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予想通りの想定外で現場は面倒なことになった。
ブラコンの首を撥ねるという僅かな隙。それを早乙女が見逃してくれるはずもなく拘束から抜け出されてしまった。そして当然その片手間に反撃を喰らうわけで。こちらはボロボロのボロ。胸に風穴を開けられたうえでの追い打ちなどヒトのすることではない。
対して早乙女も満身創痍。こちらは色々と人間を諦めているので何とかなるが、あちらさんはまだ一応ニンゲン。ニンゲンがどてっぱらに穴があけば平然としていられるはずもないのだが、一般人ではないのでまだ死ぬことは出来ず苦しんでいる。あの状況でしんどいのは痛みより死、というより自己消滅への恐怖だろう。早乙女が普通の人間なら、だけれど。
さて、事は面倒になったが悪い事ばかりではない。不幸中の幸いで早乙女に意識が戻り始めている。
無秩序にまき散らされていた諸々が弱くなっている。暴れまわっているというよりは制御と暴発が入り乱れているよう。体力的に肉体的に暴走を続ければ崩壊待ったなしなので生存のために頑張っているのだろう。
そんな早乙女に対して攻撃は容易ではないが難しすぎることは無い。開始当初よりは格段と気楽な状態だ。
暴走の原因は神崎に何やら薬物を投与されたから。それがどういったモノかは不明だが血液が流れ出れば多少薄まるのだろう。薬物が薄れたのか単に体力気力が無くなり弱体化しただけかもしれない。
まあ、理屈はどうであれ意識が戻り始めたという事実があれば問題ない。
心身の状況が状況なので簡単に意志が戻るという訳ではないようだが。
面倒なのはここからの選択。
これ以上早乙女を追い込むのも骨が折れる。出来ればもう少し、いやかなり能力を奪っておきたかった。奪取と損傷の収支は一応プラスだが劇的なモノはない。これでは労働の対価としては不十分。
とはいえ邪魔が入ったという事はこれ以上は面倒が列をなして待っているという事。ブラコンが何処の誰かは知らないがこんな場所にやってこられるという事はフィクサー側の駒だという事。下手に欲をかくと痛い目を見る。
つまりはこの辺りが潮時か。全くもって骨折り損だ。
「ロジィ、聞こえますか」
「ええ。それで、そちらは大丈夫なのですか」
「ああ、大丈夫ではないですが。取りあえず。ここからは物語の中に入りそうなので撤退しておいてください」
「……宜しいのですの?」
「距離を取ることに意味があるかは知りませんが、少なくともあなたが生きていれば自分は死にませんし。まあ、あちらさんも最後までは殺しはしないでしょうし」
「了解しましたわ」
物語が結末に近づいた様なので保険としてロジィを離脱させておく。
そのうち主人公様のご都合主義が発動するのだろうが、それに対して物理的距離がどれほど意味を成すのかは不明だ。何もないよりはマシという事での保険だ。
それにしても通信機も無しに連絡が取れるというのは実に楽だ。
まあ、ロジィは俺の一部なのだから出来て当然と言えば当然なのだが。その気になればロジィの視界を借りることも出来るので戦況の全体図を把握することも出来る。ロジィが不快感を示すのであまり多用する気はないけれど。
戦況としては特に変わり映えはない。各所でお遊びが繰り広げられている。双方の親玉は同一人物で理由付け体裁を整えるためだけに人命が消費されて行っている。
主人公様はといえば随分と近づいてきている。周りにいる戦力からすれば直ぐに早乙女の元にこれそうなのだけれど足踏み中。何か青春でもしているのだろう。
それについては俺が気にするモノでは無い。というか興味がない。
俺がすべきは目の前の哀れな生物との決着だろう。




