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第176話 竹トンボ

 冬になった。

 この国は雪が降るほど寒くはならない。

 1年中畑仕事が出来るから、まじめに働けばこれからは食べ物には困らないな。


 移民の子供達が広場で遊んでいる。

 500人中50人くらいは10歳未満だ。

 幼い子供達は畑仕事も手伝えないから、親が仕事をしている間はつまらなそうだ。

 娯楽が無いからね。


 そうだ、良いものを作ってあげよう。

 俺は子供達を集めた。

「いいかい、よく見ているんだよ」

 俺はそう言うとストレージから、以前に採っておいた竹を取り出した。


  ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、

   ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、

   ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、

  ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、ワイ、


「なにをするの?エリアス様~」

 子供達が聞いてくる。


「それはできてからのお楽しみだよ」

 俺はそう言うと幅2cm、長さ14cm程度の竹の板をナタと小刀を使い作る。

 そして表と裏を角度を付けて小刀で削る。

 15cmくらいの軸を作り、プロペラの中心にキリで穴を開け軸を差し込む。

 回したときに空回りしないように小刀を使って、穴と軸の先を三角形にする。

 これで完成。

 

「それ!!」

 俺は両手をこすり合わせ竹トンボを飛ばした。

「わぁ~凄い~!!」

「飛んだ~?!」

「本当だ、魔法なの??」

「違うよ、これは揚力《ようりょく》だよ」

「ほほう、揚力ですか?!」

 振り返るとアレン領ドゥメルグ公爵の執事アルマンさんがいた。


 セトラー国は出入り自由だ。

 交通手段は蒸気機関車しかない。

 鉱山で働く人達は事前に手形を発行している。

 それ以外の人達は客車が空いていれば、自由に出入りできるようにしている。


 そして気が付くと商人が多くなった。

 どの国でも出入りに入国料が取られ、商売をすればギルドに税金を払う。

 だがセトラー国には、それがない。

 住民は600人程度だが、ここでは食と住が保証されており給与は年棒制だ。


 そしてお金が無くても生活できるため、お金に執着しない人が多くなった。

 商人達は広場に露店を出し、衣服や女性向けの装飾品の店も多く並んでいる。

 街で商売をするより品物が売れるらしい。


 そして最近ではアレン領主ドゥメルグ公爵、執事のアルマンさんが様子見なのか定期的に訪れるようになっていた。

 それなら大使館を作ればいいのに。


「もう1度。やって頂けますか?」

「いいですよ」

 俺はそう答えると、再び竹トンボを飛ばして見せた。


「これは、凄い!!飛ぶことが出来るとは…。いったいどうやって?」

「あぁ、これは竹トンボと言って回転すると、羽に空気がぶつかります。羽がねじってあるので、ぶつかった空気は少し下の方に向きが変わります。この時に空気の流れは、羽の上の方が下の方より速くなります。流れの速いところでは、羽の表面を押す空気の力が小さくなります。羽の下から押す力の方が上から押す力よりも大きくなって、上に向かって飛んでいきます。この力を揚力といいます。ペラ、ペラ、ペラ、」


「は、はあ??」

「つまり重さを軽くして、回転速度を増やせば飛ぶことが出来ます」

「飛ぶことができるのですね?」

「はい、そうです」

「わかりました!なんと素晴らしい!!ここに来て良かった」

 なぜかアルマンさんは、とても感動している。



「ではさっそく売ってください!!」

「いや~、これは子供達の玩具ですから…」

「そこをなんか…」

 公爵家の執事が子供達を差し置いて、おもちゃを欲しがるのか?

 子供達もジト目でそれを見ている。


「せめて2本売ってください」

「私にも!」

「私もお願いします!!」

 見ると何人かの商人さんも欲しいと言い出している。


 子供の玩具なのに…。

 大人の癖に…。

 子供達のブツブツ言う声が聞こえてくる。


 仕方がないな。

「分かりました。すぐに作ります」

 そう言いながら、俺は竹トンボを作って行く。

 そして卸値は1本400円にして、子供用の玩具なので安く売ってほしいと話した。


 アレン領に向う蒸気機関車は朝と夕方だ。

 朝、作業員を迎えに行き夕方、鉱物を降ろす時に送って行く。

 その夕方の蒸気機関車に乗りアルマンさんと、竹トンボを買った商人さん達は急いで帰って行った。

 お店で2本売っても儲からないだろう?

 そう思ったが切羽詰まった顔をしており、口に出せなかった。


 その後、竹トンボはシャルエル製作所の協力の元、子供達の玩具として全国に広まって行く。


◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 私はアレン領主ドゥメルグ公爵の執事アルマンだ。

 セトラー国は誰でも入国自由なところだ。

 1日2回、蒸気機関車が出ている。

 そして入国の検査も何もない。

 最近では親子連れの観光客が訪れ、1日遊んで帰って行くらしい。

 

 それを良いことに隣国の調査員が、商人に扮して紛れ込んでいる。

 今日も危なかった。

 まさか空を飛ぶものが簡単にできるとは…。

 竹トンボと言う画期的なものを、子供の玩具だと言うエリアス様には驚いた。

 しかし隣国の調査員には、売らないでほしいとはさすがに言えなかったが。


 やっと2つ購入しドゥメルグ公爵様に渡した。

 すると公爵様は1つは我が領に、もう1つは大急ぎで王都に送ると言った。

 そうだろう、研究の価値があるものだ。


 だが急がねば。

 隣国も竹トンボを解明し空を飛ぶことに力を入れるだろう。

 空を飛べれば偵察や軍事的にも優位に立つことが出来る。





 各国は魔導士や学者を総動員し空に飛び立つ研究に乗り出した。

 空を飛ぶ。

 今まで不可能だと思われたことが、可能になるかもしれない。

 そして一番最初に飛んだ国が、世界を制することも夢ではなくなる。

 

『空を自由に飛びたいな』

 それを合言葉に、各国は力を入れていく。


 しかし高額な魔道具や人材を揃えても、空を飛ぶことが出来る国はなかった。

 こうしている間に他国に差を付けられる、そう思いながらも研究は頓挫していく。



 ある日、諸外国は気づいてしまった。


 竹トンボでは…空は飛べない…と。


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