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救済通話

「ふぃー……何とか誤魔化せたなぁ」


 ベットから出た武人は腕で額の汗を拭いながら言う。


「暑かった……」


 瑠々は呻き這いつくばりながら武人と同じベットから出てきた。


「それにしても驚いたな。加々山学園長がここに来るなんて」

「あぁ。俺もびびったぜ」

「はぁーーーーーーー……」

「おいおいどしたんだよ相馬、乗らねぇ顔して落ち込みやがってよぉ」

 いつの間にやら両手を床につけあからさまに黒いオーラを出していた相馬に武人が声を掛ける。


「苦し紛れにしても、もっとマシな嘘を吐くべきだった……」


 相馬がそう言った事で武人は何故彼がここまでヘコんでいたのか分かった。


「あぁそうかそうか、源作にてめぇの性癖勘違いされちまったんだったな……」

「やめろ、同情しないでくれ。いつもみたいに笑ってくれ!!お前に哀れまれると本当に悲しい気持ちになるんだ」


 相馬は真摯に胸の内を武人に明かした。


「それにしても疑問が残るな。あの加々山学園長があれで何の詮索もせずに帰るとは到底思えないんだが」


 顎に手を当て優佳は言った。


「まぁまぁいいじゃねぇかよ。何もバレずに帰ってくれたんだから……ブヒャヒャヒャヒャ!!」

「笑いを、止めろ」

「いてぇ!?お前が笑えって言ったんだろうが相馬!!」

「武人に笑われると、本当に馬鹿にされてるんだと悲しくなるんだ」

「どうしろと!?」


 相馬の言葉に武人はもうどうすればいいか脳で判断する事が出来なかった。


「学園長の事は、今考えても分からない。だから、俺たちがやるべき事は」


 武人の馬鹿にした笑いによって意地でも立ち直ってやろうと考えた相馬は文字通り立ち直り携帯を手に取り電話を掛けた。


『もしもし』


 数秒の待機音の後、連絡した相手は出た。


「昌義、突然だが頼みがある」



『なるほどな。そのためにうちのお嬢様の力を借りたい、と』


 相馬は昌義に事情を説明した。


「頼む、昌義」


『にしても相変わらず要らない危険に首を突っ込むなぁ。どうせ武人だろ?御代お嬢様を連れ帰ってきたの』

「あぁ」

『はぁ、こっちも協力してやりたいのは山々だが……それは無理だな』


 昌義の返答は、武人達が聞きたくなかった言葉だった。


「無理か?」

『一人の友達として、助けてやりたい気持ちはある。だが俺はお前らの友達である前に自分の仕える主人を守るボディーガードなんだ。確かにお嬢様の力を借りれば、お前たちの現状を何とかできるかもしれない。だけどそれはうちのお嬢様に少なからず、何らかの悪影響が起こる』

「と、言うと?」

『分かるだろ、財閥の令嬢を匿う。その行為リスクの高さに一般人も令嬢も関係ない。一般人は一般人の、令嬢は令嬢のリスクがある。うちのお嬢様がそれをすれば、御代様との家間で間違いなく溝が出来る。それだけじゃない、二度と同じ事が起きないように著しく行動を制限される。俺はお嬢様に不自由な思いはさせたくない』


 昌義の声は少し切実だった。

 確かにボディーガード訓練生とは言え一般人の身で令嬢に物を頼むなど言語道断に等しい。令嬢のリスク云々も言わんとしている事は相馬にも理解出来た。

 しかし、こと昌義が仕えている令嬢に関してはその限りではない、それを知っている相馬は昌義の返答が白々しくて仕方がなかった。


「おい相馬変わってくれ」

「……、武人に代わる」


 相馬はそう言うと携帯を武人に渡した。


「相馬、俺だ」

『武人か……ったく、やらかしたな。今回は流石にマズいぞ』

「うるせぇ。分かってるよ、だから頼んでんじゃねぇか」

『無理だ』

「頼む」

『無理だ』

「頼む」

『無理だ』

「頼『無理だ』っておい食い入るように言うんじゃねぇよ!!」


 武人は声を大に言った。


「あぁーもうお前じゃラチが明かねぇ!興花に変われ!!」

『い、いや。それは無理だ』


 昌義の返答に武人は少し引っ掛かりを感じた。


「何でだよ」

『そ、そりゃあお前。ただの一般人が通話とは言えお嬢様と話せる訳『誰と喋ってるの?』ってお嬢様!!い、いや何でも無いですから!!『もしかして武人?』いえいえいえ違いますって!!』


 武人の耳は昌義以外の人間の声がスピーカーから捉えた。

 その声は自分が話をした相手であることをすぐに確信した武人は先程よりも大分大きな声で電話越しに喋った。


「おぉい興花!!俺だ!!今すぐ昌義と変わってくれぃ!!」

『お前何言ってn『分かったわ!!』ってちょお嬢様携帯を取ろうとしないで下さい!

『ちょっと昌義!主人の私が変われって言ってるのよ!黙って携帯貸しなさい!』ああもう!分かりました、分かりましたから!!……はぁ武人、まこっとに不本意だが興花お嬢様に変わるからな……』


 昌義がそう言うと次に聞こえる声は昌義の声でなく女性の大きな声だった。


『もしもし、電話変わったわ。何の用かしら武人?』

「おう興花。実は折り入って頼みてぇ事があるんだけどよ」

『いいわ、引き受けましょう!』

「早ぇな!?まだ何も言ってねぇぞ」


 興花の即答ぶりに武人は驚いた。


『ふふん、別に要件なんて後から聞けばいいもの。大事なのは今私がやる気かどうか、やる気があれば後は関係ないわ。それに、武人の頼みなんて面白い事に決まってるもの!』


 電話越しから武人の耳に入るその声は自信と活発さに満ち溢れておりそれは自然と武人の頬を緩ませた。


「あんがとな」

『気にしなくていいわよ。私がしたいだけだもの。じゃあすぐにそっちに向かうわね。私の家じゃ何かと屋敷のボディーガードの目があって居辛いから。それじゃ昌義に戻すわ』


 興花はそう言うと携帯を元の主に返した。


『はぁーーー……。だから変わりたくなかったんだ。お嬢様なら絶対すぐにオーケー出すと確信してたからな』


 溜息をこぼしながらそんな事を言う昌義、だがそんなものに同情するでも罪悪感を抱く事も武人はしない。


「へっへっへ。まぁ悪く思うな、今度メシでも奢るからよ」

『ったく……そのメシを奢る前に捕まらない事を祈るよ。すぐそっちに向かうから待ってろ』


 昌義はそう言うと通話を終了した。


「……あんがとな、昌義」


 通話画面が切り替わった携帯に武人はそう呟くと携帯を相馬へと返した。


「よし。芳澤嬢様の協力を得られた、なら後は失敗しないように尽くすのみ」

「そうか。ならとりあえず、芳澤様がこちらに来るのを待つしかないな」

「いや、ちょい待って。その前に俺今日まだ夜メシ食ってねぇんだ。お前もだろ瑠々?」


 武人がそう言うと瑠々はコクリと頷いた。


「いや武人、食堂閉まってるぞ」

「大丈夫だ優佳。ピッキングで開けられる」

「いや、だから電子ロックになったんだよ。お前が夜な夜な忍び込んで食材を取っていくから」

「うわぁそうだった。すっかり忘れてたぜ……相馬」

「食堂のロックを解除した」

「おいさらっと何を相馬に頼んでるそして何さらっと相馬は実行してる!?」

「おぉーし行くぞ瑠々。美味い飯を食わせてやる……優佳」

「相馬と同じノリで僕に言頼むんじゃない!!」

「お嬢様が腹すかしてんだぞ、断んのかぁ?」

「うっ……」


 武人の言葉に優佳は言葉を詰まらせた。

 何度も言ったように優佳は誠実で実直な人間である。仕えてはいないとは言えお嬢様が空腹であり、それを提供出来るのが自分しか居ない状況で彼はそれを行う人間なのである。

 興花達と落ち合う場所を食堂へと指定し、武人一行は食堂へと場所を移した。


ここまで読んでいただきありがとうございます!!

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