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Last……ああ、私、幸せだ。

フラッシュを全身に浴び、私は前回の会見を思い出していた。

以前と違うのは、私の体だけ。張り詰めた空気も、物々しい雰囲気もそのままだ。

未だ大きくなった腹は変わらず、ゆったりとしたマタニティ服を着ている。

あと1ヶ月くらい、腹は大きいままだそうだ。


パシャパシャ……たくさんのシャッター音が耳に届く中、私たちは話し始めた。

一言一言、ゆっくりと味わうように。


「前回の会見からかなり間が空いてしまい、申し訳ございませんでした。

この期間で、僕たちに新しい家族が出来ました。双子の女の子です」

「私たちの年齢での結婚にはたくさんの意見がありました。早すぎる、と。

その影響で私の中に結婚して良かったのだろうかという不安から、このまま結婚生活を続けて良いのかという迷いも生まれていました。

でも私は子供を持ったことによって、早く結婚したことは決して間違いなんかじゃなかった、そう思うようになりました」

「僕らが今、新しい家族に出会えたのは、あのタイミングで結婚を決めたからです。

世間の目を気にして結婚をあとに延ばしていたら、今あの子たちはこの世界に存在してすらいないのです。

それとともに、彼女たちから幸せを得ることも出来ていませんでした」


2人で自然と微笑んだ。

張り詰めていた空気が、笑顔によって少しばかり和んだように思えた。


私たちはなにも言わずに会見会場の舞台裏に向かった。

記者はなにが起きたのかと騒ぎ出す。

会見に戻った私たちの腕には、りのとほのが抱かれていた。


「私たちの子供です。まだ生後1ヶ月にも満たない年齢です。

この子たちの将来を考えて、名前はお教えしないと決まりましたが……。

2人にはまだまだ未来があります。

私たちには、この子たちの成長を見守っていく『義務』、そして『権利』があります。

つまり、私にも子供たちと同じぶんだけ未来があるのです。

こうして生き甲斐をくれたこの双子に出会えたことを、まったく後悔していません。

私は、私の可愛い子供たちを心から愛しています……」


私はりのとほのに口付けた。そして、頬ずりした。

そのとき梓はと言うと、双子のよだれを拭き取ってあげていた。


その瞬間、記者席から拍手が聞こえてきた。

誰かが意図して始めた拍手というより、自然と『沸き起こる』ような拍手。

私たちは顔を見合わせたが、2人とも状況を上手く理解出来ていなかった。


「この子たちのこともあるので、1つのみとなりますが質問を受け付けます。

本来ならばすべてここでお答えしたいのですが……申し訳ございません。

他質問がありましたら、事務所のほうにご連絡いただければお答えいたします」


梓がそう言うと、ただ1人だけ手が挙がった。

その男性記者を指名する。


「お2人は今後、どうされる予定なのでしょうか? 仕事復帰は?」

「僕はもう復帰します。以前に比べると時間は少なくなりますが、あまり変わりません。

積極的に育児に関わり、妻をサポート出来るようにしたいですね」

「私は2人が1歳6ヶ月を迎えたときに復帰する予定です。

それまでに元の姿に戻れるよう、努力して参ります。

もちろんこの子たちの成長もそばで見守っていこうと思っております」


私たちはりのとほのの体調も考えて、1つ質問に答えるだけで会見会場を後にした。


……これから事務所にどれくらい質問や否定的な意見が寄せられるのか。

私はそれがとても不安だった。

もし子供たちに関しても悪く言う人がいたら、今度こそ私は芸能界復帰は出来ないと諦めるだろう。

事務所に帰ると、すぐにホームページを開く。

『メール38件』という表示を見て、私の息は少し荒くなる。

私の異変に気が付いたのか、梓が肩に手を回して抱き寄せてくれた。


「大丈夫。俺がついてるから安心して」


梓がメールのマークをクリックした。未読メールを表す赤文字だらけだ。

メールのタイトルを見たとき、私は目を丸くした。

『頑張ってください!』……その言葉が並んでいた。


『私も一児の母です。会見を見て、お2人の親としての気持ちを感じました。そちらは双子、大変でしょうがお互い頑張りましょう!』

『2人の愛し合う様子が伝わった。否定的なことを言ってごめんなさい。

あなたたち夫婦を応援しようという気持ちになった!』


……内容はそういうものばかり。

ネット上でも私たちの記事は多くあった。

どうやら会見で、私たちの親としての姿が伝わったようである。

私が双子に口付けし、梓が隣でそっとよだれを拭く……そこでは私の愛と、梓のさりげないサポートが見えたらしい。


中でも、『早く復帰出来るように頑張って!』そういった内容のメールは、私を力強く励ましてくれた。

私には戻る場所がある、みんなが待ってくれている、そう感じられたからだ。

りのとほのは、どうしたの? とでも言うかのように私の服の裾をきゅっと掴んだ。

掴んだというよりも、叩いたと言ったほうが正しいが……。

私は目に涙をたっぷり溜めたまま、2人まとめてぎゅっと抱き締めた。

2人は驚いているようだったけれど、私の嬉しさが伝わったかのように笑った。



1年半後。私はスポットライトを浴びて、ランウェイを歩いていた。

このランウェイの周りを、たくさんの女性が囲んでいる。

私がウインクすると、遠くから男性の歓喜の声が聞こえて来た。

……ここは、モデルならば誰でも憧れるショー会場。

私にはこのショーが復帰の舞台となる。

RIHO復帰! そう大きく書かれたポスターが、ところどころに貼られていた。


1度の出番を終え、ついにショーは終了前。ランウェイにたくさんのモデルが集まる。

私が復帰するというのが前面に押し出されたショーだったので、私が先頭を切って歩く。

隣には梓……いや、ここでは浅海という名前だ。

梓は私より半年くらい早く芸能活動を再開していた。

私は梓と手を繋ぎ、歩き、ポーズを自由にとって、無事ショーは終了を迎えた。

その後のテレビでは、私たちの復帰舞台が特集されていた。


最近、私はママタレントとしてもテレビ出演している。

あれ以来りのとほのは人々の前に出ていない。だが、私と梓の夫婦出演も多かった。

毎日スケジュールはいっぱいだが、子供たちとの時間はきちんとある。

2人もずいぶんと大きくなり、表情豊かになってきた。さらに可愛い。

梓は娘を溺愛し、もう『結婚させたくない』だなんて言っている。

気が早いと言いつつも、私もこの子たちが大人になったときのことを考えてしまう。

結局何歳になろうがこの双子は私たちの子供であることには変わりない。

大きくなっても、永遠の可愛い娘たち。


こんなに仕事が増えてきた今も思うのだ。


……ああ、私、幸せだ。と。


梓に出会う前では考えられない忙しい日々。

私はそんな日々を心から楽しんでいる。

去年8月末からの連載、お付き合いくださった方々、ありがとうございました!

このお話を書けて良かった、葵や梓たちと出逢うことが出来て良かった、そう思います。

書き終わってから思うと、とても短すぎるように思えますね……。

途中長いお休みもいただきました。


番外編も書きたいと思っております。

少し間は空くかなと思われますが、乞うご期待。です。


長い連載、読んでくださった方々、感想などお寄せくださると嬉しいです。


~皆さまに、感謝を込めて。


梅桜。でした。



目次最後にある『煙草の煙に誘われて。』……

 新連載となります。こちらは大人の恋愛をテーマとしております。

 ぜひこちらもご覧くださいませ。

 もし宣伝によって不快な思いをされたら申し訳ございません。

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