第163話 線路は続くよⅢ 妖精の村 テオドーラ
陽が昇った。
私はテオドーラ村の牧場主の1人だ。
クリームシチューを作ってから、たくさんの人が村に食べにくるようになった。
村人は苦労が絶えない農業を捨て、食堂や宿屋を作った。
街に行き景気の良さから、多額の借金をしてまでだ。
しかし良い時期は短かった。
訪れる旅人に対して食堂や宿屋が多すぎた。
店は赤字を抱え、それを返済をするために以前と同様に農業を再開し、少しでも足しになればと食堂や宿屋と並行で働く村人が多くなった。
そんな時だった。
精霊様にまたお越し頂けたのは…。
しかもお供の方までお連れになってだ。
以前と変わらぬ笑顔で、お乳とチーズを所望された。
村人と一緒に乳絞りもした。
夢の様な時間を、その場に居た村人は過ごした。
夜明け前に精霊様達は、以前と同様に忽然と消えていた。
この村の有様を見て心配された精霊様は、司祭様にこれからの活路と赤い魔石を2つ託された。
精霊様のお休みになる広場を奪った、村人の1人であるこの私達のために。
それから数日後、ここから一番近いウォルド領に行っていた司祭様が村に帰って来た。
精霊様が残された4~6cmくらいの赤い魔石を売りに行って頂いたのだ。
その魔石はここら辺ではまず見ることが出来ない、上位の魔物の魔石だった。
買取金額は途方もない額になった。
村人達の借金はその精霊様の魔石を売った金額で補って良いと言う。
司祭様が精霊様から託されその話を聞いた村人達は感銘を受け、二度と身分不相応なことには手を出さなかった。
それから村人達は変わった。
以前と同じように、いいやそれ以上にまじめに農業に取り組んだ。
精霊様から授かった知恵をそのまま生かし、曲げることなく今も実行している。
それをすることで村を存続、いいや発展させ続けている。
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チーズとクリームシチュー発祥の地と言えば『妖精の村テオドーラ』が有名だ。
ある日、何もない村に黒髪と黒い瞳の妖精が現れた。
妖精は高齢で過疎化した村に、チーズと濃厚クリームシチューという新しい陽の光を当てた。
丁度、街道も整備された時期と重なり、濃厚クリームシチュー目当てにたくさんの人々が訪れた。
街道の道が整備され道幅が広がったことで、盗賊の待ち伏せ被害が減ったからだ。
人通りが多くなれば、盗賊も襲う事もできず魔物も出て来なくなった。
だがそれもつかの間、村はやっていけなくなっていた。
浮かれ過ぎていた。
何も考えず借金をし各自で食堂や宿屋を建てたからだ。
売上はなくとも返済日はやってくる。
支払いのため農業に戻り朝から晩まで働き、それでも足りず夜は食堂や宿屋で働く日々だった。
そんなある日、精霊様がお供の者を連れ、1年ぶりにやって来たと言う。
まるでその後の様子を見るかのように。
村の有様を見て、とても愁いだそうだ。
それでも精霊様は村を見捨てなかったと言う。
翌日シャルエル教の司祭に村の再建と、赤い魔石を2つ託されどこかに消えた。
村の再建を託された司祭は、魔石を手に街に向い売却すると高額で売れたと言う。
その金額を持ち帰り村人に分け与え、目を覚ますように諭したと言う。
支払を返済した村人は、精霊様の再建案を見事に実行し村は再興を遂げた。
『テオドーラ』の食堂や宿屋は、この大陸で初めて村人がお金を出し合い共同で経営をした『共同出資』の村だ。
当初のクリームシチューでの失敗を糧に、住民同士がお金を出し合い利益から配当を分配した。
彼らは通常通り農業をしながら、村長、司祭の管理の元、共同で食堂や宿屋を営んで行く。
競合する施設が無くなったことで、売上も上がり今日まで続く体制が整ったと言う。
その後、広場には家一軒分の空き地が今も残っている。
それはあの時に戻って来た精霊様一行に、野営をする場所を提供できなかった村人達の贖罪の気持ちの表れだった。
交代で毎日、掃き掃除の当番があり親から孫へ、孫から更にその子へと受け継がれていく。
あの時の精霊様達が、いつまた立ち寄っても良いように…。
今度こそ、ゆっくり休んで頂けるようにと。




