第229話 人の心
「どうやら失敗したようだな、ビッチ。おまけに勇者エリアスも消えてしまった」
オバダリア侯爵が冷たく言い放つ。
「そ、そんな馬鹿なことが…」
「もう終わりにしましょう、ビッチェ王女様」
ロターリ司祭も、やれやれと言った顔をしている。
私は呆然としていた。
失敗なんて絶対にありえない。
それに召喚と同時に前回召喚した勇者が、消えてしまうなんて考えられない。
これは何かの間違いよ。
「簡単に『失敗』だなんて言わないでください。私達にはもう後がないのですよ」
「私達?それは違うなビッチ。いいえ、ビッチェ王女様」
「どういう意味なの、オバダリア侯爵」
「あなたと私達は同じ船に、最初から乗っていないのですよ。召喚が出来ればと、ビッチェ王女様とは懇意にして頂きましたが。このまま仲が良いと周りから思われると、他の閣僚の方からの支持にも影響が出ますからな」
「そうですな、我がシャルエル教としても、失敗したのではなく古い文献を参考にして召喚儀式を行っただけですからな。最初から成功する保証はありませんから」
「ですが、前回は成功したではありませんか?あなた達も見ているでしょう?」
「いいえ、私達は何も見ておらず、聞いておらず、何も言いません」
「そ、そんな」
「シャルエル教としては、ビッチェ王女様からの命令に逆らえず従いましたが、ここらが潮時です。もうお会いすることもないでしょう」
「あれだけの報酬を受け取っていながら逃げるのですか!」
「まあ、まあビッチェ王女様。私もこれを機会に、お会いするのは止めましょう」
「オバダリア侯爵様、あなたまで…」
「私も王女様に乞われ仕方なく、お相手をさせて頂きましたが。私も周りの目を少しは気にしましてね。もう解放して頂ければと思います」
「力の無い王女とその父である王子には、関わり合いたくないという事ですか!」
「なにをおっしゃっているのでしょうか」
「では、我々はこれにて、失礼いたします」
「失礼いたします」
そう言ってオバダリア侯爵とロターリ司祭は神殿を出て行った。
薄暗い神殿に1人残された私は泣いた。
今までどれほどの思いをしてきたのか。
この日の為に、我慢してきたのに。
それが全て無駄になり後ろ盾もエリアス様も居なくなった。
シャルエル教はこの国では絶対。
その司祭に見放され、オバダリア侯爵から見放された私を誰が支援するだろう。
私は、いいえ、私達親子はもう、この国で居られる場所は無くなった。
私は誰も居なくなった神殿で一人泣いた。
座り込み大声で泣いた。
今まで溜まっていた何かを吐き出すように…。
しばらく泣くとふと、なにかの気配を感じた。
「ねえ、どうして泣いているの?」
女の子の声が聞こえ、空耳かと思い顔を上げた。
すると私の顔の左側に15cmくらいの、可愛い子が浮かんでいた。




