42 オーティナティック実況(12)
目覚めたオーディンに接近してレールガンを発射する。
ここにはスパイクを使ってかけ上がれるような壁がないため、全速力で疾走しながらの攻撃となる。
ユーゴが俺に向かって叫んだ。
「今度は限界までエネルギーをためて放出する。それまで持ち堪えてくれ!」
「限界までというのは具体的にはどれぐらいですか?」
「分からない。これ以上エネルギーを溜めればレールガンが壊れると判断した時だ」
どうやら具体的な時間指定のない耐久ミッションらしい。
耐久ミッションというのは時間の指定があってはじめてやる気が出るというのに困ったものだ。
オーディンがなにかを叫んでいる。すると奴の両手に炎がまとった。
暗闇の中で赤い炎が映えている。あれで焼かれたらひとたまりもなさそうだ。
俺を炎で焼き殺そうとしてくる。それをギリギリで避けた。危なかったな、今のは結構ひやっとした。
レールガンを撃ち込む隙もない。ユーゴは耐えてくれるだけで良いと言っていたが、これではきっと自分の力だけでは倒せない。
本編のルートに影響があるかもしれないから、どうせだったら自分の力だけで倒してみたかった。
足を重点的にレールガンで狙う。
あのくそチュートリアルと違って、こいつはエネルギーを撃ち込めば体制が崩れる気配がある。
コメント:オーディン強すぎん?
コメント:こいつには今の状態では勝てないですよ!
コメント:ちょっと流石に無理っぽいかも
コメントには今の装備ではきっと勝てないだろうという声が多かったが、そんなものは関係ない。
敵の攻撃を全て避けて自分の攻撃を当て続ければ、理論上はどんな敵にだって勝てる。あのくそチュートリアルボスに関しては、そもそも勝てるように設定されていなかったから例外だ。
世界のトッププレイヤーどもはそれを平然とやってのける化け物だらけだ。俺もその世界で生きていこうと決めたからには、こんなところでへこたれるわけには行かない。
「このぐらいじゃぬる過ぎて笑っちゃうよ!」
このままやれば勝てると確信した時、オーディンの動きが急に止まった。
もちろんその間にも攻撃の手は休めていないが、効いている気配はない。
なんだあれ、もしかして第二形態とかそういう類のものか?
両手だけでなくてやつの体全体が炎に包まれる。完全に第二形態に移行したという様子だ。
今までの何倍ものスピードでこちらに急接近して来た。俺は慌てて距離を取る。しかしスパイクを限界まで酷使しているのに、どんどん近づかれる。
回避しようとするが間に合わない。俺は大きな拳を体全体でもろに喰らってしまった。
やつは両手を高く上に掲げて、さらに炎の力を大きくする。
俺は必死に逃げようとするが、体が全く動かない。……この技が発動されている時は、一切体を動かせない仕様になっているのかもしれない。
なんだよ、こんなん無理ゲーじゃん。
「MAX―Z」
オーディンはくぐもった音声で技名を言った。
奴が大きく振りかぶり、自分の拳を俺の腹に入れた。俺は両手の炎パンチで吹っ飛ばされる。
完全にトドメを刺されたことを自覚する。ちょっと相手が強過ぎたかもしれない。
〈ゲームオーバー〉
タイトル画面が映し出される。俺はどうやらあいつに負けたようだ。
「嘘でしょ………」
いや、あれは強すぎる。ゲームバランスがおかしい。運営はなにを考えているのだろうか。
コメント:ヤバ過ぎて草
コメント:Neoちゃん元気出して!
コメント:あーあ、だから今の装備じゃ勝てないって言ったのに
俺はぼーっとする頭でコメントを流し読みする。ファンの方々の言う通り、流石にこれは厳しいかもしれない。
「今のはちょっと敵が強過ぎたかもね」
コメント:それな
コメント:うん、今のは凄かったよね
「ちょっと反省会しよう。まずば第一形態の時は特に問題なかった。距離を保ちながらレールガンを撃つだけでよかったからね。やばいのは第二形態から、炎を体全体にまとった第二形態はスピードが段違いに上がる。あれに対応しきれなかったのは正直ミスかな」
コメント:せやな
コメント:そうだね
「第二形態の中でも特にヤバかったのは、わたしにトドメを刺したあの『MAX―Z』ってやつだね。あの技を喰らったら確定でワンパンされる上に、技の発動中には身動きが取れないのが本当にヤバい」
コメント:草
コメント:もしかしてこれクリア不可能なんじゃ
コメント:そもそもあの炎を扱うオーディンは本来ならもっと後の方に出てくるはずなのに、こんな序盤で戦ってるのがおかしい
もっと後の方に出てくる……?それマジで言ってるわけ?
俺はこのオーディンについて軽く調べてみる。どうやらこいつは本来ラスボス一歩手前で出てくる敵らしい。
こんなんをこの序盤で戦わせるルートを用意してるとか、運営が病気なんですけど。
オーディンには個体名というのが存在しておらず、この炎のオーディンも例に漏れず名前がない。
しかしファンの間で『ファイヤーZ』と呼ばれている。絶妙にダサいネーミングだが、俺もこの名前を採用しよう。
「このファイヤーZってラスボス手前の敵らしいけど、これってマジ?」
コメント:マジ
コメント:本当ですよ
うわぁ、一縷の望みもここで潰えた。マジかよ、俺はそんな奴と戦わされる羽目になったのか。
しかし完全なクリア不可能というわけでもないだろう。この装備の状態でもストーリーイベントが発生したのだから、頑張れば倒せるはずだ。
俺は攻略サイトを見るべきか悩む。
このファイヤーZは終盤になっても厄介な敵だそうで、こいつをどうやって倒せば良いかということはたくさんネットに載っている。
それを見ればきっとこのクソイベントボスを倒すことはできるだろう。しかしそれは出来るだけやりたくない。
何故なら負けたような気持ちになるからだ。なにに負けたとか明確な理由はないのだが、なぜか敗北感に襲われる。
強いて言えば運営や、この攻略方法を編み出した先達たちに負けた気分になる。
けどなぁ、プライベートなら良いんだけど、今は配信中だしなぁ。
攻略を暗中模索しながら探し出すというのは、視聴者さんたちからのウケがあまり良くない。
(そう、配信のためだ。決してさっさとこのクソボスを倒したいという自分の欲求のためではない。これは配信者として仕方ないことなのだ)
俺は自分を強制的に納得させて、攻略サイトを見る覚悟を決める。
「みんな、ちょっとあのクソボスを倒すために勉強してくる」




