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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第一章:静かな日々  ― そして、幼き聖女の力は目を覚ます ―

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エリスの決意

————天界から現実の世界に戻ると


光が遠ざかり、意識がゆっくりと沈んでいく。

次に目を開けたとき、私は自分の部屋にいた。

見慣れた天井。

窓から差し込む淡い月の光。


——夢だったのだろうか。


そう思うのに、胸の奥に残る感覚はあまりにも鮮明だった。

セレネの声。

アテナの瞳。

光に満ちた、あの場所。


「……夢、じゃない」


小さく呟く。

言葉にした瞬間、少しだけ現実味が増した。

私は毛布の上で、ゆっくりと体を起こす。

自分の手を見つめる。

小さくて、まだ頼りない手。

けれどこの手には、確かに“何か”がある。


「……私は」


何者なのか。

何をすべきなのか。

アテナの言葉が、胸の奥で静かに響く。


——あなたは選べる。


その意味を、まだ完全には理解できない。

ただ、ぼんやりと考える。

これから先、自分はどう生きるのだろう。

何を守りたいのだろう。


「……分からない」


正直な気持ちだった。

そのとき。

ふいに、強い眠気が襲ってくる。

思考が、ゆっくりと霧の中へ沈んでいくようだった。


「……あとで……考えよう」


子どもらしい逃避にも似た呟き。

けれど、それもまた自然なことだった。


世界の未来。

均衡。

運命。


そんな重い言葉は、まだこの小さな体には大きすぎる。

エリスは再び横になり、目を閉じた。

静かな夜。

遠くで風が木々を揺らす。

やがて、呼吸はゆっくりと整い——

深い眠りへと落ちていった。


まだ、自分がこの世界の未来を背負う存在であることを、

本当の意味では理解しないまま。




————そして、静かな朝を迎える


朝の光が、ゆっくりと部屋を満たしていた。

眠りは深かったはずなのに、目覚めはどこか現実感に欠けている。


——夢だったのだろうか。


セレネ。

アテナ。

光の世界。


思い出そうとするたび、胸の奥が静かに波立つ。


そのとき。

ふわりと、香ばしい匂いが漂ってきた。


「……パン」


それだけで、現実に引き戻される。

ベッドから降り、ゆっくりと部屋を出る。

階段を下りると、見慣れた光景が広がっていた。

テーブルに並ぶ朝食。

暖かな光。

そして。


「おはよう、エリス」


クラリスの柔らかな笑顔。

その瞬間、胸の奥にあったざわめきが少しだけ和らぐ。


「……おはよう」


席に着く。

けれど、どこか違う。

同じ朝。

同じ家。


それなのに——


自分の内側だけが、別の場所に触れてしまったような感覚。


「どうしたの?」


クラリスが静かに尋ねる。

その声に、迷いがほどける。


「……ねえ」


エリスは、ゆっくりと口を開いた。


「昨日……夢を見たの」


エノクの手が、わずかに止まる。


「女神様がいて……

 それから……もう一人の人がいた

 名前は……アテナって言ってた」


その瞬間。


エノクの呼吸が止まった。

表情は変わらない。


だが、ほんの一瞬だけ、時が止まったかのようだった。


「……そうか」


やがて、ゆっくりと言葉を返す。

神官としての知識が、頭の奥で警鐘を鳴らしている。


だが今は——

父として向き合うべき時だった。


「怖かったか?」


エリスは少しだけ考え、首を振る。


「……ううん

 でも、よく分からなかった

 私は何をすればいいのかって」


エノクは静かに頷く。


「すぐに答えを見つける必要はない

 お前はまだ子どもだ

 考える時間はいくらでもある」


その声は、優しかった。

不安を打ち消すように、穏やかに。

クラリスは黙って二人を見つめている。


そして。


「まずはパンを食べなさい」


いつも通りの口調で言った。


「冷めちゃうわ」


その何気ない言葉が、空気を少しだけ軽くする。

エリスは小さく笑い、パンを手に取った。

バターがゆっくりと溶けていく。


その様子を見つめながら。


(……大丈夫)


そう思えた。

まだ世界の未来など分からない。

けれど、この場所は確かにここにある。


温かくて、優しい場所が。


しかし、まだ分からないことだらけだ。

自分の力も、運命も。

それでも——


今はここにいればいい。

そう思えた。


「今日はマリンと遊んでくるね」


「行ってらっしゃい」


クラリスが微笑む。

その笑顔を背に、エリスは外へと駆け出した。

春の風が、柔らかく頬を撫でる。


——この日常が、いつまでも続くような気がしていた。


だが。

世界は静かに動き始めていた。

魔界の奥深く。

黒き城の玉座の前で、ひとりの男が立っている。


「準備を急げ」


冷たい声が響く。

兵が動き出し、魔導陣が再び灯る。

長く止まっていた歯車が、ゆっくりと回り始めた。


遠い天界では。

光の中で二つの影が世界を見下ろしている。


「始まったわね」


アテナが静かに呟く。

その瞳には、かつて知った未来の重さが宿っていた。


「ええ」


セレネは穏やかに答える。


「今回は、どこへ向かうのでしょう」


その問いに、答えはない。

ただ、見守るだけ。


小さな家の中で眠る少女。

その存在が、世界の均衡を揺らすとも知らずに。

星は今日も静かに瞬いている。


——物語は、まだ始まったばかりだ。


第一章:静かな日々  ― そして、幼き聖女の力は目を覚ます ― 完


まだ試行錯誤ですが、何とか第一章を書き終えました

読んでいただき、ありがとうございます

次からは新章が開始します

新章が始まる前にこの後、19時に登場人物などをまとめたのを公開します

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