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9-7

 動く、といっても馬鹿正直にテイラー氏の元へは行かない。

 本人の元へと向かうのは最終段階の一度のみだ。



 よし子さんには俺の行動がまどろっこしいようでさっさとテイラー氏の元に行って脅すなり呪術を使うなりをして駒にすればいいと訴えている。

 その気持ちは分からないでもない。

 主人公などは状況など考えずにヒロイン、あるいはそれに準ずる人間を助けてまわる。


 しかし、本来であれば助けただけで状況は変わらないのだ。

 極端な話、折角ヒロインを助けても悪役にされてしまえば追いつめられる。

 どんなに助けられた本人が嬉しく思っても、その行動がどれだけ倫理的道義的であってもそれだけでは意味がない。


 仮にテイラー氏の元へ行って協力を取りつけたとする。

 しかしそれを気に食わない勢力がいた場合俺の行動を悪だと断じるだろう。

 その声に抗う力がなければ俺は悪者になる。



 平和ボケした平穏な法治国家である日本でも冤罪はある。

 それも何も考えない阿呆な人間のたった一言で成立してしまう。

 法治国家でもこの有様。

 力が物を言う非日常など正しいだけでは意味がない。

 力無き正しさなどに意味はない。



 その抗う力とは何も暴力だけではない。

 勿論武を持って力を示すのも1つだが、世間一般様の大きな力は数だ。


 どれだけ正しく真っ当な事を言ってもその言葉に味方してくれる数がなければ意味がない。

 大勢がそれを悪だと断じてしまえば悪になる。

 そこには優しさなんてものは無くあるのは力あるものの都合のみ。


 現実とは御話様に正しく真っ当ではないのだ。



 そんな訳で多数派工作というのは必要なのだ。



 綾香とよし子さんを引き連れて向かったのは高野山の付近にあるリゾートホテル。

 それも子どもがそうそう簡単に泊まれないような高級感のあるホテル。

 そんなホテルをオセアニアが堂々と本陣にしていた。


 コテージの最上階の角部屋。

 そこが組織の中枢のようでそれなりの能力者が集まっている。


 コテージを貸し出すタイプのホテルのようで一軒丸々貸し切りにしてあった。

 収容人数もそれなりにあるようで何故か女子どももいた。というか多分家族連れ。

 何とも平和な事だ。



 一応コテージ周辺から警戒態勢がとられているが所詮モブ勢力。


 綾香を脇に抱えて一気に走り抜ける。

 気配を殺しているので見つかることも少ない。

 運悪く出くわしてしまった下っ端も攻撃するほどの反応速度は無いので無視して進む。


 そしてそのスピードのまま跳躍し本丸に飛び込む。

 物語の様に窓ガラスを粉砕しながら突入する。


 勿論、ゆっくりと入る余裕はあるのだが遊びだ。意味はない。



 ガラスを壮大に散らかしながら突入すると20畳程度の部屋に6人の大柄な男性がいた。

 みな恰幅が良く室内が小さく見え、冬なのにかなりむさくるしい。



 突然の訪問に虚をつかれた男どもだが俺たちを見ると気を持ちなおしたのか怒鳴り声をあげる。

 なんだかすごいことを言って莫迦にしているような雰囲気だが全く分からない。

 こちらが止まっていると何を勘違いしたのかまた何か言って笑いだした。


 日本語で喋れ。



 おそらく突然の訪問に驚いたのだが相手が子どもで気が抜けたのだろう。

 おまけに気配を隠しているので弱者と判断したのだろう。


 別に侮りを受けるのは問題ないのだがまともに対話できないのは面倒なので少しだけ本気を出す。



 隠していた気配を垂れ流しにする。

 気配は直ぐに隠さず相手に染み渡るような間を取る。

 予想通り弛緩していた雰囲気は一転して張りつめ相手方は臨戦態勢になる。


 しかし、戦闘が目的ではないのでしばらくすると気配を再度隠し微笑んで見せる。



「ちょっと御話をしましょう。日本語話せる人はいますか」



 気配を隠すと相手方は少しホッとしたようでどうやら会話が出来そうだ。



「やっぱりお兄さんはそういう人なんだ」

「諦めた方が良いよ。潤はこれで対話しているつもりだからね。こんなのどう考えても脅しでしかないのにね」



 何やら戦力外どもが言っているが無視だ。

 これも歴としたお話だ。いや、OHANASHIだ。

 それはいいとして。


 相手方は何やら密談を始め納得を見せると1人が前に出た。



「私がクレイグ・キッドマン。極東作戦の第三席を担っている。他のモノは日本語があまり上手くない。悪いが私が対応させてもらう」

「こちらは誰でも構いませんよ。会話が出来るなら」



 身長は2メートルに届きそうな高さに加えラグビー選手のような体の密度。

 偏見でしかないがオセアニア系のザ・黒人というような人物だ。かなり強そう。



「それで坊やは何をしに来たのだ? 悪いが茶葉を切らしていてね、おもてなしは出来ないのだが」

「構いませんよ。用件が済んだらすぐに帰りますし」



 会話といってものんびりするモノではない。

 相手方は油断なく、それこそ戦闘でもするかのように鋭い眼光でこちらを観察している。


 こちらものんびりと談笑をするつもりは無いので面倒な部分は省くとしよう。



「さて、ここに来た目的ですが。どうですかオセアニアの皆さん自分の駒になって見ませんか」



 既に鋭い眼光だった相手方の瞳が更に鋭くなる。

 自分でもかなり失礼な物言いだと思うが意外にも相手方は冷静らしい。

 キッドマンは話せる御仁らしい。

 

 キッドマンは大人しく聞くそぶりを見せるので言葉を続ける。



「推測ですがあなた方には世界を制しようとする野心はない。精々周囲に負けないようにする程度。テイラー氏を是が非でも取り込もうとしないあたりにそれがうかがえる。勿論推測でしかありませんが。そういった行動理念なら自分の話は益があると思いますよ」



 一度言葉を区切るがキッドマンは口を挟む素振りは無い。

 拒絶も肯定も見せないので言葉を続ける。



「現在世界規模な面倒事が進行しているらしい。それがどう転ぶかで世界の覇権が決まる。そんな阿呆みたいな話があります。それに自分は巻き込まれています。そんな自分と懇意にしていれば上手く物語に絡んでいけるかもしれない。もしかすると勝ち馬に乗れるかもしれない。テイラー氏なんて小さいものよりそっちの方が利権は大きいと思いますよ」



 勿論世界規模の面倒事とはレオチャンの事だ。

 あれが本当に周囲を振り回す主人公というなら彼の物語には世界的な意味がある。


 そして当然そこには利権が生まれる。

 物事の表と裏でどちらにいたかでその後の世界における立ち位置が変わる。

 それは当然テイラー氏などという一個人の話とは比較にならない。



「そんなことを言われても簡単には信じられないな」

「それは信じられれば承諾するという事ですか?」

「……私の一存では決められないが、少なくとも対話の余地はある、と思う。それに君の力は私らより強いのだろう。なら話を聞くしかない」

「今はそれで十分です」



 分かり切ったような難色だが会話の余地さえ生まれれば問題ない。

 こんな辺鄙の一構成員が全てを判断できるはずもない。

 そこまで都合よく進むことは期待していない。


 対話の窓が開いていればあとは事務担当者に任せるだけだ。



 俺との会話を切り上げたキッドマンは後方集団と会話をする。

 おそらく何を話したのかとそれをどう判断するかのやり取りだろう。

 残念ながら簡単にまとまることは無く口論の様なやり取りが繰り広げられ俺たちは空気となって待った。



 相手方のやり取りが収まったのはそれから十数分後。


 それも納得いくように終わったのではなく唐突と終わりを迎える。


 下っ端構成員らしき人物が乱入してきた。

 窓パリンに対する反応かと思ったがそうではないらしい。


 相手方は下っ端構成員の言葉を聞くと怒声とともに慌てて出て行った。

 何かしらのトラブルがあったようで慌てる中で言葉少なにキッドマンが説明をしてくれた。



「テイラーが拉致された」



 物語は一度動くと転がり続けるものだ。




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