もしも春の推理2023のテーマが「食事」だったら 【題名】:楽しく食事ができるために
春のチャレンジ企画2026(テーマ:仕事)と、私のチャレンジ企画の作品です。
2023年度の企画のテーマをシャッフルしています。
ジャンルは「推理」、テーマは「食事」です。
1
「こんちは~、マスターやってる?」
とある小さなカウンター席8席の焼き鳥屋に、平日の昼間から入ったのは夢野八洲彦。
彼の職業は警視庁の特別チームサイバー課の刑事。
この日は丸一日非番なので、彼は自宅から近い、行きつけの昼からやっているこの店に来たのだ。
でも、お前。刑事が昼から酒って……。
「うるさいな~! サイバー課として日々『仕事』しているオレには、こういった息抜きが必要なんだよ!」
まぁ、作者も時折休みを取って、平日の昼飲みをするので、偉そうなことは言えない……。
八洲彦は「マスター、生ビールね」と注文し、カウンター席に座る。
「あ~、夢野さん、ごめんね~。生ビールダメになっちゃったんですよ~」
店主によると、設置してあるビールサーバーのメーカーがランサムウェア攻撃を受け、そのビールメーカーの工場のシステム受注と出荷業務が止まっている状態。
「な、なんだって~!」
ってか、お前。サイバー課の刑事ならそんなこと知ってろ!
「瓶ビールなら他メーカーのを置いてますけど、どうします?」
「う~ん。じゃあ、瓶ビールで」
八洲彦は瓶ビールでまずは喉を潤すことにした。
そして、お通しの煮卵が出される。
「えっ~と、おまかせ5串とシイタケとチーズトマトとにんにくとししとうをお願いしま~す」
八洲彦は9串を頼み、瓶ビールが半分ほどになってから、「レモンサワーお願いしま~す」と頼む。
この店は店主のワンオペ。
だが、平日の昼なので、八洲彦の貸し切り状態。
八洲彦と店主は色々と会話をする。
「最近は警察を装った詐欺もありますからね。マスターも気をつけてくださいよ」
「でも夢野さんのような人だと、逆にニセ警察に見えちゃいますよ~」
「ちょっとぉ、マスター!」
おまかせ5串は一皿ごとに出て、どの串にも炭火で焼かれた大きな具材。
シイタケとチーズトマトとにんにくとししとうは広い皿で一緒に出される。
「マスター、焼酎お願い」
「割り物はウーロンですよね」
八洲彦の席にはキープした焼酎とジョッキとアイスペールと500ミリリットルのコップに入ったウーロン茶が置かれた。
「マスター、砂肝のずり刺しともつ煮込み!」
すべての焼き鳥を食べ終え、八洲彦は注文する。
この焼き鳥屋の自家製もつ煮込みは絶品だ、と八洲彦は思っている。
ずり刺しにはレモンをかけ、おろしにんにくで、あつあつもつ煮込みには七味をかけ、それぞれをウーロン割りの焼酎をごくごく飲みながら食す。
「ごちそうさま~。じゃあ、また非番の日に来ますよ~!」
「ありがとうございます。気をつけて~」
こうして八洲彦は家路に向かう。
2
「いやぁ~、昨日は久々に飲み食いしたな~」
警視庁の特別チームサイバー課での一室で八洲彦は笑顔。
「とはいえ、瓶ビールでも構わないけど、やっぱ最初は生ビールだよな!」
「その当のビールメーカーの復旧作業に才羽とお前の妹の奈歌が支援に行ってるんだぞ」
この課のボスの房洲警部が八洲彦に言う。
才羽は奈歌が入った自分の端末と共に支援要員として出向中。
「大企業だけでなく中小企業や、特に個人情報を多く抱える病院や教育機関での被害が急増している」
データの個人情報が盗まれ暗号化され、金銭を要求する脅迫文が届くのだ。
「のんきに昼から飲み食いして、夢野。お前やっぱり犯人だろ」
「ちょ……、なんですぐそうなるんですか!?」
さて、恒例のやり取りが済んだので、話を進めよう。
ある日の帰宅時。
八洲彦は例の行きつけの焼き鳥屋がある、通り沿いに主に飲食店がある小道を通る。
飲みたいところだが、外から店内の賑やかさを見て帰るつもり。
明日も早くから仕事だからだ。
だが、店の前で八洲彦は驚く。
店は閉じられ、入り口には手書きの以下のような張り紙がしてあった。
「仕入れ先の養鶏場の操業が停止中なので、暫くお店は閉店します。一日も早く再開できるよう努力します。 店主」
「な、なんだと!?」
八洲彦は店主の自宅や連絡先を知っているので、その場で店主に連絡を取る。
「あ~、夢野さん。そうなんですよ。仕入れ先の養鶏場が警察を装った詐欺にあったんです」
店主によると、その養鶏場は鳥インフルの疑いがあると、警察を装った数名が現れ、全ての鶏と卵が押収されてしまったとのことだ。
「多分、鳥インフルは嘘だと思います。事実なら即座に殺処分ですし、畜舎の消毒を指示されるはずです。おそらく鶏と卵を狙った窃盗団でしょう」
「マスター、その養鶏場の場所を教えてください!」
教えてもらった八洲彦は翌日、房洲警部に懇請する。
「警部、どうか私にもこの事件の支援要員へ行かせてください!」
真剣な顔つきの八洲彦を見た警部は「フゥ~」と一息つき、八洲彦を支援要員として現場に行くことを承諾した。
警察を装った詐欺もこのサイバー課でも扱っているからだ。
3
その日のうちに八洲彦は現場の養鶏場に向かい、数名のこの事件を担当している警察官たちに、警察手帳を見せながら挨拶する。
「警視庁サイバー課の夢野八洲彦です。私もこの事件の担当を任されました」
房洲警部がこの事件の担当責任者に話をつけていたのであろう。
その責任者の警察官が「支援、ありがとうございます」と返す。
早速情報の共有。
警察を名乗る人物が、養鶏場の代表に「この近辺に鳥インフルが確認されたので、調査の車両を向かわせます」と告げ、数時間後に大型トラック三台が現れ、全ての鶏と卵を押収してしまった、とのことだ。
この養鶏場はブロイラーでなく、小規模で代表が独自のこだわりの地鶏を育て、その肉の質も卵も知る人ぞ知るブランド品。
八洲彦が通う焼き鳥屋の店主もこの鶏にほれ込み、もう他の肉は使えない、とのこと。
この情報を聞いた八洲彦が叫ぶ。
「犯人は分かった! 『伝道師と為った、新撰組隊士 結城無二三伝(N3640KB)』の第17話で出てくる養鶏倶楽部をやっていたBだ! 売る一方だったので、補充のためこの犯行に及んだに違いない!」
八洲彦よ、そこまで露骨に作者の他作品の宣伝はしなくてもよい……。
「い、いずれにせよ、金銭が目的なら、何かしらの方法で鶏や卵は売っているでしょう。サイバー課として、ネット関係の連絡履歴を調べてもらえないでしょうか?」
責任者の警察官は意味不明なことを言う、八洲彦に懇請する。
彼らは現場での取引をした形跡がないかを調査中だ。
「大金や貴金属ではない。動物、それも卵も扱うとなると、犯人は同業、あるいはこの職種の知識を持っているはず。当のトラックの荷台内に鶏や卵を安全に運ぶ処置をしていただろう。まずはこの近辺でトラックのレンタルをしているところから調べよう」
こうして八洲彦たちは養鶏場の代表にトラックの特徴を聞くと、やはり内部は鶏や卵が安全に運ばれる処置がされていたそうだ。
「殺処分なのにそのような安全性は無意味だ! 犯人は養鶏の知識を持ったものと思われる!」
こうして近辺のトラックも扱うレンタカーをいくつか調べたが、ここ数日で返却されたトラックの荷台内はきれいなまま。
証拠を残さないようにきれいにするだろうが、動物の臭いも一切していない。
「三台なのに、レンタルをしていない? 自前で三台のトラックを所持しているのか?」
そんな窃盗団がいくらブランドとはいえ、鶏を狙うだろうか?
売りさばきとトラックの維持費を考えれば、大した儲けにならないのでは?
4
「夢野刑事! 監視カメラで三台のトラックが連なる映像が確認されました!」
以前から周辺の監視カメラで三台のトラックが連なる映像を八洲彦は見つけるよう指示していた。
それが遂に見つかったのだ。
「どうです? この形状のトラックでしょうか?」
映像を特別に自身のタブレット端末にアップロードした八洲彦は、被害に遭った養鶏場の代表に見せる。
「確かに、こういった形状のトラックでした。三台とも同じ型でした。この映像も同じ型ですね」
このトラック群が向かった先を八洲彦は更に調べさせる。
映像を何度も見る八洲彦はあるトラックに異変を感じていた。
「何だこれは? 少し黒ずんでいるな。傷? いや、火災か……?」
ある一台のトラックだけ、荷台のある個所に黒ずんだ傷痕がある。
「……以前に事故に巻き込まれていたのか?」
暫くして、この三台のトラックはZ県M市に入ってことが判明する。
Z県は八洲彦の地元。
そして地元の八洲彦はM市が牛を初め畜産が多いことを知っている。
「M市で近年火災が発生した畜産場を調べよう」
八洲彦はタブレットを操作して調べる。
妹の奈歌がいれば一発で判明するのだが、今は奈歌はいない。
自分もサイバー課の刑事。
八洲彦は懸命に調べ、三カ月ほど前にとある養鶏場が火災に遭い、厩舎と鶏と卵が全滅したニュースを発見する。
この養鶏場は被害に遭ったこことは違い、かなりの大規模。
自前で輸送用のトラックを三台所持していることも八洲彦は調べ上げた。
トラックは火災被害から免れていたが、一台がやや延焼したことも調べ上げた八洲彦。
「火災原因は電気ケーブル系の異常か」
実は畜産場は火災が起きやすい。
冬場は暖房のため電気ケーブルの延長で、それらの腐食や劣化で特に起きやすい。
この養鶏場も火災に遭ってから、畜舎の復興は果たしたが、肝心の鶏と卵の確保までの金銭は無かったようだ。
「それで、操業開始のためにこの火災に遭った養鶏場が警察を装って、この養鶏場の鶏と卵を強奪した……?」
八洲彦はこの事件の担当をしている責任者の警察官に、上層部からZ県M市にある、この養鶏場の捜査令状を取るように頼んだ。
5
数日後。
捜査令状が発行されたので、八洲彦は参考人として、被害に遭った養鶏場の代表を連れ、Z県M市の養鶏場へ向かう。
「これよりこの養鶏場の調査を行う」
八洲彦が告げると、このM市の養鶏場関係者たちはガックリとうなだれ、ほぼ観念したようだ。
「どうです? 盗まれた鶏でしょうか?」
「はい、どう見ても私の鶏です」
被害に遭った代表が言うと、八洲彦はこの養鶏場の代表を呼ぶ。
「同行してもらおう」
そう告げて、八洲彦はこの代表をM市の警察署に任意同行させ、犯行の有無を問いだす。
「間違いありません。私が指示し、行ったのは私の従業員たちです」
「自供なので罪は軽いが、『警察』を名乗った詐欺なので、多少重くなることを覚悟するように」
こうして事件は解決した。
だが、未だ問題が残っていた。
それは被害に遭った代表から意外な意見が出たのだ。
「夢野刑事。この盗まれた鶏たちですが、エサやりを初め育て方が私のやり方と異なっています。これらを返却されても、私としては納得のいく商品とはなりません。比較的私のやり方に近いものだけを回収して、残りはここの人たちにあげても問題ありません」
「いいのですか?」
「お互い同業。むしろこのように困った時は助け合うのがベストだと思います。私のところはこのような大規模な畜舎でないので、時間はかかりますが、この方が元に戻しやすいのです」
加害側の代表が涙を流して、土下座をして、改めて謝罪する。
「申し訳ありません! 火災復興後にどうしてもすぐに操業を再開したかったので、このようなことをしてしまいました! 大変ご迷惑をかけたのにそのような温情。刑事さん、私にはどんな重い罪でも構いませんが、どうか従業員たちには刑罰を与えることが無いように頼みます」
「まぁ、一件落着か。あとそれは刑事の『仕事』じゃないからな。どうなるかは分からないけど、上層部には自供し被害者に謝罪をしているので、酌量の余地あり、と言っておくぞ」
6
警視庁サイバー課にビールメーカーの復旧作業を終えた、才羽と奈歌が帰ってきた。
こちらも無事に解決し、通常操業に戻っている。
「よしっ! 事件解決の労いに私の行きつけの焼き鳥屋に行きませんか!」
八洲彦が提案すると、房洲警部は珍しく「うむ。そうしよう」と受け入れる。
早速、八洲彦は日時を選び貸し切りの予約電話を入れる。
ちょうどこの焼き鳥屋の再開日だ。
「マスター、再開日なんですけど、予約で貸し切りって出来ます?」
「夢野さん! あなたのおかげで『仕事』の再開が出来るようになったんです! もちろん大歓迎ですよ!」
その再開日。
八洲彦と房洲警部と才羽は焼き鳥屋に到着する。
日曜の午後一時。
約五時間の貸し切り。
「では事件解決を祝ってかんぱ~い!」
三人は生ビールで祝杯を交わす。
「やっぱ最初は生ビールだよな!」
出される一皿には一串。
その具材の大きさに房洲警部と才羽は驚く。
「うむ。これは絶品だ。たれもうまいし、見事な『仕事』だ」
「ありがとうございます」
店主が房洲警部にお礼を言う。
「でしょう! あとここのマスター自家製もつ煮込みもおすすめですよ!」
八洲彦はスマホを取り出し、スマホ内の奈歌とやり取りをする。
「すまないな、俺たちだけで騒いじゃって。次に来るときは必ずお前を回復させて四人で来ような……!」
八洲彦のスマホの画面に映る奈歌は笑顔。
「私のことはいつでもいいよ。兄さんたちが楽しそうに食事をしているのを見ているだけで、十分楽しいもん」
八洲彦はデカいもも肉とネギのねぎまを食しながら、奈歌の返答に改めて妹を回復させる方法を探そう、と決意するのであった。
もしも春の推理2023のテーマが「食事」だったら 【題名】:楽しく食事ができるために 了
恒例の夢野兄妹シリーズ。次は奈歌の復活話をやろうかな、と思っています。
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