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第161話 線路は続くよⅡ テオドーラ村

 15時になったくらいだろうか、テオドーラの村が見えてきた。

 小さな村だから宿屋も無く食堂も無い…はずだった1年前までは…。

 いったいどうしたんだ?

 宿屋の様な建物が建ち、旅人がたくさんいる。

 観光地になった?

 まさかね?


 俺達は村に入りリヤカーはストレージに収容した。

 以前にムッカの(牛もどき)お乳とチーズを、分けてもらった牛舎に向かう。

(※第73話 濃厚クリームシチュー テオドーラ村参照)

 もういいや、ムッカは面倒だから牛で。


「こんにちは!」

 俺は牛舎の側にある平屋の家の前に立ちをかける。

 返事が無い。

 誰も居ないのかな?

 そう思った時、家の裏側から誰かが出て来た。

 以前、話したことのある牧場主さんだ。


「こんにちは!お久しぶりです。覚えていてくれていますか?」

 俺が声を掛けると牧場主さんは、手に持っていた籠《カゴ》を取り落とし野菜がそこから落ちこぼれた。

「精霊様…」

 すると牧場主さんは何かを呟き、目を見開き驚いた顔をしていた。


「こんにちは!大丈夫ですか?」

 あれ?覚えてくれていないのかな?

 そうだよね、1年以上前のことだもの。

 でも俺なら印象に残ると思ったのに…。

 少し残念だ…。


「え、ええ、大丈夫です、驚いたもので…」

「実は前と同じように牛のお乳と、チーズを分けて頂ければと思いまして…」

「も、もちろんです。少しお待ちください。今呼んでまいります、事前に分かってたら家の中も綺麗にしていたのですが…、汚いところなので、入って頂くわけにも行かず…」

 な、何の話?

 すると突然、牧場主さんはどこかに走り出し消えた?


 モゥ~~~。モゥ~~~。モゥ~~~。モゥ~~~。

  モゥ~~~。モゥ~~~。モゥ~~~。モゥ~~~。

 しばらく待っていると牛の鳴き声と共に、たくさんの村人が牛を20匹くらい引き連れて人がやって来た。



 牧場主さんが俺に駆け寄る。

「妖…様、今いる村人に声を掛け集められるだけ、牛とチーズをお持ちしました」

「あ、ありがとうございます…」

『分けて』とはいったけど。

 牛ごと、とかは…。

 そんなに余って…、生活に困っているのか、この村は…。

 あんなに旅人が来ているのに…。


 そう言えばこの村はこのまま王都に行くと夜中になるから、途中で一夜の場所を借りる村だったはずだ。

 道で野宿するより村の中の方が安全なので、広場を借りて野営をする小さな村。

 野営用の広場を借りるだけではお金は落とさないからな。

 大変なんだね。


 司祭様が居る。

 さすがシャルエル教。

 前回来た時は気付かなかったけど、こんな辺鄙《へんぴ》なところにも教会があるなんて。

 帰りに寄付をしていこうかな。



「エリアス様、こんなにたくさんの牛さんをどうするのですか?」

 エリザちゃんが俺に聞いてくる。

 すると司祭さんが突然、ハッとしたする。

 そしておもむろに俺の前に進み出て、膝《ひざ》を付き両手を胸の前で組む。


 し、しまった~!

 シャルエル教の司祭クラスなら、俺のことを知らないと思ったが…。

 まさか俺のことを知っている人が居るとは…。


 するとその場に居た村人達が跪く。

 あれ?

 村人は俺のことは知らないはず。

 何に対して跪いているのだろう?

 司祭さんのお付き合い?


 すると村人の中から背中の曲がった老人が出て来た。

「精霊様、私はこの村を預かる村長のブレームスです。本日はようこそお越しくださいました」

 精霊様とは、俺のこと?

「あっ、いえ、俺はエリ…「なりません!!」

 名前を名乗ろうとすると司祭様に止められた。

 あぁ、そうか。

 もし将来的に『愛し子』が有名になったら、名前をここで名乗ると『エリアス』と言う名前も有名になるから名乗るな、というのですね。

 はい、はい、わかりました。

 でもさっきエリザちゃんも、俺のことを『エリアス様』と呼んだよね?

 それは良いの?

 いいのかな~。


「では…精霊と言う事で…」

 自分で自分のことを『精霊』と呼ぶなんて。

 どんな羞恥《しゅうち》プレイだ。


「おぉ、やはり精霊さまでしたか、あなた様のおかげで、この村は潤いました…」

「そ、それは良かった…」

「さあ、お受け取りください。牛とこの村で作った、あなた様に名付けて頂いたチーズです」

「あ、ありがとう…ございます…」

 チーズを受け取ったが良いが、お乳は絞らないと手に入らない。

 リアルで牛を差し出されてもね…。

 仕方がない。

「ではみんなで手分けをして乳を搾って頂けませんか?絞った乳はこの桶に入れてください」

「 わかりました!! 」

 村人達はそう言うと桶を受け取り乳を搾って行く。


「私もやりたいです、エリア…『あっ、駄目だよ、エリザちゃん。この村にいるときは俺は『精霊』と呼んでくれないか』

 俺はエリザちゃんにそう囁く。

『どうして、でしょうか?』

『遊びです、エリザちゃん』

『遊び?楽しそうですね。ではアリッサお姉さまは?』

『俺を守る弓の精霊です』

『オルガお姉さまは?』

『剣の精霊です』

『ノエルお姉さまは?』

『智の精霊です』

『では、私とネリーは?』

『生まれたばかりの精霊と、それを守る精霊、というところかな?』

『まあ、酷いですわ、精霊様~』

『あははは!』


 みんなで牛の乳絞り体験を楽しだ。

 とてもいい経験になった。

 村興しには良いイベントだよね。


 お金を払おうとすると、いらないと言う。

 いくらイベントとはいえ、無理はよくない。


 俺はそう思った。

 村人は最初、受け取らなかった。

『恵みには応えなければいけないい』

 俺がノリで精霊のようなことを言ったらみんな受け取ってくれた。

 よかったよ、冗談の分かる人達で。


「精霊様はどうして、この村においでに?」

 牧場主さんに聞かれたので、線路のこと以外を話した。

 

 1年前に婚約した、一緒に住んでいる嫁の実家に行くこと。

 両親には何度かあったことはあるが、実家に行くのは初めてだから気が重いと。

 すると『精霊様の世界も大変なのですね』と笑われた。



 村のイベントも終わり司祭さんに渡す、寄付のお金の額をノエルさんと相談した。

 それに何やらこの村は大変そうだ。

 以前来た時は何もなかったけど、人々の顔には生気があった。

 でも今は追いつめられた顔をしている。

 こんなに旅人が居て食堂や宿屋があるのに…。


 個人ならいくらでもいいけど、『愛し子』やエリアス商会の名なら、それなりの金額にしないと体裁が悪いと言われた。


 俺は司祭さんにこの村のことについて聞いた。

 すると司祭様は『明日にも村の半分が、夜逃げをする状態です』と言われた。

 どうしてだ?

 提案したクリームシチューでは駄目だったのかな?


 俺は現状を聞き責任を感じた。

 村人につまらぬ夢を見せてしまったと。

 ノエルさんと相談した結果、少し多めに寄付をする事にした。

 寄付額が多くなると嫌みになる。

 だから換金の手間ができるが、4~6cmくらいの真紅の魔石を司祭様に手渡した。

 そしてこの村のために使ってほしいと言付《ことづ》けた。

 司祭さんはとても驚き、言葉が出ないようだった。

 アレン領のシャルエル教団にはお世話になっているからね。

 それにアスケルの森にいれば、魔物を倒せば魔石はいくらでも手に入る。

 ストレージの中に、もう要らないくらい魔石がたくさんあるから。

 開拓村に居たら換金しても、お金を使わないからね。


 売ればそれなりにはなるだろう。

 エリアス商会のエリアスは、ケチだったなんて思われたくないしね。

 人間生活に余裕が出てくると、見栄が出てくる。

 いやだね、ほんと。

 そして俺はある提案を司祭様にした。

 すると司祭様は驚き、納得されていた。

 うまく行くといいけど。



 今夜も前回と同じように、広場にログハウスを出して寝よう。

 そう思い広場の方向に向おうとした時だった。

 牧場主さんに『もう広場はありません』と、とても悲しそうな顔で言われた。

 どうしたのだろう?

 牧場主さんのご厚意で、その夜は牧場の空いているところを借りることができた。

 好きに使っていいてさ。





 

 翌朝、俺達は前回と同じように早起きをして村を出た。

 他の旅人と一緒にならないように、まだ陽が上がらない暗い内だった。

 いくら空間をストレージで包んで、音が出ない様できても俺達の前に他の旅人が歩いていたらやりずらいものね。

 自転車に乗りリヤカーを引き、速足で村を後にする。

 俺達はレベルも上がった。

 きっと一般の人から見たら、一瞬で消えた様に見える早さだろうけど。

 牧場主さんに事前に話しておいたから、出発の挨拶はいいよね。


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