第158話 奴隷解放と左手の煩悩
俺は今、エリアス商会の応接間にいる。
「アルバンさん。アルシアさんとアディちゃんを、呼んでいただけませんか?」
「2人をですか。お待ちください」
アルバンさんは客間を出ていき、アルシアさんとアディちゃんを連れてきた。
「お呼びでしょうか?エリアス様」
「エリアスお兄ちゃん、お話ってなあに?」
「これ、駄目でしょアディ。エリアス会長でしょ」
「だって初めて会った時に『お兄ちゃん』て呼ぶように言われたもん」
「よく覚えていてくれたねアディちゃん。さあ、3人共座ってください」
俺は3人に目の前のソファを勧めた。
「いったいどんなご用でしょうか?エリアス様」
「約束を果たそうと思いまして」
「「「 約束?? 」」」
「えぇ、そうです。みなさんを購入した際に支払った分、働いたと思ったら『解放』すると約束をしましたね。もう十分、いいえそれ以上の利益が出ていますから」
「と、いいますと」
「みなさんを奴隷から解放致します」
「「「 えぇ!!本当ですか 」」」
「みなさんと出会ってから1年近く経ちます。その間に商会がここまで大きくなったのはみなさんの力ですから」
「そ、そんなエリアス様。私達は言われたことをやって来ただけで」
「それが中々できない事なのですよ。そしてこれからは管理者を育てていきましょう。必要になってからでは管理者は間に合いません。ですから良さそうな人が居たら出自を問わず雇ってください。そしてその人だから、これをやらせてみよう、と思うような仕事を与えていきましょうか」
「では今まで通り雇って頂けるのでしょうか?」
3人共、不安な顔をしている。
「勿論です。それともエリアス商会はもう嫌になりましたか?」
「と、とんでもありません。こんな快適な職場はどこにもありません」
「では明日からもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。エリアス様」
アルバンは胸を撫で下ろした。
以前より自分達を買い戻せるほどの収入は得ていた。
だが奴隷から解放されることで、立場がどう変わるのか不安だった。
奴隷の方が生活が安定していて、幸せな生活が変わるのが怖かったのだ。
「では奴隷契約の解除を致しましょう」
「解除ですか?奴隷商には行かないのでしょうか」
「えぇ、行きません。実は最近、独学ですが契約魔法が使えるようになりまして」
「独学で、ですか!さすがはエリアス様です」
アルバンは驚いていた。
エリアスが奴隷契約の解除を独学で学び、試したいなどと言うとは。
いつもエリアス様は自分が考える、遥か上を行っていると思っていた。
「ではみなさんの胸の紋章を見せてください」
アルバン達の奴隷契約は特殊だ。
契約魔法を掛け首輪の代わりに胸に紋章を刻んでいる。
違反行為をすると、胸が締め付けられる様になっている。
紋章は人から分からない様にと、魔法で胸の間に刻んである。
服で隠しておけば奴隷だと分からないからだ。
「お願いします、エリアス様」
3人は服をたくし上げた。
試したいことはこれだ。
俺のストレージはカスタマイズ可能になってる。
魔法や炎などの攻撃は収納できることは知っている。
契約魔法も可能なのか試したかった。
だが中々、契約魔法自体にお目にかかることが無い。
奴隷解放に合わせて、いいチャンスだった。
「では行きます!」
最初はアルシアさんからだ。
俺は胸の間にある紋章に左手を置いた。
集中だ、集中するんだ。
俺は気持ちを集中させた。
『アルバンさんの奥さんの、アルシアさんは26歳』
集中、集中。
『まだ若く子供を1人生み、体の線がやや丸くなり』
集中、集中、集中。
『柔らかそうな肌と、母性愛に満ちた胸』
集中、集中、集中、集中。
『そしてアルシアさんの、甘い香りがする…』
ま、不味い!
集中するところが違う。
しばらくすると左手が青白く光り始めた。
で、できる!
できるぞ~!
「あっ!」
アルシアさんが目を閉じ、唇を半開きにして顎を少し上げる。
あふ~~~ん!!
『こ、これは贈物か!』
煩悩だ、煩悩を捨てろ!
ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!
ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!
だ、駄目だ。
108つもあれば、捨てきれない!!
そ、そうだ!
【メンタルスキル】沈着冷静が働き、気持ちが収まった…。
ふぅ~!危なかった。
名残惜しいけどいつまでも、胸をたくし上げている訳にもいかないからね。
もう、いいかな?
左手を胸から離すと光が収まり、奴隷紋は消えていた。
おう、やった~!
契約魔法も収納できたぞ!
「アルシア見てみろ、奴隷紋が消えている!」
「えっ、あなた本当だわ。あ~夢の様だわ」
アルシアさんが目を潤ませて喜んでいる。
それから俺はアルバンさんやアディちゃんの奴隷紋を、右手で消していった。
「凄いです、エリアス様。本当に消すことが出来るなんて」
「エリアスお兄ちゃん。お母さんの時はあんなに長かったのに、お父さんと私の時は早かったね」
「そ、それは慣れだよ。アルシアさんは初めてだったから、時間が掛かったんだよ」
「なんだ、そうだったのか。ジ~~~」
「それからみなさん、これからも俺のことやエリアス商会の事は、守秘義務を守ってくださいね。あははは!」
「勿論です。これからもエリアス様に付いて行きます」
3人はとても喜んでくれた。
この世界に転移して初めてできた家族みたいな人達だからね。
喜んでもらえて俺も嬉しかった。
ストレージの中を見ると『契約魔法:3』となっていた。
その後エリアスはしばらくの間、《《左手》》を洗わなかったと言う。
エリアス・ドラード・セルベルト16歳。
35歳で人生が終わり、15歳でこの世界に転移してから1年が過ぎた。
精神年齢も肉体と同じように若返る。
そして色んな事に興味を持つ年頃を、また繰り返すのであった。
ぶふっ!!




