魔界での不穏な動き
魔界の様子を書き忘れてたのに気づき差し込みです
——時は遡りエリスが討たれた直後
魔界の玉座は、静まり返っていた。
かつて女王が座していたその場所に、今は別の影がある。
「……ようやくだ」
宰相ゼルヴァークは、ゆっくりと玉座の背に手を置いた。
冷たい石の感触。
だが、その胸の奥には確かな熱がある。
長かった。
あまりにも長い年月、耐え続けてきた。
「理想など、国を弱らせるだけだ」
低く呟く。
女王の掲げた“共存”。
人間との和平。
それは、彼にとって幻想にすぎなかった。
「世界は力で均衡する
それを忘れた時点で、あの方は王ではなくなった」
そう言いながらも、その表情には一瞬だけ影が差す。
だが、それはすぐに消えた。
「これで、ようやく始められる」
ゼルヴァークは踵を返す。
玉座の間の重い扉が開き、冷たい風が流れ込んだ。
「将軍ディアゼルを呼べ」
控えていた魔族がすぐに頭を下げる。
「はっ」
数刻後。
重厚な足音が響く。
玉座の間に現れたのは、黒い鎧を纏った巨躯の魔族だった。
「お呼びでしょうか、宰相」
低く、落ち着いた声。
それが魔界軍総将軍、ディアゼル。
ゼルヴァークはゆっくりと振り返る。
「体制を再構築する」
迷いのない声だった。
「防衛ではない
攻勢のための準備だ」
ディアゼルの瞳が、わずかに細くなる。
「……ついに、人間界へ?」
「いずれは」
ゼルヴァークは静かに言う。
「だが急ぐ必要はない
確実に勝つための戦いをする」
その言葉には、焦りがなかった。
ただ、冷たい確信だけがある。
「この世界の均衡は、近いうちに変わる」
ディアゼルは深く頭を下げた。
「承知しました」
だが、そのまま言葉を続ける。
「しかしながら——」
ゼルヴァークの眉がわずかに動く。
「何だ」
「戦の準備には、どうしても時間を要します」
静かな声だった。
だが、揺るぎはない。
「現在の軍は長年、防衛を前提に再編されております
攻勢に転じるには、兵の訓練、補給線、魔導戦力の整備——
すべてを見直さねばなりません」
玉座の間に沈黙が落ちた。
ゼルヴァークの視線が、ゆっくりとディアゼルに向けられる。
「……言いたいことはそれだけか」
「はい」
即答だった。
それは反抗ではない。
ただ、戦を知る者の現実だった。
ゼルヴァークはしばらく黙っていた。
心の奥で、焦りが燻る。
——時間は味方ではない。
人間界もまた、動き始めるだろう。
だが。
無理な戦は、敗北を招くだけだ。
ゆっくりと息を吐く。
「……分かった」
低く言った。
「だが、遅延は許さぬ
最短で進めろ」
ディアゼルは再び頭を下げる。
「全力を尽くします」
ゼルヴァークは玉座へ歩み寄る。
指先で肘掛けをなぞりながら、静かに呟いた。
「長い停滞の後には、必ず激動が来る
その波に飲まれるか、乗るか
我らが決める」
その目には、冷たい確信が宿っていた。
続編は予定通り3月25日18時に公開します




