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第234話 石猿

 私達は森の入口に入り進んで行った。


 私と双子の侍女リンリン、ランランの前を騎馬と歩兵と弓兵が歩いている。

 私達の前後を神官6人、後には歩兵50名、弓兵30名が着いてくる。

 前衛は騎士団長アーガス・リベラが、後方は団長補佐のアダムが守ってくれる。


 しかし前後に分かれてしまうと、大した人数に感じない。

 討伐隊が初めての私には、むしろ不安になる人数だ。


 しばらく歩くと明るかった森が暗くなり始めた。

 ドンヨリとした重みを増したような空気になる。


「ビッチェ王女様、瘴気《しょうき》です。奥に行けば行くほど瘴気は強くなり、強い魔物がいると聞いております」


 私の前を歩いている神官の1人が教えてくれた。

 彼ら神官6名は前回討伐には参加しておらず、この森は初めてだと言う。



「ここら辺からだ」

 前衛を指揮している騎士団長アーガスが、ぽつりと言う。


 ガサ、ガサ、ガサ、ガサ

   ガサ、ガサ、ガサ、ガサ


 前の方からなにか音がする。


「ヒィッ?!」

 騎士団長アーガスが、とても驚き怯えている。

 こんなので大丈夫なのかしら?

 そう思った時だった。


 森の中から小柄な人型が5体出て来た。

「ゴ、ゴブリンだ!全員でかかれ~!!」

 騎士団長アーガスが、怯えた声で叫ぶ!!

 周りの兵士達がその怯え方にクスクス笑っている。


「そんなに強いのゴブリンは?」

 私は隣を歩くランランに聞く。


「いいえ、ゴブリンは魔物の中では弱い方です。それほど脅威ではありません」

「ではどうしてアーガスさんは、あんなに怯えているのかしら?」

 後を振り向くと騎士団長アーガス・リベラは顔面蒼白になっている。

 前回の討伐でいったい何があったのかしら?


「ゆ、弓兵、前へ出ろ!撃て~!!」

 それは指揮と言うレベルのものではなかった。

 騎士団長アーガスは冷や汗をかき、とても指揮が出来るとは思えなかった。


 シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!

   シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!

    シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!


 「ギャッ!!」「グギャ!!」「ギャッ!!」

   「グギャ!!」「グギャ!!」


 5体のゴブリンは、あっと言う間に倒された。


「ゴブリンなんて、こんなもんさ」

「そうだぜ、俺達にかかれば簡単さ」

 ゴブリンを倒した弓兵が自慢そうに言う。


「ここからだ。気を付けろ!油断するな!!」

 後方にいる騎士団長アーガスが叫ぶ!


 その言葉に兵士達は身構える。

 だがなにも起こらなかった。

「騎士団長、しっかりしてくださいよ。前回、何があったのかは知りませんが、怯えすぎですよ」

「そうですよ、ここは比較的、弱い魔物の溜まり場ですから」

「騎士団長がそれじゃあ、俺達の方が不安になりますよ。なあ、みんな?」

 そう1人の兵士が、みんなに同意を求めた時だった。


 ゴキッ!!

 変な音がしたと思うと、兵士の首が右に折れ倒れた。


「ま、不味い!!歩兵は円陣を組み盾構えろ!弓兵は円陣の中に入れ~!!」

 騎士団長アーガスが、指示を出した時だった。


 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

    ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

       ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!


 歩兵のかざす盾に何かが凄い勢いで当たる。

 よく見ると拳くらいの大きさの石だった。


 周りに木々があり、ふと見上げるとたくさんの何かが木の上にいた。

 歩兵の誰かが叫ぶ!! 

「石猿だ!!」


「石猿というのは?!」

 私が驚いて聞くと、リンリンが教えてくれた。

「石猿は160cmくらいの大型の猿の魔物です。知恵があって手に石を持ち相手に投げ、弱ったところを集団で襲うと言われています。そしてその厚い毛に覆われた体は防御力が高く、力もあり攻撃力が高いそうです」


 その間にも礫《つぶて》が飛んでくる。


 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

    ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

       ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!


 しばらく歩兵が盾で耐えると、礫《つぶて》は飛んでこなくなった。

 手持ちの石が無くなったのだろう。

 それなら、次に来るのは…。


  キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

      キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

  キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

    キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

 

   キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

      キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

  キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

    キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!


  キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

     キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

  キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!

    キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!キィ~!!


 書き声がしたかと思うと、たくさんの猿が木から降りて来た。

 あれが石猿。

 茶色の長い毛並み。

 体長は160~170Cmくらい。

 そして私達は囲まれてしまった。


 よく見ると50匹はいるかもしれない。

 

「完全に囲まれているわね」

 ミリアちゃんが他人事ごとのように言う。


 騎士団長アーガスは呆然としながら、なにかをブツブツ言っている。

「だから嫌だって言ったんだ。何が名誉挽回だ。森の奥は初心者向けの場所じゃねえよ!」

 指揮官がこんなことになっているとは…。


「さて、ここは私達の出番ね!」 

「ミリアちゃん、どうするの?」

 私は死ぬかもしれない場面なのに、不思議と落ち着いていた。


「私の言う通りに言ってね。風の魔法でみんなに声が届くようにするから」

「わかったわ」

 私はミリアちゃんに、そう言うと頷いて見せた。


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