「魔力切れ!? ここでまさかの魔力切れ!?」(五七五調)
数を減らします、と宣言した通り、カノン様は空中の怪鳥の群れに向かってピカピカの魔法の矢を放つ。大部分はそれで倒れ、力を失い地上に落下した。
「ハハッ、さすが『光の一族』の跡取り息子は違うねぇ」
ポール殿は軽口を叩く。私にはその神経が信じられなかった。
他の人達みたいに鎧も着てないあんな軽装で最前線――もちろん援護の鎧騎士はいるけど典型的な空中戦で、彼らは弱って高度を落とした怪鳥にとどめを刺す程度。そしてその役目を、カノン様自身も請け負っている。
他の騎士達は剣なり槍なりの殺傷力の高そうな武器なのに対し、カノン様の得物は打撃用のメイス。見たところ、戦闘用と言うよりは護身用って感じの…丸腰じゃないだけマシだって程度の装備だ。
「ねぇポール殿、私のことはいいから……!」
カノン様のお手伝いに行ってあげて、と安全な場所で訴えるだけの自分がもどかしい。せめて私に戦える能力があれば――極真空手でも習っときゃよかった、なんて後悔したって後のお祭りだ。
ポール殿はがしがしと赤毛をかいて、
「いや、この場合は『ラディウス卿』の指示通りにしといた方がいいんっすよ」
「そんな呑気な……!」
気色ばむ私にポール殿はニヤッと笑って、
「『ラディウス』は光の一族にして、軍略にも明るい。過去には幾人も有能な軍師を輩出してるお家柄で、あの人自身も戦略家です。それに――」
ポール殿は肩をすくめて、
「カノン様、あの一瞬でご丁寧にも結界を張って行きやがりましたよ。『聖女様』もそのお守りの俺も、この魔方陣の外には出られません。ここにいる限りはそれこそ何人たりとも俺達を傷つけることはできない、って寸法です」
気づくと私達は、半径数メートルの面妖な紋様の光の円の中にいた。綺麗な紋だ。でも、だからこそ逆にいたたまれない。
多勢に無勢、という言葉がある。怪鳥の群れは次々に仲間を呼んで数十頭。対するこちらはたかだか十数人。増してや敵は翼持つモノで、こちらは地上戦オンリーだ。弓を武器とする鎧騎士もいるけど、雨上がりの濃い霧が邪魔をして戦果は捗々しくない。
「確実に一頭ずつ仕留めてくってのはセオリーだな……でも圧倒的にコッチの頭数が足りない」
ポール殿はしたり顔で言う。こんな時に賢ぶって解説とかせんでいいから!
「しかも濃霧ってのはよくないなあ。弓の奴らは苦戦する――って、どうしました?」
私は頭上を指した。上空を旋回していた怪鳥の一頭がカノン様に狙いを定めて背後から一直線に突っ込んでくる!
「クソッ! トリのくせに頭の回るヤツもいるもんだな!」
トリ頭の分際で! と悪態をつきつつポール殿は反射的に腰の剣に手をかけて――しかし次の瞬間、光の紋様の円陣に阻まれた。
「だーっクソクソッ! 結界!!」
ポール殿は赤毛をかきむしり毒づいた。怪鳥はもうカノン様のすぐそこまで――!
「カノン様、危ないっ!」
私は叫んで手近な石を拾って投げつけた。ファッ!? とポール殿が奇声を発する。
小石は残念ながら鳥には当たらない。当たらないどころかかすりもしなかった。でもそれでいい。奴の注意さえ引ければ、それで!
鳥のくせにトリ頭じゃない怪鳥がこちらに気づいて再び旋回。今度のターゲットは私だ。頭のいい鳥は頭上から一直線に急降下――。
「うはぁぁぁぁぁキターーーー!」
「キターーーじゃねぇよてめぇで呼び寄せたんだろーがよ! つか何で結界内から石投げて外に届くんですか聖女様ぁぁあぁぁっぁぁ!?」
「知―らーなーいー!!」
「…ミオ殿!?」
カノン様が気づいていち早く反応した。魔法発動の構えを取り、はっと何かに気づいたかのように唇を噛み、次にはこちらに向かって全速力で駆けてくる。
「魔力切れ!? ここでまさかの魔力切れ!?」
人のこと言えねーじゃんよ! とポール殿は叫ぶ。
怪鳥が鋭いくちばしで私をつつこうとして、バチッ! と光に阻まれた。結界なるモノは本当に存在するんだ……って、それどころじゃない!
「カノン様、来ちゃダメ! こっちはだいじょぶだから!!」
私は懸命に訴えた。が、カノン様は聞く耳持たずで、群れの中でも一際大きな怪鳥とタイマン勝負――ああぁだからそれは無理ィィィ!!
「だぁぁぁぁっ魔力切れのハイプリーストがヘルコンドルとサシでやり合うとかナシだろぉぉくそぉぉぉ結界! 結界解けってばよぉぉぉ!」
ポール殿が剣を振り回して暴れている。私はある意味で鳥のターゲットになった時より身の危険を感じた。
カノン様は人間レベルではおそらくとっても強い人なのだろう。だけど相手が悪すぎる。メイスを振りかぶる、トリ逃げる。メイスがかすめる、トリ避けた。メイスが以下略、トリ以下同文。……
他の面子は視界の悪さと敵の多さに苦戦している。霧の中から時折、ぐぁっ! なんてうめき声が聴こえてきた。とてもじゃないけどこちらの救援に、なんて期待はできなさそうだ。
何十回目かの攻防の後、巨大な怪鳥に動きがあった。
奴はゆっくりと旋回しながら高度を上げて、目視できない程に高く舞い――
「逃げてった……?」
ホッとして息をついた私にポール殿がかぶせるように、
「いや、まだだ」
「え?」
「カノン、来るぞ!!」
敬称も敬語も吹っ飛んだ切羽詰まったポール殿の声に、カノン様ははっとして振り返り――その一瞬が隙になった。ヘルコンドルは超高度から急降下、そしてその鋭いくちばしがカノン様の額を割った。
「きゃぁぁぁ!」
「カノン!!」
カノン様はそのまま――スローモーションのように――ゆっくりと背中から倒れて――鮮血が――血の紅が、吹き出すように――。
「カノン様!」
「くそっ、気絶しても解けないってか!? どーなってんだよメイド・イン・ラディウスの結界はよぉぉ!」
「カノン様、もういいからこっち来て! この円の中なら安全なんでしょ!? ねぇ起きて! 逃げてよぅぅ!!」
カノン様は動かない。脳震盪でも起こしているのか、それとも…それとも……?
怪鳥は容赦なく、とどめとばかりに上空へ――。
「もーやだぁぁぁカノン様が死んじゃうぅぅー!!」
「縁起でもないこと言うな! つか泣くな!!」
ポール殿が私を叱りつける声が、妙に遠くに聴こえた気がする。
「カノン様が…私達がアンタらに何したってのよ……!?」
ここは日本じゃない、それはわかってる。平和な日本国でのほほんと暮らしてきた私の理屈が通じない、山道歩いてれば野鳥に襲われる、それが異世界――このヴァルオード王国とやらの通常なのかも知れない。
でも、彼らが……私達がアンタらに何をした? 私達はアンタらを狩ろうとなんてしていない。なのにこの仕打ち?
悔しい、悔しい、何にもできない自分が歯がゆい、死にたくない、死ぬのはイヤ…死にたくない、死ぬのはイヤ…死にたくない……死なせたくない!!
「2度も3度も死んでたまるか! トリのくせに生意気よ!! てめぇら全員まとめて焼き鳥にでもなっちまえばいいんだーーーっ!!!」
私は半狂乱で泣き叫び――そして意識を失った。
お読みいただきありがとうございます。
敵がトリなら極真空手のめっちゃ強い人でも多分苦戦すると思います。
と、誰かミオちゃんに教えてあげて下さい。




