ヘイポーコンビ爆誕!?
「結局、ヴァルハラからのアレやらコレやら、うま~くかわしてたのって、カノン様の手腕だもんなぁー」
ポール殿はしたり顔でのたまう。ヘイゼル殿がそれを受けて、
「今はまだいいさ、アガリエ卿が領主だから。だが、現領主様が引退した時のことを考えるとね」
「あのお嬢が次期領主だかんなー」
「そこは夫のランス・アガリエ氏にどうにか頑張ってもらって……ってのが領主様の思惑らしいけど」
「戦争と政治は勝手が違うだろ。脳筋隊長に貴族の腹芸やらすのか?」
ポール殿、それ多分あなたにだけは言われたくないヤツやで。
「グレイス様を表に出すよりマシだろう。彼女はまだまだ未熟……いや伸びしろ豊富な方だから」
「お前、優しいな」
ポール殿は呆れ返ったように、あのお嬢もう成人済みだろ、と言う。ちなみに、ヴァルオード王国では18歳が成人なんだそうな。
「ガキの頃ならともかく、いい大人に矯正とかってムリだろが。伸びしろなんざねぇよ」
と、いうのがポール殿の主張だ。彼は次いで、気づかわしげに私を見、
「ミオ様、あのお嬢とバトったって聞いてますけど……?」
「えっ?」
私は心底驚いた。それってアレか? 初日のアレか!?
「いやいやいや戦ってはいませんよ私そんなスキルないし」
「でも、彼女と接触はしたんだよね?」
問い詰める口調のヘイゼル殿が怖い。接触って表現が暗に対立煽ってるっていうか。
「いや、そんなに怯えないで。俺達はミオちゃんを責めてはいないよ。むしろ心配してるんだ」
「あのお嬢、格闘家になりたいとか寝言言ってひとりでトレーニングとかしてるしな」
「うわぁ……」
私はドン引いた。何そのおてんば姫の冒険的な狙い過ぎ。ないわーマジないわー。
「じゃあ、広場で変な踊り踊ってたのとかって、ひょっとして型の稽古とかだったりしちゃったり?」
私が率直に口にすると、ヘイポーコンビは申し合わせたように吹き出して、しばらく発作のように笑い転げていた。
「ははははは! 変な踊りって……アヒャヒャヒャヒャ! すげーな聖女様アンタ最高だぜ!」
「ポール、そんなに笑ったら失礼……ぷくくくっ……変な踊りかぁ……確かに、ふふふふふっ……くくくっ、やっぱりそう見えるよね……」
うん、そうとしか見えなかった。
あの太極拳とも空手とも違う独特な動きは武道の型というよりむしろ不思議な踊りだ。多分MPとかガシガシ削るヤツ。ヨガやフラダンスともまた違う。あえて言うならラジオ体操に似ていたか。それも、体操選手風のシャキッ! シャキッ! シャキッ! じゃなくて、寝起きの小学生とかがかったるそーに寝ぼけまなこでダラダラリーンとやってるヤツね。
「聖女様って見かけによらず毒舌だよなー」
あー笑った笑った顔が痛い、とのたまうポール殿、アンタ笑い過ぎやで。
「いやさ、珍しくカノン様が激しくお怒りでさ。冷気垂れ流しでこえーこえー。もー何事!? って感じで誰も深くはツッコめねーよっていうか?」
「あ、やっぱりアレって気のせいとかじゃなかったんか……」
私は、体感温度が10℃は下がったあの時の感覚を思い出して身震いした。
「ミオ様にもわかりましたかー。カノン様、ミオ様はすげーつえーマジシャンになる素質があるって激萌えしてたけど『オラクル』の太鼓判は伊達じゃない! ってコトですかね」
「いや、アレで何も感じないって生き物としての危機管理能力が致命的に欠けてるっていうか……」
と、言いつつ私は、あれっ、と首をかしげた。そう言やグレイス様――すなわちカノン様のダダ漏れ冷気の原因兼ターゲットは割とケロッとしてたかな? してたよな? あらやだ私、遠回しに次期領主様の危機管理能力ポンコツ~ってdisっちゃったかしら☆
「自称ソードファイターなんで合谷イラネのアレンですらも真っ青になってたぐらいだから相当っすよ」
「ミオちゃんもそこで蒼くなったり白くなったりしなくていいから。……誤解がないように言っとくけど、ラディウス卿は普段は温厚で、人に当たったりモノに当たったりなんてしない人だしご機嫌に波のある方ではないからね。魔法使いには感情を安定させる義務がある、って俺も彼によく指導されたよ」
ヘイゼル殿の絶妙なフォローが入る。ポール殿がすかさず、
「オイだからその『魔法使い』っていうのやめろよ。途端に胡散臭くなるだろ。これだからユタ民は」
「仕方ないだろう、元々魔法なんて馴染みのなかった土地柄なんだし」
ヘイゼル殿は開き直るでなくごくごく真実を述べるだけの口調で言った。そう言えば彼が風魔法を習得したのはカノン様がユタに来てからだったって言ってたっけな。『魔法使い』っていういかにもファンシーな単語が口をつくのもむべなるかなだ。
「とにかく、冷静沈着常に感情に波がないんで定評のあるカノン様が史上稀に見るブリザードかましてたんで俺様といたしましては独自の調査を決行致したいわけでございまして」
「あらましは大体つかんではいるけどね、警邏の兵だっていたんだし」
「我が愛するお姐様方お嬢様方からも続々と情報が寄せられてますし?」
「君はその情報収集にかまけた女癖の悪さをどうにかした方がいいんじゃないのかな」
「魅力的なレディに慕われるのは男の甲斐性と言ってだな」
「君の場合はレディ『達』だから始末が悪い」
ヘイゼル殿は相棒の悪癖にチクチク駄目出ししておいて、
「グレイス様はどうも考え無しというか、思ったことを率直に口に出してしまう方なんだ。一応社交界デビューはしてるんだけど危なくって仕方ないってことで、ご両親も外に出したがらない。
そんな方なんで、ミオちゃん、いや『英雄殿』……ヴァルハラ流に言うと『聖女様』になるのかな、聖女様には一ユタ民としてお詫び申し上げます」
言ってヘイゼル殿は脊柱起立筋が心配になる見事な90°のお辞儀を披露した。だからその姿勢は腰部にダメージだからおやめなさいと。第一、彼に謝ってもらうことじゃない。
「で、ミオ様。あのお嬢に何言われたんですか?」
ポール殿がらしくもなく真顔で訊いてきた。私はあの時の腹立たしさを思い出しながら言った。
「えっと……これが英雄かちっちゃ! みたいな? で、ユタの英雄にはホビットはいなかったはずだ、とか? んで、聖女のくせにどーのとか言われたんでムカッ腹立ってついつい反論を……」
ん……? 冷静になって振り返ってみたら、相手の値踏みするような態度と見下された感じがムカついただけで、実は大したこと言われてなかったか?
と、私はにわかに罪悪感にかられたが。
「あぁ~~~……」
「それはひどい」
ポール殿とヘイゼル殿は申し合わせたように酷く深刻な顔つきになった。お前ら仲良いな。いっそコンビ結成してM-1とか出て欲しいわ。
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この際ヘイポーがコンビで仲良しとかどーでもいいんですがな。
主題はそこじゃない。
副官同士で生臭い噂話にかまけてるのはどーなん? というツッコミ不可避ではありますが。
大事なのは噂話の内容です。
あのお嬢ことグレイス・アガリエ次期領主はなかなかアレな人みたい……というお話であります。
火のない所に煙は立たぬ~ってか?