「手順は先程申し上げた通り、テキスト20頁目からの項目です。『水』の詳細は23頁にありますが、難しく考えることはありません。さ、御手をどうぞ」
「はい」
私は、カノン様が差し出した両の手のひらの上に自分のそれをかざした。直接触れることはなく、ただかざすだけ。
「目を閉じて下さい」
「はい」
私がそうすると、カノン様は低く何事か唱えた。ヒアリング不可、ちょっと何言ってるかわかんない。目を閉じたまま、無言で手を差し出すだけの簡単なオシゴトが続く。
やがて、カノン様が言った。
「私に続けて唱えて下さい。『我が内なる水の魔力よ』」
「わがうちなるみずのまりょくよ」
「『清浄にして冷涼なる水の力よ』」
「せいじょうにして、れいりょう? ……なる、みずのちからよ」
「『この世の総てに生命を与える清きものよ』」
「このよのすべてにいのちをあたえるきよきものよ」
「『我ミオ・サクラの中に眠りし魔力よ、目覚め給え』」
「ワレェ、みお・さくらの中にねむりしまりょくよめざめたまえ……?」
目を開けて下さい、とカノン様に促され、私は目を開いた。もう手は下ろしてよろしいですよ、と言われたので素直にそうした。
「さぁこれでミオ殿の『水』の魔力の回路が開きました」
ホンマかいな。私は半信半疑でカノン様を見た。
魔力の解放? だか目覚め? だか言うくらいなんだから、それらしいアクションっていうか手応えみたいなものがもっとあってもいいと思うの。もっとこうさ、あっ今魔力キター! アタシ水に感電してるぅぅぅ! みたいな劇的な展開みたいのがあるものとばかり。
「どうなさいました、ミオ殿」
「手応えがなさ過ぎて、拍子抜けっていうか……」
「おやおや」
カノン様は控えめに苦笑した。
「そうはおっしゃいますが、貴女は私の魔力にちゃんと反応していましたよ。私の手のひらが動くと、貴女の手も追随して……まるで、与えられる魔力の一欠片でさえ取りこぼしてなるものかと言わんばかりの貪欲さでついてきました。ご自覚がなかったのですね」
「ええ、まったく」
「それはそれは」
カノン様は声を上げて笑った。
「目を閉じ、視覚を遮断して尚そうなのですから、貴女は本当に無意識に……あるいは本能で『わかる』方なのでしょうね」
何か遠回しにお前はドケチって言われてる気になるんだが?
でもそう言えばレイキの時もそんなモンだったな、と私は回想した。手応えらしい手応えはなく、だからホンマに効いとるん? となるという。
魔法もきっとそんなモン。大丈夫、カノン様が言うんだから大丈夫。私はイマイチ開いてるんだか開いてないんだかはっきりしない私の魔法の回路とやらを無理矢理信じることにした。信じる者は救われる、鰯の頭も信心から、だ。
しかし画的に地味だよなー。こんなんでええんか?
評価ブクマ等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。
すっげー地味な魔力解放の話でございます。
あっさりし過ぎて不安になってる聖女様の巻とも言います。
ともあれ水魔法ユニット結成の刻が着々と近づいてまいりました(!?)
目指せジャパニーズ伝統芸 in 異世界。




