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あ゛た゛ま゛た゛い゛し゛ょ゛う゛ふ゛ー ー ー !? (号泣)

 目覚めは唐突だった。

 常日頃、目覚めが悪く、1分でも1秒でも長く寝ていたい性質の私にしては珍しく、ぱっちりという形容が相応しい感じの目覚め。

 辺りは真っ暗だった。少し離れた所に、ちろちろとかがり火のような灯りが見える。

 さっきまで……濃霧の岩山で……怪鳥が襲ってきて……でもあの時は視界は悪かったけど多分昼間で……今はどっからどー見ても夜みたい……?


「夢……?」


 凄く怖い、壮絶な悪夢を見ていた気がする。

 そう、そもそもが愛人に駅のホームから突き落とされて電車に轢かれて異世界へ☆ なんて、ご都合主義も甚だしい。イヤだなぁもう最近現実逃避が過ぎるわよっ、と――。


「お気づきですか」


 淡々とした艶のある男声が響き、私はバネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。


「お加減はいかがですか」


と、春の海の凪の表情で尋ねてくる青年の――暗いからあまりよくは見えないけど、ストレートの金髪ボブに巻かれた包帯の白さが妙にくっきり目に焼き付いて――。


「カノン、様……?」

「はい」


 淡々と返事した彼に、何故だか無性に泣けてきて――。


「あぅぅぅぅーカノン様ぁぁぁーーー」


「…!? ミオ殿!?」


「わーーーーんカノン様ーーーー!」


「あぁ…恐ろしい思いをさせてしまいましたね。怖かったですね……」


「わ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ーカ゛ノ゛ン゛さ゛ま゛い゛き゛て゛た゛ぁぁぁよ゛か゛っ゛た゛よ゛ぅぅーーー!」


「えぇ、私ならおかげさまでこの通り、五体満足で生存しておりますよ。ですからそんなに泣かないで下さい」


「あ゛ぅ゛ぅぅぅ~~カ゛ノ゛ン゛さ゛ま゛ぁぁあ゛た゛ま゛た゛い゛し゛ょう゛ふ゛~~~!?」


「ミオ殿、その言い方ですとお前は馬鹿かと言われている気になりますよ」


「あ゛ぅ…ちが…ちがぅぅぅ…ひぅっ…うぇ…っ、わぁーーーーん!!」


「えぇ、えぇ、存じております。けれど一応、念の為」



 しばらくは、カノン様は泣きじゃくる私をなだめるのに時を費やした。

 来て早々怖い思いをさせてしまってすみませんでした、と、決してカノン様のせいではないのに何度も何度も謝ってくれた。

 自分で言うのも何だが私は子供の頃から「泣かないいい子」だったのだ。どっちかと言うと卒業式で泣けなくて冷たい人と言われちゃうタイプ。泣きたいことがなかったわけじゃない。でも泣きたい気持ちは時に怒りに、時に笑い混じりの毒吐きに変換させて――そうやってずっと、生きてきた。


 ……そのはずなのに。


 今は何故だか、壊れた蛇口みたいに涙が止まらない。何だコレ止まらん、と思わず口走る程のイカレっぷりだ。


「いいですよ、無理に止めようとなさらずとも」


 カノン様はついに諦め、匙をぶん投げた。


「ごめっ…ごめ、なさ…い…」


「謝罪は結構です」


 淡々と、カノン様は言う。夜闇の中、彼の表情は判らない。怒っているのか呆れているのか…どちらにせよ、抑揚のない声。


「こ、こーゆーのっ、は…はじめて…でっ……ぐすっ…」


「初めて?」


 すぐ脇で、カノン様が首をかしげる気配。


「そう言えば貴女は魔法を珍しがっておられましたね。つまりあの昼間の戦闘が、貴女のデビュー戦だった、と」


「そ゛う゛て゛す゛~~~…」


 デビュー戦なんて立派なモノでもないが、事実だけをフラットに述べるなら、そうなる。現代日本で怪鳥に食われる5秒前とか、ないから。


「その割には、随分と……」


 カノン様はここで言葉を選ぶように逡巡し、


「随分と、場慣れた対応をなさると思いました。

 あの状況で石を投げて応戦するとは、なかなかの胆の座りようだ、と――」


 カノン様はここで口をつぐんだ。私の腹の虫が、くぅぅぅ~~と、情けない音を立てたので。


「あ゛う゛う゛ううぅぅぅ~~~す゛み゛ま゛せ゛ん゛~~~」


「いいえ」


 カノン様はくすりと笑って、言った。


「そろそろ夜食の準備が整う頃でしょう。召し上がれるようでしたら――」


「はぅぅぅ~食べま゛す゛ぅぅーーーぅぇっ、…ひっく…」


「良いお返事ですな」




 夜営の本陣(?)へ向かおうと立ち上がりかけて、私は自分が何の上に身を横たえていたのかを知った。カノン様のマント。この人は何でこういうことをするんだろう。

 私はマントを回収し、申し訳程度に土を払って立ち上がった。大丈夫、どこも痛めてない。普通に立てるし、多分歩ける。


「カノン様、マントお返しします。すみません気づかなくて……カノン様!?」


 私は、大丈夫。どこも痛くないし、普通に立てた。

 大丈夫じゃないのはカノン様の方だった。彼は立ち上がりマントを受け取ろうと手を伸ばし、無言で膝から崩れた。


「カノン様!? カノン様大丈夫ですか!? ……誰か、どなたかいらっしゃいますか!? カノン様が、カノン様が……!!」


お読みいただきありがとうございます。

別名:濁点が異常に多い話、もしくはただ号泣してるだけでござるの巻。

カノン様は冷淡なのではなく、相手に泣かれてしまうとどうしていいかわからなくて固まっちゃう人だったようですね。

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