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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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10-3


「さて、斎藤くんが現状を理解したところで本題に入ろうか。一応聞いておくけれどボクらに協力する気は無いかな?」



 1時間も話倒したので満足したのか、ザマス眼鏡の雰囲気が変わる。気怠そうだった目元は疲れが吹き飛んだように鋭いものに変わっている。

勿論ストレス解消したからというだけではなく意識的に変えているのだろう。

 交渉を有利に進めるために真面目に威圧しているのだろう。


 それに対してあくまでも軽薄に、飄々とを意識して答える。



「協力ではなく傀儡あるいは奴隷の間違いでしょう?」

「そんなことは無いよ。こちらにも都合があるから気が乗らない仕事をこなしてもらうこともあるかもしれない。けれどそれは何処にいても同じじゃないかな」

「それはそうですが、お断りさせてもらいます」



 ザマス眼鏡の言う通り何処でもしがらみなんてものはある。そういったしがらみに縛られず好き勝手に生きられる人間など稀だろう。

 それが出来るのは力があるか、あるいは何も顧みない阿呆か。

 俺にはその力はなかったし、阿呆にはなれない。


 そんなことは理解しているがそれが許容できるなら初めから断っていない。



「そうか。それは変わらないのか困ったね」



 口では困った、など言ってみせるがそこに感情は無い。ただ流れとしてそう反応しなければならないから口にしただけだろう。


 それにザマス眼鏡も俺が簡単に折れるとは思っていないだろう。寧ろ断られる前提でいくつものパターンを推測し手札を準備しているはず。

 お願いすれば何とかなるなんてそんな主人公じみた妄想を抱くはずがない。



 ザマス眼鏡はタブレット端末を取り出してひとつ目のカードを切り出した。



「こちらとしても協力してもらえないと困るからね。こんな事は本来ならしたくないんだけれど、仕方がないよね」



 やはりザマス眼鏡の言葉には感情がない。勿論抑揚があり棒読みというわけではないのだが言葉が本心ではないことが嫌と言うほど伝わってくる。

 要するに脅しの開始だ。


 ザマス眼鏡の取り出したタブレットには4人が映っていた。

 アイマスクにヘッドホン、口はテープでふさがれ手足を拘束され身動きできない状態。リアルタイムなのかは不明だが静止画ではないようで映る4人はもがいている。それも必死に。


 誰がどう見ても人質でしかない。


 そしてその人質の顔には見覚えがあった。

 たしか両親と姉と弟である。



 やはり人質は関係性のある相手でなければ意味がない。そういった意味で俺に対する人質に両親と姉弟を使うのは理解できる。現状俺に関係のある人間などそれくらいしかいない。

 だが、理解できるだけだが。



「それを見せられて自分にどうしろと?」

「さあ、どうだろうね」



 ザマス眼鏡は明確に何かを言わない。何かを言わなくても伝えたいことを理解するのは難しくない。

 至極簡単、見た目通りだろう。


 この手の脅しは明確に言葉にするより相手に推測させた方が効果を出す。他人に言われるより自分で考えた方がより最悪を想像するモノだ。


 あまり強い言葉を使うな。弱く見えるぞ。

 というやつだ。



 タブレットを手にとり見せつけるようにしてザマス眼鏡は問いかけてくる。



「さて、斎藤くん。もう一度聞くけれどボクらに協力してもらえないだろうか」

「その答えはさっきしたと思いますけれど」

「聞いたね。でももう一度聞いているんだよ。状況は刻一刻と変化しているからね。斎藤くんの心情にも変化があるんじゃないかなと」



 ザマス眼鏡は平然と言ってみせる。

 やはりそこには焦りも緊張も何もない。唯の事実であるように問いかけてくる。それが一層とプレッシャーになる。


 この手の交渉事だ。本当に何かをするくらい難しくないだろう。そこには躊躇いも慈悲も何もないだろう。

 勿論何も言われていないので誘導された思い込みでしかないのだが脅しで終わるはずがない。


 非日常には人権やモラルなんてものもない。

 感情に訴えかけるような何かをしてくるはず。


 しかし。

 しかし、だ。



「さっきも言いましたが、お断りさせていただきます」



 今更そんなものでは変わらない。

 それくらいの事は予想出来る。というよりもそれの対策は既にとってある。寧ろそんなことでどうにかなると思われているなら心外だ。


 それに。



「一応言っておきますが、その手の交渉は下策だと思いますよ。竜泉寺あたりに事がしれたら大変になると思いますが。何せ主人公様ですし」



 この手の策は主人公様の最も嫌うひとつだ。主人公は人を無理に縛ることを嫌い、他人を従わせるために容易に命を使う事を好まない。

 それを交渉術だと認識していない。


 そうした子どもの正義感があるから主人公様は面倒なのだ。

 勿論、それがあるからこそ強いのだが。


 当然そのことをザマス眼鏡は知っているので動揺は無い。



「斎藤くんが何を言っているかは分からないけれど、何も問題はないよ。ボクらには力がありある程度のことは出来る。必要なものは用意できるし、なければ作ればいいだけだからね。それがどんなものであってもね。無くなっても同じものを用意すれば何も問題はないだろう?」



 笑顔で言ってのけるザマス眼鏡に背筋がゾクリとする。

 不要になれば切り捨てる。必要なら作り出す。

 目的の為ならそれを人間に対してもやってのける。


 もしかしたら俺の知らない間に何人も入れ替わっているのかもしれない。全く同じ顔で同じ性格で、それでいて誰かに都合のいい人間に入れ替わっているのかもしれない。


 そのことに恐怖すると同時にどこか腑に落ちる。



 都合よく物語を進めるためには配役が必要になる。そして役を与えられた演者は監督の指導通り動かなければならない。多少のアドリブなら構わないが監督に反旗を翻すようなことがあれば下ろされることもあるだろう。そして空いた役には新たな演者があてがわれるのだろう。


 物語と考えれば当然のことだ。

 それを現実でやるなど狂気の沙汰でしかないけれど。


 ため息ひとつつき呆れを見せてみる。



「実に物騒なことを言いますね。何をするかは知りませんが自分に関係ないところでやってくださいね。まあ既に面倒に巻き込まれているんですけどね」



 生憎俺は主人公様の様に現実に甘美な夢を求めていない。

 現実とは残酷で面倒で、そんな面倒な事はいとも簡単に起きている。

 それを理解しているからそんなことでいちいち絶望しないしそんなことでは慌てない。


 肉親の人質など珍しいものではない。



 俺が呆れを見せたことでザマス眼鏡が初めて揺らぐ。

 しかしそれは動揺や驚きなどではなく軽蔑などの類だ。



「肉親相手にそこまで軽薄にいられるとは。やはり君は既に人間ではないんだな」



 ザマス眼鏡の言葉に初めて感情がこもる。

 肉親の命が危機にさらされても平然としていられることを非難しているつもりなのだろう。


 しかし、そんな非難をザマス眼鏡に言われたくない。非難されるような状況を作ったのはザマス眼鏡たちであり俺が望んだものではない。

 仮に俺の行動で誰かの命が危機にさらされててもそれは俺の責任ではない。

 最終的に判断をして手を下すのはザマス眼鏡たちだ。


 あくまで飄々としているとザマス眼鏡が深刻そうにため息をつく。



「そうかい。じゃあこれはいらないんだね。これも君がとった選択だよ」



 タブレットを手にしてザマス眼鏡は何かをする。

 その何かを終えると再度タブレットを見せつける。


 やはりそこには4人が映し出されていた。

 違うのはテープが剥がされ喚き声が聞こえてくる。誰かの名前を叫び命乞いが聞こえてくる。実に必死だ。


 しかし、その声には誰も手を差し伸べることは無い。

 誰かが登場して救い出されるなんてこともない。


 そこに1人の覆面が現れる。その覆面の手には拳銃があった。こちらに見せつけるように持っている。

 拳銃を持った覆面は姉らしき人物の後ろに立つと何を思うでもなく、あっさりと引き金を引いた。


 そして、人1人が倒れた。

 あっさりと。



 その一部始終を俺は声ひとつあげることなく眺めていた。



 しばらくしてようやく理解した。

 彼らが叫んでいるのは俺の名前なのだと。




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