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20 第9話:レトロゲーム大戦

「まずはどっちから先に遊ぼうかしら?」


「そちらからどうぞ」


 MARIEさんからの問いかけに、俺は反射的に答えた。すると「じゃあご好意に甘えるわね〜」と彼は上機嫌にコントローラーを握った。

 ちなみに美緒は若干涙目だ。


「みんなひどいよ………どうせ美緒が無様に負ける様を見て、笑い物にするんでしょ」


「美緒ちゃん、安心して。これでも私も大人よ、素人相手に本気になったりしないわよ」


「本当に?」


「本当に。なんなら縛りを設けてくれてもいいわよ」


 その言葉を聞くと、美緒はいくぶんか元気を出した。


「それじゃあ、MARIEが一回でもダメージを受けたら美緒の勝ちでいい?」


 だいぶ難易度の高いハンデだと思う。

 MARIEマリーさんは経験者だということを考えれば、これでちょうどいいのかもしれない。


「『ノーダメージ縛り』ね……えぇ、いいわ。受けて立ちましょう」


「ほんと?!これで美緒が勝ったのも同然だね」


「その程度のハンデで、この圧倒的な経験の差を埋めることはできないということを教えてあげる」


 MARIEさんがラスボスみたいなセリフを言う。


 彼はこういう悪役ロールをよくする。主にプレイしているMMORPGでもMARIEマリーさんはラスボスのような扱いをされているらしい。



 そしてゲームが始まった。


 やはりダメージを受けることができないという縛りは重いらしく、「ちょっと、今のおかしいでしょ!」と叫んでは、思い通りにいかない展開に悪戦苦闘していた。

 しかし美緒も相手にダメージを入れることができずに、試合は泥沼化した。


 両者がいい感じに拮抗していて、見ている分には楽しかった。莉亜もはやし声を上げながら、観戦していた。


 そしてこのままタイムアップで終了すると思われた時、MARIEさんのコンボから美緒が脱出した。MARIEさんのキャラはコンボ後の膠着こうちゃくが入っている。たった数フレームの隙だが、それが今回の試合では勝負の明暗を分ける。


 これで勝負が決まったと思われた時、その一方的な攻撃をMARIEマリーさんのキャラが回避した。


「うっそ、今の避けられるの!?」


「アタシの十八番おはこよぉ〜。回避ばっかり練習してたからこれだけは上手なの」


 あはははと高らかに笑っている。MARIEマリーさんがコンボを回避して、鋭いカウンターを繰り出した。


 コントローラーのボタンを高速で押している。俺はそのとき彼の手元を見ていたが、何が起こっているのかよくわからなかった。ただ大技を発動したということは想像がついた。


 そしてゲームの決着がついた。もちろんMARIEさんの勝利だ。


「こんなのってないよ……………」


 美緒が哀れになってくる。可哀想だが経験者のMARIEマリーさんの方が一枚上手だっということだ。



「次は私たちのバトルだねぇ」


 莉亜りあと対戦か……武者震いがするな。


「そうだね。ちなみにわたしは全力でプレイするから」


「それは私だって同じだよ?ボコボコにされても文句は言わないでね」


 お互い熱い火花を散らしあった後、コントローラーを強く握りしめた。


「まずは操作するキャラクターを選んでね」


 MARIEマリーさんが簡単に全キャラの性能を説明してくれた。それぞれ魅力的なキャラばかりだ。強いキャラや使いやすそうなキャラの目星はおおよそ付いたが…………


 俺はさっきの美緒との対戦でMARIEマリーさんが使っていたキャラを選択する。


 スキルのためが長いキャラを選んだ。長いためから繰り出される、一撃必殺のパンチが特徴的だ。こういうものは大抵上級者向けなのだが、男のロマンのためには多少扱いづらくても妥協する。

 莉亜は俺とは反対に攻撃のスキルがすぐに発動する、初心者向けのキャラだ。近距離型の攻撃しかないため、一方的に攻撃される可能性があるのが弱点だろう。


「このゲームはプレイするのは初めてなんでしょ?もっと操作の簡単なやつにすればいいのに」


「莉亜は分かってないなぁ」


 俺はちっちっと指を振りながら答える。


「最後の最後で、大技を喰らわせて勝つ。これがゲームのロマンでしょう?」


「………たしかにそれもそうかもね」


 そう言って莉亜は俺と全く同じキャラを選びなおした。


「これでネオちゃんとお揃いだねぇ」


 ニヤつきながらこちらを見てくる。


「ふーん、どういうつもりなのかな?」


「私が勝っても『わたしはネタキャラだから莉亜が勝つのは当然』なんて言われたら嫌でしょ?だからネオちゃんの得意な土俵に降りてあげて、完膚なきまで叩き潰そうってワケ」


「なるほど、性格悪いね」


「それってゲーマーにとっての最高の褒め言葉だよ?」


 鬱陶しいのは、やはり3年前から変わっていないようだ。

 自分が勝つと信じて疑わないその顔を見ると、どうしても負けられない気持ちになる。

 子供っぽいのもゲーマーの性なのかもしれない。


 俺の周りには性根の腐った奴が沢山いる。

 このことをもし目の前の莉亜りあに言ったら、類は友を呼ぶってことだろうねぇと返されるだろう。

 彼女の声を簡単に予想できる。


「お互い勝利条件は理解してるってことでいい?先に相手を倒した方の勝利ね。5分間のうちに勝負が決まらなかった場合は、相手により多くのダメージを与えていた方を勝者とするわよ」


 MARIEさんのルール説明の再確認が終わった後、〈レディファイト!〉というテレビから聞こえる掛け声とともにゲームがスタートした。


 お互い初発から一撃必殺のため技を放つ。しかしもちろん当たらない。挨拶みたいなものだ。



俺は一旦距離を取って様子見する。このキャラに飛び道具は存在しないから相手を牽制けんせいすることはできないが、それは莉亜りあも同じだ。

互いに拳を構えながら睨み合う時間が続く。




 3分経ったが、どちらも初心者であるから相手に与えたダメージ量は変わらない。


 これはタイムオーバーになる流れかもしれない。そう思っていると莉亜のキャラがこちらに急接近してきた。


油断していた俺は慌ててそれを避ける。莉亜もなんとなくコツを掴んできたようだ。

そろそろ決着がつくかもしれない。


 俺はMARIEさんが披露したあの大技を思い出した。相手の攻撃を避けてから、鋭いカウンターを繰り出す。

 これは使える。そう思って、ボタンの配置をもう一度再確認した。



◇ ◇ ◇


 浜辺莉亜はまべりあはネオのキャラクターに重い一撃を喰らわそうと急接近する。しかしギリギリのところで避けられた。

 後もう少しというところで回避され、不愉快そうに舌打ちをすると、横に座っているネオがおそるおそる彼女の顔色を伺った。



 接近した自分のキャラを相手から遠ざける。ここまで与えたダメージ量は、莉亜の方がネオより若干多い。

 ここで無理をしなくても、タイプアップを狙えば勝つことができる。莉亜はそう考えていた。


 そこから消極的に立ち回っていたが、それを見たネオが彼女を煽った。


「負けるのが怖いの?莉亜りあにしては面白くない戦い方だね」


「ふーん、ネオちゃんそんなこと言っちゃうんだ」


 安い挑発ではあったが、彼女の闘志に火をつけるのには十分であった。

 もともとための長いこの上級者向けのキャラを選んだのは、相手を完膚なきまでに叩き潰すためだ。こんな姑息な手を使って勝っても、気持ちが良くない。



 今まで消極的な態度をとっていた彼女は、逃げの姿勢をやめた。そしてコントローラーのボタンを素早く押した。


 油断していたネオの懐に潜って、重い一撃を与える。吹っ飛んだネオのキャラにさらに追撃を加える。


「これで、ゲームセット………」


 自らの勝利を確信した彼女は、操作しているキャラの最大のスキルのために入った。

 ネオが着地する場所はすでに計算している。莉亜はそこにための終わったスキルを放つ。


 高速のパンチで決着がつくと思われた。しかしネオのキャラがギリギリのところでそれを避けた。ギリギリのところで攻撃を回避したネオは、間髪入れずに鋭いカウンターを叩き込む。


 それを見て、莉亜が呟く。


「これって、さっきマリーが使ってた技じゃ………」


 まさか一回見ただけの動き(ムーブ)を再現したというのだろうか。しかもほとんど触ったことのない、ディスプレイを使用したレトロゲームで。


 カウンターを喰らって体勢が崩れた彼女はそのまま何発も攻撃される。

 ネオが満足そうな顔で笑った。


「MARIEさんの回避してカウンターの動きを再現してみた。ぶっつけ本番だったから成功して安心したよ」


「それ、さっき一回見ただけだよね………?」


「本番で初挑戦って、ロマンあるでしょう?」


「ネオちゃんって結構浪漫派な人だったたんだね……」


 ネオの攻撃で莉亜りあのキャラが吹っ飛ばされた。これで決着がついた。


〈ゲームセット!winner:Neo〉


 テレビにはネオの勝利を知らせる画面が映っている。派手な演出が特徴的だ。


「上手い人のプレイを見て、自分もそれを真似するっていうのもゲームの醍醐味でしょ?」


「確かにそうかもねぇ。いやぁ、面白かったよ」


「対あり。わたしも楽しかった。レトロゲームも案外悪くないね」


 ソファーに体重を預けた莉亜は、グラスに酒を注いで飲んだ。


 ネオがそれを羨ましそうに見るので、彼女の分も注いで一緒に酒を飲んだ。

 ネオは遠慮していたが、いいから戦勝祝いだよ飲みな!と言ってグラスを渡した。




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