37 オーティナティック実況(7)
「結局スパイクは修理できませんでしたね……これからどうやって移動しましょうか?」
「とりあえずここから一番近くの集合シェルターに移動しよう。そこなら資源もある程度備蓄しているし、もしかしたらスパイクも修理できるかもしれない」
ユーゴがマップを開いて俺に見せてくる。
「その集合シェルターはここら辺にある。ここからすぐ近くの距離だ」
それはゲーム時間内で歩いて5分――現実時間では5秒で着く距離にあった。
俺は視聴者さんたちに「集合シェルターって何?」とこっそり質問する。
コメント:集合シェルターっていうのは複数の世帯が一緒になって暮らしているシェルターのことやで。オーティナティックの世界では都市に住んでいる人以外は、ほとんど全員集合シェルターに住んでるで
博識な人が丁寧に教えてくれた。
どうやらマービンさんのように個人でシェルターを所有することは珍しいケースのようだ。
「こんなに近くに集合シェルターがあるのに、どうしてわざわざマービンさんは一人で住んでたんですか?」
「元々群れることが嫌いな人だったからな。それに親父は金は持っていたから、個人シェルターを持つのに特に弊害はなかった」
「その集合シェルターの人たちとの交流はあったんですか?」
「親父はしばしばシェルターに住んでいる人たちに、物質的な援助をしていたことがある。おれも何度かそれに着いていった。たった1人、同年代の女子がいてな。名前も覚えていないが、シェルターへ行くたびにその子と遊んでいた記憶があるよ」
「へぇ」
早速その集合シェルターへ移動しようとした時、ユーゴが手で待て、と制してきた。
「遠くの方にオーディンが見える。やつを倒してから行こう」
「了解しました。それでは敵を排除してきます」
「待ってくれ、ここはおれにやらしてくれないか?」
ユーゴが自分の持っている狙撃用のレールガンを叩く。
「まぁ、別にいいですけど……しっかりしとめてくださいね」
「もちろんだ」
彼の持っているレールガンにエネルギーがどんどん貯められていく。
狙っているのは、俺が地下研究所に入る前に倒したのと同じタイプのものだ。あれは上空から攻撃を叩き込まなければ倒せなかったはずだが、本当に大丈夫なのだろうか。
通常のレールガンより何倍も長い時間エネルギーをためた後、それが放たれる。
オーディンの装甲ごと吹っ飛ばして、敵が動かなくなった。
「物凄い威力ですね………」
「そうだな、だがもっとエネルギーを貯めることもできると思う。そうすればもっと威力の強い攻撃を撃ち出せるだろう」
「これがあればどんな敵でも余裕で倒せるんじゃないですか?」
俺の言葉にマービンはそんなことはないと否定する。
「今倒したのはオーディンの中でも最も弱い部類だ。それにこの狙撃用レールガンは通常のよりも重いため、仮に戦術用スパイクがあったとしても、その機能を十分には発揮できない。まぁ、一長一短ということだ」
「なるほど」
「それじゃあ夜になる前に集合シェルターへ向かおうか。視界が悪くなったら戦闘できないからな」
◇ ◇ ◇
俺たちは集合シェルターのマンホールみたいな入り口から地下に入って、頑丈そうな扉の前に立っていた。
扉を開けようとするが、セキュリティに阻まれる。
〈パスワードを入力してください〉
俺はもちろんパスワードなんて知らないため、ユーゴに頼るしかない。
「中尉、パスワード知ってますか?」
「いや、おれもここのパスワードは知らない。小さい頃に数回訪れたことがあるぐらいだから忘れてしまった」
うーん……どうしよう。まさかこの扉をぶっ壊してシェルターに入るわけにもいかない。
ゴン……コツ、コツ
俺たちが途方に暮れていると、誰かがシェルター入口のマンホールをだれかが開けて、ハシゴをつたってくる音がした。
「誰でしょうか?」
「ここの住人だろう。ちょうどいい、その人に開けてもらおう」
ハシゴをつたって降りてきたのは、若い女性だった。たぶんユーゴと同じぐらいだ。茶色のフードを目深にかぶっていて、顔はよく見えない。
ユーゴが警戒されまいと彼女に気さくに挨拶した。
「こんにちは、レディ。我々は決して怪しい者ではない」
「っ――!!」
彼女は俺たちを見ると、片手で持てる小さな銃を構えて威嚇してきた。
警戒させまいとするユーゴの試みは失敗したようだ。
「あなたたち、誰?何の用があってここに来たの」
ユーゴがレールガンを床に置き、両手を上げて説明する。
「おれたちは連合軍に所属しているものだ。先日基地が破壊され、ワシントンへ向かうための物資などの協力を要請しにきた」
「なにか証明できるものはないわけ?」
ユーゴはホログラムから自分のデータを彼女に見せる。
「ここに連合軍所属と書いてある」
「ふーん、たしかに軍の人たちのようね………でもあたしたちだってギリギリの生活なの。余ってる物資だってほとんどないし………」
ユーゴのデータを追っていた彼女の目が、ぴたりと止まった。
「ユーゴ・ラマリフェクタ………あんた、もしかしてマービンさんところの息子?」
「あぁ、よく分かったな」
その言葉を聞くと、彼女は少しなにかを考えるような表情を見せた後、こちらに向き直った。
「着いてきなさい。集合シェルターに入れてあげるわ。物資の提供は難しいけど、体を休めるぐらいならできるでしょ」
「感謝する。しかし何故急に協力しようと思ったのだ
?」
「母さんがマービンさんには世話になったって言ってたから、それだけよ」
ぶっきらぼうに言った後、彼女は扉に手をかけた。
〈パスワードを入力してください〉
「再び人類に栄光を」
扉が開くと、中から小さな男の子が彼女に駆け寄ってきた。
「ラン姉ちゃんおかえりー!!」
「ただいま、お迎えできてえらいね」
その男の子は彼女になでられて満足そうにしていたが、俺たちを見ると不安そうな顔になった。
「ラン姉ちゃん、あの人たちだれ……?」
「この人たちはね、あたしのお友達だよ。悪い人じゃないから心配しないで」
俺はその子に優しく微笑みかける。
「初めまして、Neoっていいます。よろしくね」
「うん……はじめまして」
おどおどと答えてくれた。
俺は可愛いねーとその子を撫でまわしたい衝動に駆られたが、なんとか我慢する。
奥の方から綺麗な女性が歩いてきた。
質素な、しかし清潔な白いドレスに身を包んでいる。黒くて長い髪を纏めて「お団子結び」をしている。その青い目をじっと見つめていると、引き込まれそうな感覚に襲われる。
「マモル、お姉ちゃんは疲れてるから、あんまりくっつかないの。ランちゃんもさっさとシャワー浴びてきた方がいいわよ」
彼女はこの男の子、マモルの母親のようだ。とても人妻のようには見えない。
「あら、軍人さんですか?」
「初めまして、連合軍所属のNeoと申します」
「Neoさんと………」
母親がユーゴに目を向ける。
「ユーゴ・ラマリフェクタ中尉だ」
「Neoさんとラマリフェクタさんですね。何にもないところですが、どうぞゆっくりして行ってください」
そう言うと彼女は男の子の手を引っ張って、自分の部屋に戻っていった。
男の子が部屋に入るまで、ランさんは彼らに向かって手を振っていた。




