↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/31

【一章:野球編】アキレスって誰ですか? とりあえずタンパク質を摂りましょう。

「——いでよ、トロイア戦争最凶の戦士アキレス! 汝の圧倒的な武をもって、この地に『勝利と安寧』をもたらすのだ!」


 眩い神殿の光の中、背中に純白の翼を生やした美女——勝利の女神ニケ・ヴィクトーリアが神々しく叫んだ。


 だが、光が収まったあとに立っていたのは、ポカンと口を開けたジャージ姿の青年だった。


「アキレス…?誰それ?何の話…って、は!?ここどこ!?お前誰!?翼生えてる!本物!?すげぇぇ!!」


「え……?あ、あれ……?魂の形は間違いなくアキレスなんだけど……あなた現代人よね……?」


 ニケが呆然と冷や汗を流しマニュアルのような分厚い本を捲る中、体育大学3年・野球部出身のカイト(21歳)は、女神の翼をまじまじと観察しながら脳内変換を行っていた。


(……待てよ? 女神?『勝利』をもたらす……?ああ、なるほど!俺に『監督(コーチ)』としてリーグ戦で優勝しろってことだな!?)


「よし任せろ女神! 俺の夢は最高の体育の先生になることだ!どんなチームでも優勝させてやる!」


「ち、違うの!戦争を——」


 ニケの制止を聞く間もなく、カイトは神殿の転送陣へと威勢よく飛び込んでいった。


 ◇


「……ハァ、ハァ……今日の作業は終わりにしよう……」


「ダメだ、今年も王国の貴族様に年貢が払えない……魔法の才能がない俺たちは、泥を食って死ぬしかないんだ……」


 転送された先は、今にも崩れそうな貧しい開拓村だった。あたりには衰弱した村人たちがへたり込んで酷い悪臭が漂っている。全員、頬はコケ、腕は枯れ枝のように細い。


 カイトは通りすがりの少年の腕を即座にキャッチし、栄養状態と骨格をチェックした。


「そこの少年! ここはどこだ! 普段何食ってる!?」


「え……? 麦の殻が入った薄い粥だけど……ここはレプス領の外れの村だよ……お兄さんどこから来たの?」


「絶望的だな!食事バランス崩壊どころかタンパク質が圧倒的に足りてねえ!これじゃ回復どころか筋分

 解が進む一方だぞ!」


「タン……パクシテュ……?魔法の話?お兄さんは魔法が使えるの…?」


 カイトが頭を抱えていると、馬の足音とともにギラギラした金色の鎧をまとった男たちが現れた。この地を治める魔法騎士団と思われる隊長とその部下たちだ。


「ヒーハーー!泣き言を言っているヒマがあるなら年貢を出せ愚民ども!」


 隊長はそう言い放つと、懐から怪しげな青い小瓶を取り出し、グイッと飲み干した。 途端に皮膚がドス黒く湧き上がり、腕の筋肉が不自然に膨れ上がる。


「見よ!今、王都で流行っている『魔力増強ポーション』だ!魔法の才がない貴様らには一生縁の無い代物よ!」


 カイトは呆れて深い溜め息をついた。


「不自然なバルクアップ……明らかにステロイド系の副作用で呼吸が荒くなってるなぁ。軸もブレブレだし、その調子だと数年後にはヘルニアをやるぞ、そこのお前」


「なに……!?ヘルニア??どこぞの馬骨だ貴様!」


 激怒して剣を抜く隊長。村人たちが悲鳴を上げる中、カイトは地面の石ころを拾い、指先で弄びながらニヤリと笑った。


「まあ待てよ、騎士様。お前たちが魔法を使おうがポーションを飲もうが構わない。1ヶ月後、この広場で『ベースボール』の試合をしよう。俺たちが勝ったら年貢は帳消しだ」


「ベースボールだと……? ハハハ、なんだそれは!しかし、いいだろう! 魔法も使えぬカスどもに身の程を教えてやるのだ!ヒーハーー!」


 高笑いとともに去っていく魔法騎士団。 残された村人たちは「勝ち目なんてない!」と絶望していたが、カイトは拳を握りしめた。


「安心しろ。今日からお前たちの主食は、肉と牛乳だ。まずは食事でベースを作る。いいか?遥か遠い地球という世界にはな、棒一本で球を星まで打ち飛ばした破壊の神がいたんだ。その名は——ベーブ・ルース」


「は、破壊の神……ベーブ・ルース……!?」


「そうだ。神は言った。『あきらめない奴には、誰も勝てないんだ。』とな!」


「おおお! 破壊の神ベーブ・ルース様の聖戦『べーすぼーる』……! 俺たち、肉を食って鍛えます!!」


 ◇


 村人たちの目が怪しい宗教信者のように輝き始めた頃。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよカイトぉぉ!!」


 水晶玉で下界を見ていた勝利の女神ニケが、頭を抱えて叫んでいた。


「なんで『野球』で解決しようとしてるワケ!?それにベーブ・ルースはまだ上位精霊で神には昇格してないわよ!!」


 ポンコツ女神の悲鳴を余所に、異世界最初の「ベースボール革命」の幕が切って落とされたのだった。

ご覧いただきありがとうございます!


現代の体育大生が、異世界の理不尽にスポーツで殴り込みをかける物語が始まりました!


初回から「タンパク質が足りない」「不自然なバルクアップとステロイドの副作用」「ヘルニア」など、異世界ファンタジーではあまり聞かないワードが飛び交っていますが、主人公はいたって大真面目にコーチングをして行きます!!


作中に出てくる「ベーブ・ルース」のように、地球のレジェンドアスリートたちが異世界でどんな神話として語り継がれていくのかも、楽しんでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。