↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第八章 王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
169/169

ついに姿を現した訪問者 ― 思惑が交差する瞬間 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


メルキオラの潜入によって、グラディウス侯爵邸で翌日に取引が行われることが判明した。

捕らえられた人々が侯爵邸へ運び込まれるところまでは突き止めたものの、その先の行方は依然として分かっていない。

そして、ついに迎えた約束の日。

クラリスたちは侯爵邸の近くで監視を続けながら、取引相手が姿を現すのを待っていた。

果たして、彼女たちは失踪事件の真相へ近づくことができるのだろうか。


第八章の続きをお楽しみください。

翌朝


王都グランヴェイルの街には、いつもと変わらない朝が訪れていた。

商人たちは店を開く準備を始め、通りには荷馬車が行き交っている。

そんな街の賑わいから少し離れた貴族街。

グラディウス侯爵邸の周辺では、クラリスたちが密かに監視を続けていた。

昨夜、メルキオラが自ら誘拐犯に捕まり、侯爵邸の地下室へ潜入した。

そこで耳にしたのは、翌日に捕らえた人々を引き渡すという私兵たちの会話だった。

その約束の日が、今日である。


「……まだ動きはないわね」


クラリスが侯爵邸の門を見つめながら呟いた。


「ええ。でも、今日来るという話なら、もう少し待ってみましょう」


レオネリアが答える。

エリスも、門の様子を注意深く見つめていた。


「本当に、あの黒いフードの人が来るのかな?」


「その可能性は高いでしょうね」


メルキオラが答えた。


「昨日、私兵たちは明日の約束の時間に間に合ったと話していました。少なくとも、誰かが捕らえた人々を受け取りに来るはずです」


「その相手がシャドウウォーカーなら、ようやく手掛かりが掴めるわね」


クラリスが言った。

レオネリアは静かに頷いた。


「ええ。あの男が関わっているなら、何かしらの目的があるはずよ」


メルキオラも同意する。


「それに、以前の報告では、黒いフードの人物が地下室へ入った後、捕らえられていた人々が姿を消していたそうです」


「どうやって連れ出しているのかも分からないんだよね」


マリンが尋ねた。


「ええ。だからこそ、今回はその瞬間を確かめる必要があります」


そう答えたメルキオラは、再び侯爵邸へ視線を向けた。

そのときだった。

屋敷へ続く道の向こうから、一人の男が歩いてきた。

頭から黒いフードを深くかぶり、顔のほとんどを隠している。

男は周囲を気にする様子もなく、まっすぐ侯爵邸の門へ向かっていた。


「……来たわ」


クラリスが小さく告げた。全員の視線が、その男へ集中する。

男は門番の前で足を止めた。門番は相手の姿を確認すると、慌てて姿勢を正した。

そして、特に身分を確かめることもなく門を開けた。

男は当然のように屋敷の中へ入っていった。

その姿を見て、レオネリアの表情が険しくなった。


「……間違いないわね」


メルキオラも頷いた。


「ええ。あの歩き方と魔力の気配……」


二人は互いに顔を見合わせた。


「シャドウウォーカーよ」


レオネリアが静かに告げた。

エリスは驚いたように二人を見る。


「やっぱり、あの人が?」


「はい、エルシア様」


メルキオラが答えた。


「以前から疑っていましたが、これではっきりしました」


クラリスは侯爵邸へ視線を戻した。


「それなら、予定どおり作戦を始めましょう」


そして、メルキオラを見た。


「メルキオラ、地下室へ戻ってくれる?」


「はい。そのつもりです」


メルキオラは頷くと、懐から小さな魔道具を取り出した。

手のひらに収まるほどの大きさで、表面には複雑な魔法陣が刻まれている。


「その前に、これをお渡ししておきます」


「これは?」


クラリスが尋ねた。


「転移用の魔道具です」


「転移?」


「はい。私が呼び出しの魔法を発動すると、この魔道具を中心とした半径三メートル以内にいる者を、私のいる場所へ転移させることができます」


クラリスは魔道具を受け取った。


「つまり、私たちがここで待っていれば、あなたの合図で地下室へ行けるということね」


「そのとおりです。ただし、半径三メートル以内にいなければ転移できませんので、皆さんはできるだけ近くに集まっていてください」


「分かったわ」


クラリスが頷く。


「これなら、屋敷の中へ忍び込む必要もないわね」


「ええ。それに、転移の瞬間を屋敷の外から見られる心配もありません」


メルキオラは周囲を確認した。


「それでは、私は先に戻ります」


「気をつけてね、メルキオラ」


エリスが声を掛けた。

メルキオラはエリスへ向き直り、丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます、エルシア様。どうぞご安心ください」


そして、静かに魔力を集中させた。

次の瞬間、メルキオラの姿が、その場から消えた。


◇◇◇


グラディウス侯爵邸の地下室。

薄暗い室内には、いくつもの鉄格子のケージが並んでいた。

昨夜連れてこられた人々は、それぞれのケージの中で不安そうに身を寄せ合っている。

その一角には、膝を抱えて座るメルキオラの姿があった。

もちろん、それは昨夜から残していた幻影である。

そのすぐそばに、本物のメルキオラが転移してきた。


「……さて、ここからが本番ですね」


メルキオラは周囲に人がいないことを確認すると、幻影を消した。

そして、自分自身がケージの中に座る。昨夜と同じように、怯えた女性を装った姿だった。

しかし、今の彼女には一つだけ問題があった。シャドウウォーカーは魔族である。

同じ魔族であるメルキオラの魔力を感じ取れば、正体を見破られる可能性があった。


「念のため、こちらも準備しておきましょう」


メルキオラは小さく呟いた。


「アビスエイリアネイション」


認識阻害の魔法が、彼女の身体を包み込む。

これは姿を消す魔法ではない。

相手の認識に干渉し、メルキオラが魔族であるという事実を悟られにくくする魔法だった。

見た目も魔力の印象も、今は貧民街から連れてこられた普通の女性にしか感じられないはずだった。


(これで、あの男が近づいても、すぐには気づかれないでしょう)


メルキオラは膝を抱え、俯いた。

あとは、シャドウウォーカーが地下室へ現れるのを待つだけだった。


◇◇◇


しばらくすると、地下室へ続く階段から足音が聞こえてきた。

複数の人間が歩いているようだった。

やがて、重い扉が開かれた。


「こちらでございます」


先頭に立っていたのは、侯爵邸の私兵だった。

その後ろから、黒いフードをかぶった男が姿を現した。

シャドウウォーカーである。

さらに、その後ろには二人の私兵が付き従っていた。


「今回の人数は?」


シャドウウォーカーが低い声で尋ねた。


「七人でございます」


「七人か……」


男は地下室を見渡した。


「少ないな」


「も、申し訳ございません。前の者たちが突然いなくなりまして、急遽集め直した次第で……」


私兵は慌てて頭を下げた。

シャドウウォーカーは、しばらく黙っていた。


「……まあいい。今回はそれで済ませよう」


「ありがとうございます」


私兵は安堵したように息を吐いた。


「では、確認させてもらう」


シャドウウォーカーは、ゆっくりとケージの前を歩き始めた。

中にいる人々は、黒いフードの男を恐れるように身体を縮めている。

男は一つ一つのケージを覗き込み、捕らえられた人々を確かめていった。

そして、メルキオラがいるケージへ近づいてきた。


(……来ましたね)


メルキオラは俯いたまま、男の気配を探っていた。

シャドウウォーカーは、まだ彼女の正体に気づいていない様子だった。

アビスエイリアネイションが、うまく働いているらしい。

男がケージの前で足を止める。


「……顔を上げろ」


メルキオラは怯えたように、ゆっくりと顔を上げた。

フードの奥から、鋭い視線が向けられる。


(今です)


メルキオラは、密かに魔力を集中させた。

そして、クラリスに渡しておいた魔道具へ呼びかける。

次の瞬間だった。地下室の中央に、淡い魔法陣が浮かび上がった。


「な、何だ!?」


私兵の一人が驚きの声を上げる。光が一瞬だけ強く輝いた。

そして、その光が消えたとき。そこには四人の女性が立っていた。


クラリス。

エリス。

マリン。

そして、レオネリア。


侯爵邸の外で待機していた四人が、メルキオラの転移魔法によって呼び寄せられたのである。


「なっ……!」


「ど、どこから現れた!?」


私兵たちは突然の出来事に驚き、慌てて武器に手を伸ばした。


「お前たち、何者だ!」


クラリスは落ち着いた様子で周囲を見渡した。


「……間に合ったようね」


「ええ。ちょうどいいタイミングよ」


レオネリアが答える。

マリンも地下室を見渡した。


「ここが、捕まった人たちを閉じ込めていた場所なんですね……」


「そうみたいね」


エリスが頷く。

そして、ケージの中にいる人々へ視線を向けた。

怯えた表情でこちらを見ている者もいれば、突然現れた四人に驚いている者もいる。

クラリスは私兵たちを見据えた。


「武器を抜かない方がいいわよ」


その言葉に、私兵たちの動きが止まった。

クラリスの落ち着き払った態度に、ただならぬものを感じたのだろう。

一方、シャドウウォーカーは違っていた。

突然現れた四人を見ても、私兵たちのように取り乱すことはなかった。

ただ、目の前で起きた現象を確かめるように、じっと見つめていた。


「……転移魔法?」


男が低く呟いた。その声には、驚きよりも疑念が含まれていた。

そして、ゆっくりと視線を動かす。

その先には、いつの間にかケージの外へ出ていたメルキオラが立っていた。

彼女は、すでに貧民街の女性に見せかけていた偽装を解いていた。

さらに、アビスエイリアネイションも解除している。


「……お前は」


シャドウウォーカーの声が変わった。

フードの奥の目が、大きく見開かれる。


「まさか……お前は……!」


メルキオラは、その反応を見て静かに微笑んだ。


「久しぶりですね、シャドウウォーカー」


「なぜ……お前がここにいる……!」


先ほどまで冷静だった男の声に、明らかな動揺が混じっていた。

私兵たちは、何が起こっているのか理解できず、二人を交互に見ていた。


「お、お知り合いなのですか……?」


私兵の一人が尋ねた。

しかし、シャドウウォーカーは答えなかった。

ただ、メルキオラを凝視している。


「……まさか、お前たちが……」


男は何かに気づいたように、レオネリアへ視線を移した。

レオネリアも、静かに男を見返していた。


「久しぶりね。シャドウウォーカー」


その言葉を聞いた瞬間、男の表情がさらに険しくなった。


「レオネリア……!?」


そして、再びメルキオラを見る。


「メルキオラ……まさか、お前たちは……!」


メルキオラは、ゆっくりと一歩前へ出た。


「ええ」


その表情には、もはや怯えた女性の面影などなかった。

かつて魔族の女王エルシアに仕えていた魔導士。

その本来の姿が、そこにあった。


「お前が考えているとおりですよ」


静まり返った地下室に、メルキオラの声が響いた。

シャドウウォーカーは、何も答えなかった。

ただ、信じられないものを見るように、メルキオラとレオネリアを見つめていた。

そして、そのすぐそばには、エリスが立っていた。

長い年月を経て、再び顔を合わせた魔族たち。


グラディウス侯爵邸の地下室で、思いがけない再会が果たされたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、グラディウス侯爵邸を訪れた謎の人物が、ついにその姿を現しました。

その正体は、レオネリアとメルキオラが疑っていたシャドウウォーカー。

メルキオラはあらかじめ用意していた転移の魔道具を使い、クラリスたちを地下室へ呼び寄せることに成功します。

突然現れた四人に私兵たちは驚きますが、シャドウウォーカーだけは異なる反応を見せました。

かつて魔族の女王エルシアに仕えていたレオネリアとメルキオラ。

その二人が目の前に現れたことで、シャドウウォーカーは明らかな動揺を見せます。

しかし、失踪した人々が侯爵邸からどこへ運ばれているのか、そして何のために集められているのかは、まだ明らかになっていません。


次回は、いよいよシャドウウォーカーとの直接対決へ。

レオネリアとメルキオラの姿を見て動揺するシャドウウォーカー。

果たして、彼は事件の真相を語るのでしょうか。

それとも、クラリスたちの前に立ちはだかるのでしょうか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、10月29日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[[魔族の女王が転生したら聖女になっていた>https://ncode.syosetu.com/n5658ly/]] [[作者のX>https://x.com/shirokamieru?s=11]]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。